第65話 精鋭揃う
オッドキャット・8階マスタールーム。
アビス専用の図書館と化しているその部屋に足を踏み入れる。すでにメッセージでアポは取ってある。
図書館に入ると、すでにアビスと4人の先客がいた。先客は全員知っている顔だ。
唯我阿弥数のサポーター・一色冴(17)。
A級シーカーにしてオッドキャット開発局局長・ユン=キョウ(25)。
オッドキャット所属A級シーカー・空木呉羽(28)。
オッドキャット所属A級シーカー・蒼鍔刀也(16)。
すげぇ。オッドキャットの主要メンバーが揃っている。これに加えて朝比奈夕凪が居ればオッドキャットのA級以上勢揃いだったな。
「おい。誰だお前は」
そう問いかけてきたのは蒼鍔刀也……“瞬刹”の異名を持つ男だ。腰には青い鞘の刀型オーパーツを差している。
目つきは狼の如き鋭さだが、同性ながら綺麗な青い髪と整った顔立ちで人気がある。口や素行は悪く、悪目立ちもするが実力も確かで、オッドキャットでは恐らくアビスに次ぐ実力者だ。
「葉村志吹だ」
同い年からタメでいいよな。
「き、如月小雪です……」
如月はすっかり蒼鍔の威圧にやられてるな。俺の背中に半身隠している。
「葉村……そうか、パチモンオーパーツの実験体か」
言い方悪いな。まぁその程度でイラつきはしないが。美亜のパワハラで鍛えられたメンタルを舐めるなよ。
「と、刀也君! 言い方悪いよ!」
黒髪で、ウルを思い出す糸目の男性――空木さんがなだめるが、蒼鍔はガン無視する。
空木さんの容姿は普通だ。普通の大人だ。ワックスで前髪を上げているし、スーツを着ているし、ちゃんとしている。見た目は完全にサラリーマン。
だからわからない。なんでこんな人が……、
「よろしくね葉村君。俺は空木呉羽。よろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
差し出された手を握る。
空木呉羽……通称『ギルド解体屋の空木』。
この人はこれまで所属していた7つのギルドを全て崩壊させている。
あるギルドはギルドマスターの強烈なパワハラで崩壊し、あるギルドはギルド内の痴情のもつれで崩壊。あるギルドはシーカーとサポーターで資金繰りについて揉めて崩壊。この人が入ったギルドは例外なく内的要因で崩壊している。ほぼ確実にこの人がギルド崩壊を起こしているはずだが……証拠は何もない。直接的に、彼が誰かを攻撃したとかされたとかいう話は聞かない。だからこそ怖いとも言える。
こんなに悪評があるのに今も尚ギルドに居続けられるのは、それだけ確かな実力があるということなんだろう。
「なんかさ、俺の悪い噂とか聞いたりしてる?」
「え? あ、はい。まぁ」
取り繕った所で仕方ないよな。シーカーの間じゃ有名な話だし。
「気にしないで! あんなの根も葉もない噂だからさ! ほら、実際接してみて全然覇気を感じないでしょ? ホント、他人をどうこうできる器じゃないからさ」
確かに、悪い感じはしないな。
「嫌なんだよな~。こう、俺って気が弱いからさ、いつも不都合とか押し付けられるんだよ。いじめられっ子気質ってやつ?」
「あ、私……ちょっと気持ちわかります」
「共感してくれるかい如月ちゃん! 君たちとは仲良くなれそうだ!」
空木さんは俺と如月の肩を機嫌良さそうに叩く。自然な笑顔で、纏う空気も穏やかだ。
いい人そう……だな。
「……茶番野郎が」
蒼鍔が呟く。
その蒼鍔のセリフに、空木さんが僅かに瞳の色を覗かせたことを俺は見逃さなかった。
「自己紹介はこれぐらいでいいかな?」
アビスが言うと、全員がアビスの方を向いた。
「メッセージでも言ったように、我が大切な同胞が襲撃に遭った。今回君達を呼んだのはその件についての対策を立てるためだ」
「聞くところによると、サポーターを庇ってやられたそうじゃないか。あの夕凪は」
蒼鍔は嘲る。
「……消耗品のために命を張るなんざ、理解できねぇな」
さすがに、聞き捨てならない。
「消耗品ってのは、まさかサポーターのことを言ってるんじゃないよな?」
「当然サポーターのことを言っている。奴らはいくらでも代えが利くじゃねぇか」
一切表情を変えずに言う。コイツは、心の底からそう思っているようだ。
「すぐ壊れるしすぐに湧く、消耗品だよ」
右拳を握り、蒼鍔を睨む。
「なんだ? やる気か? シーカーもどき」
「……サポーターの重要性を理解できないんなら、もどきはお前だ。蒼鍔刀也……!」
オーパーツの刀を蒼鍔は引き抜く。俺も右拳を前に出す。
両者のオーパーツがぶつかり合う、その0.01秒前で、
「はい、そこまで」
空木さんが床を踏み鳴らした。
同時に床から鉄の鎖が現れ、俺の右腕と蒼鍔の刀を縛り止めた。
「君達。今回は急を要する事態だよ? 喧嘩している場合じゃない」
この鎖……いや、靴か。床を踏み鳴らした空木さんの右の靴に銀色の光が走っている。これが空木さんのオーパーツ……足下から鎖を出す能力か?
「これで俺を拘束したつもりか?」
「君こそ、これで俺の技が終わりだとでも?」
「……」「……」「……」
俺と蒼鍔と空木さん、3人の間に神妙な空気が流れる。
その空気を破ったのは、
「血気盛んだね~。僕も混ぜてくれるかな?」
アビスが言うと、蒼鍔は舌打ちして刀を納め、空木さんは肩を竦め鎖を瓦解させた。俺も大人しく引き下がる。
「やれやれ。話を進めるよ? 夕凪ちゃんに聞いた所……なんと、襲撃者11人全員がオーパーツ所持者だったらしい」
11人、全員が……!?
「しかも同じ形のオーパーツが幾つもあったそうだ。オーパーツは唯一無二、同じ物は決してない。彼女たちの証言を聞くに、襲撃者が使っていたのはほぼ間違いなく」
アビスの視線が俺の右腕に向けられる。
「――人工オーパーツだ」
一二三書房WEB大賞に続き、アニセカ大賞も本作が一次選考突破。
来てる……! 今年こそ、書籍化いけるかもしれない……!(死亡フラグ)
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