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第61話 伝説の配信

 サイバーパンクの世界だな。廃れた未来の都市、って感じだ。


「これ、扉閉めても大丈夫?」


 俺に続いて外に出て来た一色さんが問う。

 振り返ると、青い扉だけがそこにはあった。青い扉は12号室に繋がっている。


『大丈夫。というか早く閉めた方が良い。扉は超硬いけど部屋の中は脆いままだからね。魔物に中に入られて装置を破壊されたら帰れなくなっちゃうよ?』

「一色さん! 早く閉めてください!!」

「わ、わかった」


 一色さんが扉を閉める。


『帰る際はまた扉からカラオケボックスに帰って、『演奏中止』のボタンを押せばいい』


 シアンの言葉を全て一色さんに伝えた後、改めていま居る世界を見る。

 俺たちは十字路の上に立っていた。空は夜空、人気は無い。魔物の気配なんかも無い。


『侵入者ハッケン! 侵入者ハッケン!』


 機械音声が十字路に響き渡る。

 四足が付いた巨大なル〇バ? みたいなロボットが走ってきた。


『ダストウォーカーだ』

「なんだそれは?」

『魔物だよ。この階層では機械が魔物なんだ』

「なに!?」


 ダストウォーカーの側部には銃口が見える。その銃口の照準が俺に合う。


『排除開始』

「「【光点軌盾】!!」」


 俺と一色さんは同時に光の壁を張り、ダストウォーカーの連射銃撃を防御する。

 俺はすぐさまダストウォーカーの背後に回り、右手のチョップで叩き壊す。


「ちっ!」


 次々とダストウォーカーが集まってくる。四方八方から撃たれたら対処は不可能だ!


