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第64話 時限迷宮

 アマツガハラ53階。


 俺と如月は洞窟を進んでいく。

 迷宮鞄(バックパック)にはすでに大量のドロップアイテムと魔石が入っており、成果は上々。

 ドロップアイテムは魔物の牙や角、毛皮や目玉、なんでもある。魔石も質の良いのが多く手に入った。


 ちなみに魔石はどれもガラス玉だ。色は様々で、硬いガラス玉(魔石)の中心には数字が浮かんでる。

 それぞれ『色』で種類を、内側に浮かぶ『数字』でエネルギー量&出力を測れる。例えば『赤色の4』なら、2時間ほど魔力補填(チャージ無し)で熱を発することができる。温かさはカイロ程度だがな。

 魔石の用途は計り知れず、大きな数字ならかなりの額が貰える。基本的にその階層に近い数字の魔石が手に入るので、53階(この辺り)だと48~56ぐらいの魔石が手に入る。


 ただ魔石を売る際はかなりの税がかかり、なんと売却額の20%しかシーカーには入らない。ドロップアイテムも同様だ。かと言って魔石やドロップアイテムを『販売』という形で売買するには資格とギルド協会の承認が必要。資格を取り、ギルド協会の承認を得るのは相当に難しく、シーカーをやりながらそれらの条件をクリアするのは現実的ではない。


 自力でドロップアイテムを装備に加工したり、魔石をクリスタルや魔導具に加工するのも難しい。最低でも4年以上の勉強が必要。

 だから大体のシーカーは安い値で迷宮資源を売り、高い値でそれらを加工した商品を買う。安く売り、高く買う。最悪のサイクルだがこれが一番手っ取り早いのだからため息が出る。この悪循環を避けるために、ギルドでは魔石やドロップアイテムを加工する専属の鍛冶師を雇ったりする。

 これだけ莫大な税を取ったり、厳しいルールを設けるから横流しが横行し、零番地区のような場所が出来るのだと俺は思うがな。


 俺と如月は動画配信による収入が無いため、基本的にドロップアイテムと魔石を売りさばいて日銭を稼ぐことになる。言っとくが、かなり稼げている。週に4日潜るだけで年収は余裕で1000万を超えるだろう。


 如月との連携もかなり上手く回っている。


 如月のルーンバレットは5種類。撃った相手を拘束する【拘束弾】、凍結させる【凍結弾】、電撃を浴びせる【雷撃弾】、治癒を施す【治癒弾】、着弾点にバリアを張る【障壁弾】。


 俺が仕留めそこなうと雷撃弾で追撃し、とどめを刺す。敵の攻撃には障壁弾で対応。逃げる相手には凍結弾や拘束弾をかます。怪我をしたら治癒弾で治してくれる。安全地帯から狙撃してくれるので気を配る必要もない。めちゃくちゃやりやすい。


 おかげで効率よく迷宮攻略が出来る。


「今日はこの辺にしておくか」

「……」


 そんな優秀な如月だが、今日は戦闘中以外やけにボーっとしている。 


「どうした? なにかあったか?」

「――え? あ! すみません! 迷宮で気を抜くなんてサポーター失格ですよね!」

「いや別に、サポートは完璧にこなしてくれていたから良いんだけどさ。何か悩み事か?」

「……はい。飯塚さんのことで……ちょっと」


 やっぱ如月はまだ引きずっていたか。


「飯塚さんは……その、不器用な人間でした。ですが……それでも、あの結末はあんまりだと思いまして……」


 魔物化して、理性を失って、討伐される。確かに凄惨な散り様ではあったな。


「私は飯塚さんの近くにずっと居て、ただ従うだけで……飯塚さんが助長してしまったのは私のせいでもあったのかな、って。私がしっかりと飯塚さんに意見していたらあんな結末は……」

