十四、ラダの兄弟?
華美なつくりの部屋には、シャンデリアが輝き、大きな長テーブルがある。一番奥に王さまが座り、間を開けて赤い髪の皇子さま、青い髪の皇子さまが座っていた。そして、その向かいには各々の妻らしき女性。
「なんだ、来たのか」
赤い髪の皇子さまが笑った。
「ああ、本当に結婚するとは思わなんだ」
青い髪の皇子さま。
妻たちも、ライラを見てくすくすと笑いを漏らしていた。歓迎されていないのはすぐに分かった。母親は違っても、同じ兄弟なのに。
ライラとラダは末席に座って、侍女が料理を運んでくる。まずはライラだからだ。
「その、ライラといったか。ラダのなにがよくて結婚したんだ? 皇子の地位に目がくらんだのならあいにく。ソイツは王にはなれぬよ」
「シドさまったら、いきなりかわいそうですよ」
シドと呼ばれた皇子は、席の位置からして第一皇子だ。赤い髪の毛をしているから、赤いドラゴンとはシド皇子のことだろう。
次いで、青い髪の皇子が、カラン、とカトラリーを皿に置いた。
「ああ、本当に。オマエがいると食事がまずくなる。オマエは平民のくせに、よくも城で食事なんてできるものだ」
青い髪の毛はサラサラできれいだ。第二皇子さまの妻が、「まあ、ハルトさまったら」と笑った。第二皇子さまはハルトという名前らしい。第一皇子さまはややくせっけでかわいらしい顔立ちだが、第二皇子はすっきりとした美青年だった。もちろん、どちらも美しいことには変わりない。この第二皇子の母が、ラダの母を殺した。と、されている。それは本当だろうか。
ライラは食卓を見回す。この中の皇子さまのなかでも、ラダは一線を画す美しさだった。ラダは母似だから、母がよほど美しかったのだろう。
王さまが咳払いする。
「ソナタたち。兄弟なのだから、仲良くせぬか」
「しかし、父上。結婚したときだけ一緒に食事をしようなどと。どう考えてもラダの考えが甘いのです」
シド皇子が臆することなく答える。ハルト皇子も頷いて、ライラたちに居場所なんてなかった。ライラはうっと言葉に詰まって、その場に立ち尽くしうつむいた。そんなライラをラダがエスコートして、席に座らせる。王さまは、兄弟の仲違いを見て心を痛めているようだった。
「俺に文句があるのならいくらでも言えばいい。ただ、ライラを悪く言うことは許さない」
「おうおう、なんだ? オマエはそんなに愛妻家だったのか?」
第一皇子のシド皇子が、下卑た笑いを漏らしている。シド皇子とハルト皇子の妻たちは面白くないらしく、ライラを見て、そうして、
「よほど夜の相性がいいのでしょうね」
「そうね。使用人の話じゃ、昨夜は早々に部屋にこもって、今朝だって一番遅くに食卓について。よっぽどそちらのお相手がお上手なのでしょう」
ほほほ、と笑うシド皇子とハルト皇子の妻たちに、ライラはやはり、なにも言えない。ライラたちはそんな甘い関係じゃない。けれど否定したらラダの立場が悪くなる。偽装結婚なんて王さまに知られたら、ラダは親子の縁を切られるかもしれない。なのに、言い返したのはラダの方だった。
「そういうお話が好きな妻を持って、兄上たちはお幸せですか?」
「は? ラダ、オマエ俺たちに喧嘩売ってんのか?」
シド皇子が立ち上がって、ラダの隣まで歩いてきた。ラダは相変わらず椅子に座ったままに、優雅にスープを飲んでいる。今日はコーンのポタージュだった。スプーンでスープを掬う仕草が様になる。スプーンの背でスープを撫でて冷ますと、シド皇子は優雅にそれを口に含んだ。
「喧嘩を売ってきたのは、兄上の妻たちですが?」
「だから、オマエの妻は飾りか? オマエじゃなく、オマエの妻に話してんだろ、ラダンもレミも」
ラダンさんというのがシド皇子の妻で、レミさんがハルト皇子の妻のようだった。ラダンさんはきれいなブロンズの髪にエメラルドの瞳を有す、スラリと背の高い女性だった。対してレミさんは背が低く、しかしかわいらしい顔立ちだ。髪の毛はきれいな黒真珠のようで、瞳はバイオレットで宝石のように美しい。
二人の妻に比べると、ライラはただの金色の髪の毛にグレーの瞳の、どこにでもいるようなありきたりだった。ラダのようにきれいな銀髪だったらよかったのに。ラダのような青い瞳だったらもっと自信を持てたのだろうか。
「だいたい、そんな平凡な娘を妻にするなど、俺の腹の虫がおさまらん」
シド皇子はどうやら、ライラのすべてが気に入らないらしい。平民であることも、平凡な見た目であることも。ライラは背中を丸めて、シド皇子とハルト皇子から少しでも隠れるように縮こまった。
「そうよねえ、せめてもっと、上等なドレスならまだしも。ただでさえさえないお顔なんだから、お化粧だって華やかにすればよろしいのに」
ラダンの言葉だった。ライラはラダンやレミに比べたら、そりゃあ花もないし色気もない。さらにさらに縮こまると、ラダンとレミがクスクスとライラを嘲笑った。ライラはこういう扱いには慣れている、はずだった。けれどこんなもの、慣れるはずがない。他者から貶されることは、なによりも怖く、なによりも悲しいことだ。それは、経験したものにしかわからない。ラダンもレミも、恵まれた容姿や家柄だから、きっとライラの気持ちは一生わからないのだろう。ライラが背中を丸めると、ラダがテーブルの下でライラの手を握った。
「ライラ、オマエは誰がなんと言おうと美しい」
「ら、ラダくん?」
「だから、そんな顔をするな」
ラダが握っていた手を離して、そのまま隣に座るライラの肩を抱く。シド皇子はあからさまに顔をしかめて、ハルト皇子はひゅうと口笛を吹いた。ライラまで恥ずかしくなって、なのにラダがライラを抱き寄せ、背筋を伸ばさせるから、ライラに隠れる場所なんてなかった。
「ラダ、オマエいつからそんなに優しくなった?」
「俺はなにも変わっていない」
「はっ。そうか? 俺の母の獄中に見舞いに来たのはオスロの王妃だけだったな。母上に花を差し入れた。最後は花に看取られて死んだんだからな!」
ラダの顔が歪んでいる。オスロの王妃は、人格者なのだろう。疑われていたハルト皇子の母にさえ、花を贈る美しき心。
ハルト皇子が肉の皿を片付けさせながら、身を乗り出してラダをにらんだ。ラダも肉の皿を下げてもらって、ライラはグラスから冷たい水を喉に流した。多少落ち着いて、ラダがライラを立ち上がらせる。かつん、とヒールが床を鳴らした。ラダは音もなくスマートに立ち上がる。
「これで、顔合わせの義理は果たしましたゆえ」
「ああ、もうよい、ラダ。ありがとう」
王さまだった。どうやら今日この場所は、王さまたっての希望だったようだった。ライラはラダに腕を引かれるようにして立ち上がって、ラダの後について歩いていく。大きなホールは豪華なシャンデリアで輝いているはずなのに、そこは窮屈でじめじめとした嫌な場所だった。




