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第63話 朝比奈姉妹


――C級迷宮タピロ・最下層


 石レンガで構築された竪穴式迷宮(ホール・ダンジョン)、その最下層の広間で今、戦闘が始まろうとしていた。


「オッドキャット所属のA級シーカー、朝比奈(あさひな)夕凪(ゆな)だな?」


 勢力は2つ。

 一方は不良のような風貌の集団。

 もう一方は黒マントを羽織った女性シーカーと小柄で猫耳のような癖毛がある女性サポーターのペア。

 中でも一際強い存在感を放っていたのはマントの女性。


「なんだ貴様らは。この迷宮はオッドキャットの管轄だぞ」


 A級シーカー――朝比奈夕凪は不良集団を睨む。


「そんなのはよ~、テメェらが勝手に決めたルールじゃんかよ~。迷宮の資源はみんなで分配! それが公平ってもんだろう?」

「わかっているのか貴様ら。『時限(じげん)迷宮はギルド協会で管轄を決め、攻略する』、これはギルド協会、果ては神理会が定めた掟だ。これを破るということは……この迷宮都市に喧嘩を売るということだぞ」

「はっはっはァ!! いいねえ! いいじゃんかよ! 喧嘩上等。ぶっ壊してやるよ。こんな腐った国は!!」


 不良の数は11。その全員が、()()()()武器を持っている。

 剣使いが5人、銃使いが4人、槍使いが2人だ。誰も彼も、A級シーカーを前にして余裕のある表情をしている。


「お姉ちゃん……アレってもしかして」


 夕凪のサポーター、朝比奈夜猫(やこ)は冷や汗を垂らす。

 自身の感覚を信じるならば、あの発光している武器はどれも……!


「オーパーツね。感覚でわかるわ」


 それにしても。と夕凪は違和感に気づく。


(オーパーツなのに、同じ形の物がある……どういうこと?)


 剣使いの剣のオーパーツは全て同じ形をしていた。銃も、槍も同様だ。


「まぁいい。捕まえればわかる」


 夕凪はマントを変形させ、ドリルのように鋭角に伸ばす。


「『スーパードリルバスター・夕凪スペシャル』!!」


 夜猫は姉の発した技名にピクッと眉を反応させる。


「知能も戦闘センスも高いのに、ネーミングセンスだけ無いのよねぇ……」


 ドリルと化した黒マントの端布が、伸びて敵に向かう。


――オーパーツ“クロシュ・ハント”。


 形は黒いマントであり、その能力は『魔力の限り際限なく広がり、自由自在に変形できる』というもの。マントを鋭角に伸ばせば岩を貫くことも可能、重ねれば砲弾すら弾き返せる。攻防共に優秀なオーパーツだ。


 不良集団は手に持った武器でマントの攻撃を弾く。その身体能力はオーパーツ所持者であるか、あるいは相当な強化術の使い手で無ければおかしいレベルだ。夕凪は前者であると断定する。強化術を極めるには地道な修練と研鑽が必要、いま戦っている連中が地道に鍛錬を重ねられる人間には思えなかった。


「【透明(とうめい)廻廊(かいろう)】」


 夜猫は四文字魔法【透明廻廊】を発動。その効果は『自身や触れた物を数十秒透明化させる』。夜猫は自身と所持品を透明化させ、姿を消す。

 夕凪が注目を集め、マントで敵の陣形や体勢を崩し、夜猫が透明化を利用して崩れた相手を不意打ちで倒す。朝比奈姉妹の常套(じょうとう)戦術。しかし、


「透明化が来たぞ! やれ!」


 不良たちは空中に野球ボール程の大きさの鉄球を投げる。鉄球には無数の穴が空いており、その穴から火花を散布させた。


「あつっ!」


 夜猫に火花がぶつかり、夜猫から白煙が上がる。

 たとえ透明化していても、煙のせいで夜猫の位置は丸わかりだった。


「夜猫!!」


 夕凪は気づく。この絶体絶命に――


「【透明廻廊】使用中は他の魔法は使えねぇ。そして発動から最低でも7秒は解除できねぇ!」

「有名人は大変だな! こうやって戦術を研究されるからよぉ!!」


 銃使いが一斉に夜猫に銃口を向ける。

 オーパーツも無く、魔法も使えず、さらに空中に飛びあがっていた夜猫は、回避も防御もできずにまさに無防備に銃撃を受けようとしていた。


「お姉ちゃん……!」

「こ、の――!」


 夕凪はマントを広げ、夜猫を包み込む。放たれる銃弾、マントはそれを弾くが、


「隙ありだぜお姉ちゃん!!!」


 剣使いと槍使いが防御の薄くなった夕凪に向かう。夕凪は残ったマントで3人は吹っ飛ばすも、残りの敵に背中を斬られる。


「つっ……!?」

「お姉ちゃん!!?」


 不良の1人が夕凪のマントを強引に剥ぎ取る。

 夕凪はカーディガンと長スカートの姿で地面に転がる。


「へっへー! マント剥いだり!」

「これでただの女だな!」


 身体補助効果を失い、ただの人となった夕凪はその場に倒れ込む。すでに勝負は決した。にもかかわらず、不良たちはよってたかって夕凪を踏みつける。

 夕凪の絶叫が聞こえる。

 妹である夜猫すら聞いたことのない悲鳴。いつも気丈で、クールな姉から聞くはずもない声――


「やめてぇ!!」


 夜猫が集団の中に割り込み、夕凪に覆いかぶさる。


「迷宮は好きにしていいから! これ以上お姉ちゃんを虐めないで!!」

「……や、こ……」


「はぁ? なに言ってんだ」

「テメェらシーカー共にはえらく世話になったからなぁ。こんぐらいで引き下がれるかよ!」

「美少女エリート姉妹が堕ちる所、しっかりと見届けさせてもらうぜ♡」


 男達の下卑な視線が突き刺さる。

 これから自分の理解を超えた、おぞましいことをされる。そう夜猫が確信し、目を閉じた時だった。


「――その辺にしておけ」


 女性の声が響き渡る。


「……げっ」

「ハクダさん……」


 ハクダ、と呼ばれた女性は苛立ちを込めた声で、


「目的は資源の確保。そいつらを必要以上に痛めつける必要はない」

「はいはい、わかりましたよ」

「ハクダさんには敵わねぇな」


 男達の間から、夜猫は見た。

 蛇のタトゥーのある、黒髪の女性を。

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