「お前が何を言ったところでアイツは変わらなかったと思う。――と言ったところで、お前は納得できないんだろうな」


 優しすぎるってのも可哀そうだな。あんな奴にまで同情するのだから……。


「その後悔を糧に、今は少しでも実力を上げておけ。いずれ、飯塚を魔物にした連中と戦うことになるだろう。奴らを倒すことが飯塚への弔いにもなるさ」

「……はい。そうですね」


 俺にはこれぐらいのことしか言えないな。


「ところで如月、今日のお面は……なんだそれ?」


 何やらイケメンなアニメキャラのお面だ。顔だけイケメンで、首から下が如月なので違和感が凄い。


「これは今、私がハマっているアニメ! 『会社の寡黙系上司(♂)が僕にだけ良く喋る』の主人公のお面です!」

「そうか……面白いのか、それ」

「え? え!? 布教していいんですか!?」


 しまった。なんか変なスイッチを入れてしまった。


「あ、いや、うん。聞かせてくれ」


 少しでも飯塚の件を忘れられるなら……身を切ろう。


「えっとですね! まずはテレビアニメ版の一話を見て欲しくて! 劇場版総集編もあるんですけど、そちらはサブストーリーのカットが多くてですね、サブストーリーも凄く面白いから絶対最初はテレビアニメ版で見て欲しくて! あ! まずはあらすじからですね! 主人公は眼鏡の男の子で、名前は童沼(どうぬま)貞夫(さだお)って言うんですけど、子犬系男子というか29歳なのに凄く可愛らしいんです! そんな童沼君の可愛らしさに上司の倉辺(くらべ)っていう寡黙で筋肉質な男性がときめくっていうのが毎話のパターンなんです! 童沼君はすぐ仕事で失敗するし、一人で泣いたりするんですけど、そんな時いつも倉辺さんが寄り添って助けてあげるんです。倉辺さんはもう最初からベタ惚れなんですけど、童沼君との関係を壊したくないから上司部下の関係のままでいこうとするんです。でもでも! 童沼君が天然で、倉辺さんの配慮とか無視してグイグイ距離詰めちゃうんですよ! 倉辺×童沼かと思ったら逆で! 相手が誰だろうが無敵の倉辺さんが童沼君にだけは弱くて! 童沼君が天使かと思いきや小悪魔で、倉辺さんがどっちかっていうと天使というか! あ! サブキャラで一条さんっていうチャラ系の上司が居るんですけど、この人絶対葉村さん好きですよ! 凄い影で努力していて、倉辺さんに認められるために毎日毎日残業していて――――」


――話は三時間続いた。



 --- 



 アマツガハラから入り口広間に帰ったと同時にスマホが鳴った。オッドキャットからの連絡だ。送信先を見るに俺だけでなく如月やオッドキャット所属の他のシーカー&サポーターにも一斉送信されているようだ。


『A級シーカー朝比奈夕凪が本日9時頃に時限迷宮タピロにて複数のオーパーツ所持者により襲撃。朝比奈夕凪は意識不明の重体。タピロはその者達によって攻略され消失。襲撃者の狙いは朝比奈夜猫の証言より迷宮内の資源であることがわかっている。この一件を受け、一時的に時限迷宮の探索を禁止とする』

「これは……」


 如月もスマホを確認し、内容を見る。


「時限迷宮って、ノラのことですよね?」

「ああ」


 時限迷宮、それは偶発して現れる迷宮であり、世界各地どこにでも現れる可能性があるもの。現在はダンジョンフィールドと呼ばれる迷宮集積装置により、アマツガハラの東側に時限迷宮のほとんどは集められている。シーカーの間では『野良迷宮』やそれをさらに短縮して『ノラ』と呼ばれることもある。


「探索を禁止って、確か時限迷宮(ノラ)って放置するとまずいですよね……?」

「そうだな。放っておくと迷宮(めいきゅう)災害(さいがい)が起きる」

「私、迷宮災害については詳しく無いんですよね……凄いことが起きる、っていうのはわかっているのですが、その詳細は全然知らなくて……」

「マジか!? 授業で習わなかったのか?」

「が、学校に行くお金が無くてですね……」

「……すまん」


 そうだった。如月は親の借金を背負わされていたんだ。

 家庭環境を考えるに、まともな教育は受けさせて貰えなかったんだろうな。それでも良くここまで優秀且つ良い性格に育ったもんだ。


「いい機会だし、説明しとくよ」


 時限迷宮の『時限』という部分は時限爆弾からきている。

 なぜかと言うと、


「アマツガハラ以外の迷宮は放置していると()()する。迷宮の規模によって消失までの時間はバラバラで、基本的に高難易度な迷宮ほど消失までの時間は長く、そして起きる災害の規模が大きい」


 低難易度な時限迷宮は3週間~1か月、高難易度な時限迷宮は1か月~5年程で消失する。


「迷宮が消失するとその中にいる魔物が溢れ出す」


 迷宮とは虫篭(むしかご)のようなモノ。

 それが消失するということは、中の虫が野放しになるということ。


「迷宮内にあった魔物以外の物質や迷宮そのものは膨大な負の力となり、周辺に災害を起こす。地震や嵐、流行り病や放射線、なんでもござれだ」

「魔物の暴走、それに加えて災害なんて起きたら……!」

「まだダンジョンフィールドが無い時代、迷宮災害でいくつもの都市が滅んだそうだ」


 なんてことない一軒家の地下に迷宮が出来て、誰も気づかない内に迷宮が消滅→災害が起きたり、海底に迷宮が出来てどうすることもできず迷宮災害が起きたりと散々だったそうだ。その時代の人間には同情するよ。


「ほら、日本も確か……待ったど忘れした。あ、そうだ。沖縄だ。沖縄っていう名前の県が迷宮災害で滅んでいるからな。結構な観光名所だったらしいぞ」


 事態が事態とはいえ、流石に迷宮災害が起きるまで放置することは無いとは思うけど、


「アビスに会いに行ってみよう。この一件、無視することはできない」

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