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第56話 努力の先

 メディカルルームの病室。

 この前入院していた時とまったく同じ部屋で、俺は目覚めた。

 目覚めてすぐに検査。前とまったく同じ診断(魔力欠乏症という診断)を受けて、ベッドで安静中。義手も一度取り外されメンテナンスを受けている。


「この前と立場が逆になりましたね」

「そうだな」


 見舞いに来た如月がそっと笑いかけてくる。

 今日は目元だけを隠すマスクなので表情が見える。


「ところで、その大量の果物はなんですか?」

「一色さん……アビスのサポーターの人がさっき持ってきたんだ」


 ぶどう10房、バナナ10房、パイナップル10個、りんご20個、みかん段ボール詰め。どうやって食い切れというのか。

 後で医者やナースの人達にあげよう。


「そのダンベルは?」

「数原凛空っていうサポーターが持ってきたモンだ」

「入院している人にダンベル、ですか……」


 通常、患者に渡す物ではないが、個人的には嬉しい。

 墨刀顕現中は左手一本しか使えない。つまり左腕の筋力が特に重要になるわけだ。ちょうど鍛えておきたかった。


「あれからどうなった?」

「飯塚さん……三ツ目のトロールを撃破したことで、オッドキャットは少なくないギルドポイントを得ることができ、そして――私がトロールを倒したことになったので、E級からC級シーカーに昇格しました」

「マジか!」

「なんかすみません。葉村さんの功績ですのに……」

「いいんだよ、お前のランクを自分のシーカーランクと思うことにする。C級か~。一気にやれることが増えるな」


 三ツ目のトロールの件は自然発生した特異体によるものとして処理された。もちろん、ギルド協会や神理会は三ツ目のトロールの正体が飯塚敦であることは把握している。表向き、飯塚は迷宮内にて魔物に喰われ戦死したことになった。


 例の魔物化事件……そしてウル、この辺りはまだ解決したとは言えない。一体どうやって魔物化を行っているのか、その目的もまるでわからないままだ。何か大きな思惑を感じる……。


 ちなみに、飯塚亡き後、フェンリルは美亜の奴がギルドマスターを継いだらしい。また変なことを考えて無きゃいいけど……。


「やあやあお2人さん! 今日も仲睦まじいねぇ!!」


 やけに高いテンションでアビスが病室に入ってきた。


「なんだよ、その不気味なテンションは……」

「聞いてくれよ葉村君! なんと我らオッドキャットに……例の魔物化事件を解決するよう、神理会より特命があったのだ!!」


 曰く、2度もオッドキャットのギルドメンバーが魔物化したシーカーを倒したことで、この事件を任せられることになったらしい。


「それは喜ぶべきことなのか?」

「喜ぶべきことだろう。相手は得体の知れない連中だが、これを解決すればギルドランキングはうなぎ上りだ! 魔物化の技術も気になるしね。それに君、奴らにはやられっぱなしで腹立ってるだろう?」


 アビスが試すような目つきで見てくる。


「ああ。それについては否定しない。ウルの野郎……アイツは絶対許さねぇ」

「楽しみだね~。彼らをぶっ飛ばす日が……」


 俺とアビスは悪い笑い声を木霊させる。


「2人共……顔が完全に悪役サイドです」

「ともあれ、今はゆっくり体を癒したまえ。君達の力は必要になる」

「そうさせてもらうよ」


 アビスは「それでは自由にイチャついてくれたまえ!」とテンションアゲアゲのまま病室を去った。


「アビスさんってクールなイメージでしたけど、会ってみると意外とやんちゃ? ですね」

「メディアの前だとミステリアスな感じで魅力を作ってるんだと。前に一色さんが言ってた」


 しまった。シアンの件について言うの忘れてた。

 まぁいいか。話す機会はいくらでも作れる。


「……」

「……」


 アビスが不用意な捨て台詞を言ったせいで、気まずい空気が……。


「その……葉村さんには本当に、助けられてばかりです」

「どれもこれも如月の責任じゃないだろ。気にするなって」

「いえ……そうはいきません。なにか、お礼をしたいです。わ、私にできることならなんでもしますので! なんか言ってください!」

「なんでもって……」


 如月の耳が、赤く染まる。


「あ! なんでもって言うのはその……なんでもって意味なのですが……えーっと、葉村さんが望むなら、本当になんでも……」


 何を想像しているのか、如月の顔が真っ赤に染まる。


「……」

「……」


 やばい! 気まずい! なんか甘ったるい空気が流れている……! こういうの経験ないから対処法がわからん!!



「じゃありんごでも剥いて貰えば?」



 そう冷たい口調で割り込んできたのは――一色さんだ。


「一色さん!?」


 入り口に気配を感じ、そっちを見ると、アビスと凛空が顔を覗かせていた。


「お前ら、盗み見してやがったのか!」

「いや~、ごめんごめん。エレベーターで偶然2人に会ってね」

「3人で押しかけて驚かせようと思ったら、まさかこっちが驚かされることになるとはな。病室でラブラブしやがって」

「ち、違いますよ! 全然、私はそんなつもりじゃ……」

「じゃあ、どんなつもり?」


 一色さんが如月に詰め寄る。


「えっとぉ……」

「こらこら一色ちゃん、如月ちゃんをいじめるのはやめなさい」

「なんだなんだぁ? まさか三角――」

「【月華雷】!!」

「どわっ!? てめ冴! 俺のリーゼントを焼こうとするんじゃねぇ!!」

「病室で雷撃は本当にやめてくれ一色ちゃん!!!」


 ワーギャーと騒ぐ4人。

 俺は4人の姿を視界に収め、小さく笑う。


 色々あったけど……この景色に出会えて良かった。


 仲間、サポーター、オーパーツ。結果として、欲しいモノが全部手に入ったわけだ。その過程で何度か死にかけたけど……。


 まだ全てが上手くいったわけじゃない。それでも、ハッキリと言える。


――これまで諦めず、頑張ってきて良かった――と。

なんとか第一章完。疲れたぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第一章完走お疲れ様です!
[一言] もういっそのこと如月のオーパーツは葉村への強力なバフ能力とでもしておけばいいのでは しかしウルの顛末が分からないが、指名手配でもされてんのかな…
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