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十五、ラダの呪いは?

 ラダの部屋に連れられて、ライラはベッドに腰かけた。ラダはベッドわきに椅子を持って来て、ライラの向かい側に座った。立っているときよりは目線は近いが、それでもラダの目はライラの上にあった。ラダの顔立ちはやっぱり美しく、ライラは思わず見入ってしまう。昔よりももっと、綺麗な人に育った。昔からなにも変わらない、ライラには優しい、ラダ。


「すまない。ああなるのをわかっていて連れて行った」

「いえ……ラダくん、は。なんでお兄さんたちと仲が悪いのですか?」


 それは聞かなくてもわかっている。ルイスに聞いたからだ。だけれど、直接ラダから聞きたかった。ラダは重い口を開く。唇が開く瞬間にリップ音がした。よほど話したくないのだろう。


「俺の母は……兄上たちの母親の謀略で死した。と噂されている。が」


 切れ切れに、苦しそうに、


「仮にそれが真実だったとしても、兄上たちは知らぬことだ。兄上たちが望んだことでもない。だから俺は……兄上たちを嫌っているつもりはない。ないのだが」


 どうやらラダは口下手ゆえに、兄皇子たちと距離ができてしまっているようだった。確かにラダはわかりにくいのだ。ライラと再会した時だってそっけなかったし、そもそも小さいころ、ライラが引っ越す際に結婚しようと言ったことだって。ラダの本心がわからない。わからないけれど、これだけは言える。


「ラダくんの呪い、私が解き、たい」

「ライラ?」

「だって、だって。呪いを解く方法を見つけたらお兄さんたちとも仲直りできるでしょう?」


 そもそも、ラダが白きドラゴンだから、王さまはラダの誕生をたいそう喜んだ。白きドラゴンはこの国では特別な存在だ。だから、上の二人の兄たちは、ラダに嫉妬していたのではないだろうか。そのうち、ラダは自分が王さまの子供だとわかって、その上自分は頭を触られるとドラゴンになる呪い持ちだなんて知らされて、誰も信じられなくなって当然だった。


「ラダくん。このお城の書庫に入りたいんだけど」

「ああ、俺から話しておく。俺は国務に顔を出さねばならないだろうからな」

「国務?」

「ああ。この国では、結婚したら一人前。王さまも、俺たちの結婚に際し、国務の一部を俺に任された」


 喜ぶべきことなのだろうが、何分ライラたちは契約結婚の身だ。手放しで喜べないのが実情だった。ラダがライラの頭に手を乗せる。ぽふぽふ、と撫でつけて、そのまま立ち上がって部屋を後にした。


「なん、だったんだろう……」


 撫でられた頭を押さえて、ライラは思案する。もしかすると、髪の毛に寝癖がついていたのかもしれないと鏡を見ても、相変わらずさえない姿の自分が映っているだけだった。


 書庫に移動する間も、ルイスが護衛についていてくれた。ルイスは基本的にラダの護衛兵だが、城の中ではライラについていくようにラダに言われたらしい。書庫に迷いなく入れたのも、ルイスの案内あってのものだった。古くかび臭い部屋で、ライラはとある書物を探している。


「ルイスさん、白きドラゴン、乙女に――と話してくれましたよね」

「はい。わたしもこの書庫は隅々まで見ましたので」

「その書物、どれだか覚えていますか?」


 ライラは、まずそこから始めようと思ったのだ。ルイスが折角調べてくれていたことを、無駄にしたくはない。だからその書物を手掛かりに、なにか別の記載がないか調べようと思ったのだ。本を一冊抜き取ると、ほこりとカビが舞い、ライラは咳き込んだ。ルイスが迷いない足取りでライラを案内する。


「こちらです」


 ルイスさが持ってきた書物を広げると、中間のあたりに白いドラゴンの話があった。ハラハラとホコリ臭い本をめくる。該当のページを見つけ、しかし、書物が古すぎて先が読めない。白きドラゴン、清き乙女と出会いて――


「先が読めないな。作者は?」

 最後のページを見て、作者の名前を探す。

「アール・ド」

「アール・ド・ノフ。かの有名な歴史学者です」

「アール・ド・ノフ。確か、教科書に出てくる、エルフの末裔?」


 ノフ氏は有名で、その歴史書は小学院、中学院、高等学院でもあまたの文献が教科書に載っている。ライラはあまり勉強が得意ではないから、どんな内容かは忘れてしまったけれど。ホコリが立たないように本を閉じて、ライラは隣に立つルイスさんを見上げた。


「でも、亡くなっているんですよね。五百年は前の人物だし」

「はい。わたしもそう思って、この書庫にあるノフ氏の文献はすべて読んだのですが、どこにもドラゴンの記載はなく」


 ルイスはだいぶラダの忠臣だった。ラダの呪いを解くために、そうやっていろいろな文献を読んだのだろう。ならば、ライラが調べる場所はここではない。ここはルイスが読みつくしたのだから、ならばライラがすべきことは。


「その前に、少し外してくれませんか?」

「ライラさま?」

「あ、いえ。ラダくんのお母さんの件を調べたく」


 これだけの書庫だ、なにかしらの手がかりはあるだろう。ルイスは首肯し、書庫の外に出てドアの前で護衛を構えた。


「と、九年前よね」


 罪状記録書から始まって、第二皇子――ハルト皇子の母妃の書物を読む。


「ラダくんのお母さんの生誕パーティで……」


 その日は様々な国から人が訪れ、プレゼントも贈られた。メルからはゴブレット、オスロからは氷の彫刻、西域からは絹の織物。どれもよくある内容だった。


「しかし、ラダくんのお母さんを殺したとされる凶器は、柄まで血が?」


 普通、握っていた部分に血はつかない。夏なのに暖炉の火が燻っていたのも気になる。


「第一発見者は、オスロの王妃さま……」


 容疑者は、ルイス、オスロの王妃、ハルト皇子の母。凶器はハルト皇子の母の部屋から見つかった。しかし、


「悲鳴を聞いたのは、オスロの王妃だけ?」


 この頃、ラダに婚約者ができた。マリ王女という名前の少女で、ラダより二歳年下だった。オスロの王女だ。

 しかし、ライラはマリ王女についてラダからはなにも聞いていない。婚約がなくなったか、破棄した? どちらにしても、ライラにだけは話して欲しかった。

 考えがまとまらず、ライラは一旦書庫をあとにした。

 部屋を出て、ドアの前にいるルイスに話しかける。


「ルイスさん、ラダくんに会いに行きましょう」

「ライラさま、承知いたしました」


 ライラは書庫を出て、国務にいそしむラダを訪ねるのだった。

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