第39話 飯塚の結論
生まれついての勝者とは、俺のような人間のことだと思っていた。
父親は元トップアスリートで、母親はアナウンサーだった。父親はアスリートを卒業した後、テレビタレントとして確固たる地位を築き、母親もまた情報番組やバラエティや音楽番組で活躍し続けた。金は腐るほどあったし、5歳の時にはカニの味もキャビアの味も知っていた。
運動神経抜群、成績優秀! 容姿は……まぁまぁ。向かうところ敵なし。
芸能界、スポーツ界にコネが大量にあって、どんな道でも選び放題だった。
中学生に上がった後は性欲に歯止めが効かなくて、同級生・教師・JK・JD・両親にあやかりたい芸能人崩れやアスリート崩れ、色んな女に手を出しまくった。多少問題になったこともあったが、親の力で全部もみ消すことができた。
強者は何しても許される。中学生の時点で、俺は弱肉強食を理解した。
ただ中坊で酒に手を出したのは失敗だった。記者にパシャリと撮られ拡散され、中学は中退。過去の素行もバレて色んな学校をたらい回しにされた挙句、迷宮都市に送られる羽目になった。
迷宮都市なら過去の経歴など関係なく、力さえあれば成り上がれる。元シーカーという箔が付けば、また外で良い思いができる。そう両親に説得されて仕方なく、俺はこの街へ来た。
この街でもやはり俺は強者だった。
強力なオーパーツに恵まれ、魔力に恵まれ、あっという間にB級シーカーになった。
強さこそ正義。強ければ何をしても許される。この街では特にそうだ。
俺の強さにあやかりたいサポーター達、雑魚シーカー共。男も女も弄び尽くした。強けりゃ何をしてもいいんだ。そう、強さこそ絶対正義なんだ!!
結論、俺は間違ってなかった。
「あ、が――うっ……!?」
その男は、人形のような無機質な表情で何度も何度も殴ってくる。
何もさせてもらえない。反撃も謝罪も、何もだ。
一方的に、ただ嬲られる。
喉は潰され、降参もできない。
怖い……苦しい……痛い……助けて。
そんな声が頭に響く。
俺の声じゃない。これまで嬲ってきた幾多の弱者達の声、アイツらの声が、今になって聞こえる。
「は、あ……がっ! あぁ!!?」
強ければなんでも許される。それは間違いない。
間違っていたのは俺の自己評価。
俺は――強者ではなかった。
俺は、コイツには勝てない。絶対に勝てない。
嫌だ! やめてくれ! 死んじゃう! それだけは!!
弱者達の声に、俺の声が混じり出す。
「ゃ、あぁっ……かぁ!!」
逃げても引き戻され、殴られる。
頭を下げても蹴り上げられ、殴られる。
相手が楽しんでいるならまだいい。飽きれば終わる。
相手が悲しんでいるならまだいい。媚びれば終わる。
でもコイツはどっちでもない。ただ義務感で殴っている。感情の乗っていない拳。
終わりの見えない暴力――ただひたすら殴り続ける葉村の姿が、やがて俺の姿に見えてきた。
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