「シアン! 早くシロツバキを!」

『ああ! ()()()()()()葉村君!』

「はぁ!? 何を言って……うっ!?」


 ドクン!! と心臓が大きく跳ねた。

 同時に全身が脱力する。次の瞬間、体は俺の言うことを聞かなくなっていた。

 勝手に(まばた)きするし、勝手に手が動く。呼吸も勝手に行われる。


『シアン! お前!』


 俺の口から声は出ていない。

 俺の言葉はシアンにしか届いていない。

 間違いない。俺とシアンの立場が入れ替わっている。俺が魂だけの存在になり、肉体の主導権をシアンが握っている。


「……心配するな。変なことはしない。むしろ君には好都合だろう」


 シアンは笑う。


「この体に、最強のシーカーの動きを叩き込んであげよう」


 俺の口で、声で、シアンは言う。


『……!』


 シアンは義手の手首を握り、義手を壊し、再構築する。

 シアンの左手に、真っ白な鞘に包まれた刀が握られる。


「神鉈“シロツバキ”」


 一色さんは俺の異常を感じ取ったのか、訝し気に俺を――シアンを見る。


「一色ちゃん」

「一色……ちゃん!?」

「ああ、ごめ。いま私はシアンだ。数分だけ、彼の体を借りた」

「え? えぇ??」

「録画を開始してくれ。配信を始める」


 シアンは歯で鞘を押さえ、左手で刀を引き抜く。

 真っ白な刀身と鍔、紫の刃紋。

 何度も、何百回も見た、シアン=トーカーのオーパーツ……シロツバキ。


 一色さんはまだ理解が追いついていない様子だが、言われた通りにシアンの専用バトラーを起動させる。録画、配信が開始してすぐシアンは刀を振るう。


――白い極光が刀から放たれる。


 巨大なビームだ。ビームはシアン正面の機械達を焼き払った。


無羅醒(むらさめ)(りゅう)剣式(けんしき)(いち)の太刀、“白華(びゃっか)”」


 シロツバキの能力は『魔力を喰らう光を出す』というもの。魔物にとっての魔力とは、人間で言うところの血液。それを喰われると生命を維持できず消滅する。

 対魔物に特化した、シーカーとして最強と言える能力。あらゆる『魔』はこの刀の前では無力だ。


()の太刀、“白光剣舞(びゃっこうけんぶ)”」


 シアンは刀を天に向ける。同時に、白い光で構築された8本の剣がシアンの周囲に浮かぶ。


視聴者(ファン)のみんな、久しぶり」


 シアンはカメラに目を向け、お決まりの文句を言う。


「さぁ、神話を始めるよ」



 ◆◆◆



 その知らせは世界中に瞬く間に広がった。


「おい、シアンが配信してるってよ!」

「え? マジ!?」

「偽物だろ! 絶対偽物!」

「違うって! だってこの動き……このオーパーツ、絶対にシアンだよ! しかもちゃんとシアンのアカウントだし!」

「右腕が無いぞ? なんかあったのか?」

「最後の配信で右腕を斬られてただろ。忘れたのかよ」


 例外なくすべてのSNSで話題を総なめ。

 日本のテレビの視聴率が通常の70%減となり、シアンの配信にすべての国民が集中する。

 そして、英雄復活の知らせは、闇に潜む者達にも届く。



 ――零番地区・路地裏にて。



「どういうことだ……?」


 蛇のタトゥーをした女性、蛇屋永華はスマホでシアンの配信を見て、口からたばこを零した。


「……やれやれ。ホント、『どういうことだ?』、ですよね」


 蛇屋の元に、白髪の男が現れる。


「ウルか」


 ギルドデュエルで葉村と戦い、飯塚を魔の道へ導いた男――ウル=ウェンディア。


「これは月花(げっか)の仕業か?」

「それは無いでしょう。あの御方も随分と動揺していた。その様子だと、あなたも何も知らないようですね。――シアンの親友だったあなたも」


 蛇屋は舌打ちする。


「うっせぇ。アンタこそ、弟子だったクセに何も知らないんだろ」

「はっはっは! お互い様ということですね」


 蛇屋はまたスマホに視線を落とす。


「合成映像か……? しかし、この動きとオーパーツは間違いなく……!」

「シアン=トーカーですね。見違えるはずもない」


 蛇屋は唇を噛む。


「……アイツは死んだ。コイツは偽物だ……!」

「ええ。あの御方も同じ意見です。無論、私もね」

「狙いはなんだ……?」


 ウルは腕を組み、


「あくまで予想ですが……きっと」


 ウルは微笑み、


「神理会への牽制、でしょうね」


 蛇屋とウルはスマホに映るシアンの姿をひたすらに追う。

 シアンを見つめる2人の瞳には哀愁があった。



――神理会本部・会議室にて。



「一体どういうことだ!?」

「あの女は始末したんだろ! おい、聞いているのか阿良式(あらしき)!!」


 神理会の幹部は一斉に一人の男性に目を向ける。

 阿良式。と呼ばれた男性はカップラーメンを啜り、頬杖をつく。


「知らん。致命傷は与えたが、とどめを刺す前に逃げられたからな。って、報告書にもそう書いたろジジィ共」

「なんだその口ぶりは!!」

「ふん! 現代最強のシーカーが、そのような適当さでは困るな!!」


 現代最強のシーカー・阿良式卜ト(ぼくと)はため息をつく。


「そんな速報ニュースは後回しにしろよ。本題を忘れんな」


 阿良式がひと睨みすると、神理会の面々は鎮まり返った。


「――神墓を暴いた奴を、見つけるために今日は集まったんじゃねぇのか?」


 神墓。そこに眠るオーパーツの一部が盗まれた、という報告がつい先日神理会に入った。今回、神理会幹部と阿良式が集まったのはその犯人を探すため。


「犯人さえ割り出してくれれば後は俺が処理してやる」


「貴様! いちシーカーの分際で調子に乗るなよ! 口の利き方ぐらい――」


「お前らは迷宮都市の治安維持のために俺を使う。俺は俺のギルド(家族)のためにお前らを使う。そういうビジネスパートナーだ。対等の関係って訳。ジジィを接待する義務はねぇなぁ、残念ながら」


「くっ……!」


「話を進めようぜ。明日はギルド(家族)の1人が誕生日なんだ。早く終わらせて誕プレ買いに行きたい」

 


 ――アマツガハラ172層



 一色冴は、配信の同時接続者数を見て、鳥肌を立てた。


(同接……2億3000万人!!?)


 人気トップの配信者でも300万いけばいい方だ。それを、遥かに超える数字。

 日本だけではなく、全世界が注目しているということ。

 一色の集中力が3段階上がる。2億3000万人が注目するこの配信、失敗は許されない。できるだけ派手に、華やかに、見やすく配信を回す。シアン=トーカーを全力で演出する。サポーターとしてのプライドが、一色に力を与えていた。

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