第59話 一色vs痴漢
エレベーターを降りて、賑やかな道を歩く。
バニーガールのお姉さんや爽やかなボーイが爛れた世界に俺達を誘おうと接触してくるが、無視して進む。
「ここに一週間居たらストレスで死ぬかも」
「同感です」
ちら、っと背後を見る。
先ほどからスキンヘッドの強面のおじさんがついてきている気がする。スーツにグラサン、明らかに堅気じゃないな。
俺……ではなく、一色さんに目がいってる。
「……一色さん」
「……わかってる。なるべく大事にせず、穏便に済ませよう。私達が本気で走れば簡単に撒ける」
「……そうですけど、前、渋滞ですよ」
キャバクラとホストクラブが向かい合って存在する道に、人混みが出来ている。
俺と一色さんは人混みに入る。
「好都合。ここで撒――」
人混みの中だから良く見えないが、微かに見える一色さんの耳が真っ赤に染まった。
「っ!?」
「一色さん?」
――バコンッ!!!
と、重低音が鳴る。
人がはけ、何が起きたか理解する。
一色さんが、スキンヘッドのおじさんの右頬に回し蹴りをお見舞いしていた。
「一色さん!?」
「……コイツ、下着の中に手を入れてきた。殺す!!」
スキンヘッドのおじさんは笑いながら立ち上がる。
「はっはっは! こんな掃き溜めにこんな上玉が居やがるとはなぁ! しかもつえぇ!」
騒ぎを受け、人が散る。
入れ替わりに黒服の男が集ってくる。
「嬢ちゃんならすぐに数百万稼げるぜ。面もスタイルも良い。ま、ケツが見た目より大きめだが……そういうのが趣味な奴もいるしな」
一色さんの顔が更に紅蓮に染まる。マジで殺されるんじゃないかコイツら。
「その反応……さてはまだ生娘だな?」
一色さんの拳が震える。視覚で拾えるほどの魔力が一色さんから発せられる。
「こりゃいい! 更にいい値がつくぜ!!」
「……おいおいおい! マジで死ぬから! その辺にしとけオッサン!」
「死ぬぅ? 馬鹿言ってんじゃねぇよ!」
スキンヘッドが指を鳴らすと、黒服たちはメリケンサックやナイフ等の武器を取り出した。
ただの武器だ。オーパーツではない。
「野郎共、味見してやりな」
黒服たちの瞳に情欲の色が浮かぶ。
「男はどうしますか?」
黒服の一人が聞く。
「そっちも悪くねぇ面だ。女用の風――」
「【月華雷】!!」
一色さんが放った雷撃がスキンヘッドのヘッドを焼く。
「ぼはぁ!?」
スキンヘッドの男が倒れる。
一色さんは俯き、ブツブツと呟く。
「……葉村志吹を裸に剥いて亀甲縛りにしてあんなことやこんなことをするなんて……ずるい……じゃなくて……ゆ、許せない……!」
「一色さん……?」
何を言っているか聞こえないが、ぶちぎれているのはわかる。
「【網蜘蛛】」
一色さんはコンクリの地面に手を置く。すると一色さんの右手が接触している部分を中心に、蜘蛛の糸のような影が広がっていく。
「これはまずいな」
俺はすぐさま飛びのき、電柱に掴まる。
蜘蛛の糸の影を踏んだ黒服たちは、まるで縫い留められたように足を地面から剥がせなくなった。
【網蜘蛛】は拘束魔法。この魔法によって生成された影を踏んだものは一定時間その場に拘束される。あの影は強力な接着剤のようなものだ。
こうなっては一般人ではどうもできまい。一色さん、また良い魔法を覚えたな……。
「さて、どう料理してくれようか」
いや、ヤバい!!
「一色さん! 後ろ!!!」
一色さんの後ろにいる黒服がポケットから拳銃を出した。
いくら強化術で常人よりは硬いとはいえ、死角からの銃撃はまずい!
(【蒼炎】!!)
無詠唱で【蒼炎】を発動し、拳サイズの火炎を飛ばす。だが、ギリギリ間に合わない……!
「はい、やり過ぎ」
黒服の銃がぶった斬られる。
斬ったのは――ヨーヨーだ。
「ここは無法者の集まり。法の無い地下の楽園。だけど、番人がいないわけじゃない」
ヨーヨーの使い手は、黒いタンクトップの女性。二十代半ば程だろう。上はタンクトップだけで、下はホットパンツ。黒髪で、紫の瞳。左頬から胸の谷間まで蛇の刺青がある。口にはタバコを咥えていて、言葉を発する度にタバコを上下に揺らしている。
見た目はアウトローな女性だが、助けてくれたってことは敵ではないらしい。
「あまり身勝手するなよ。坊やたち」
あのヨーヨー……オーパーツか。銃に当たる瞬間、ヨーヨーから光の刃を出し、チェーンソーのように回転させ銃を破壊していた。オーパーツ所持者……それもかなりの使い手だな。
「ありがとうございます。助かりました」
俺が言うと、女性は薄く笑って、
「よしなよ。助けたのはアンタらじゃない。コイツらの方さ」
女性は黒服たちを睨みつける。
「アンタら誰に手を出したかわかってる? そこの女は唯我阿弥数のサポーターだよ。傷物にしていたら……ギルドランキング9位を相手にすることになっていただろうね」
「ひっ……!?」
黒服と、気絶から復活したスキンヘッド男は顔を真っ青にさせる。
「そりゃ、さすがにやべぇ……!」
「兄貴、ここはおとなしく引いた方が……!」
「わかってるよ! ――す、すみませんでしたーっ!」
と見事な小悪党ムーブでチンピラたちは逃げ去っていった。
「悪いね。ここの住人として謝らせてもらうよ」
女性は困ったように笑う。
「最近アマツガハラが一時的に停止されてさ、そのせいで職を失ってここへ流れ着いた新参者が暴れてるんだ」
あの飯塚の事件のせいか。
あの一件以来、一週間ほどアマツガハラは停止したらしい。防衛設備・索敵システムを一新したそうだ。
「あたしは蛇屋永華だ。ここでまぁ、警察の真似事をしている。一応言っておくけど、こんな深夜に出歩いているアンタらにも問題はあるからね」
なんだ? 右腕が、『かゆい』?
右腕……いや、シアンが、この女性に反応しているのか……?
「じゃ、またどこかで」
女性――蛇屋さんは夜の街に消えていった。
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