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第30話 一色の初恋

 彼のことを知ったのは半年前のこと。

 サポーター達の中で、彼――葉村志吹は話題になっていた。


「おい、聞いたか。1人で迷宮入って片腕失った新人サポーターの話」

「聞いた聞いた。気持ちはわからんでもないけどなぁ。でも無謀だぜ。1人で迷宮に潜るなんてよ」


 サポーター専門の養成所でその話を聞いた私は、興味本位でその馬鹿なサポーターについて調べた。

 そして知る。そのサポーターが単独で60層まで行ったことを。しかも中層からではなく下層からスタートしたのだと言うのだから驚く。なぜ誰も気づかない……サポーターが50階層以上単独で上るなんてありえない話だ。サポーター単独で迷宮に潜ったという蛮行にのみ注目し、この功績に誰も気づいていない。


 日曜日だったからボス戦こそ無く、倒した魔物の数も0だ。だけど、むしろ1体も魔物を倒さずにそこまで行くことがどれだけ難しいことか。


「……面白い」


 それが私の推し活の始まりだった。

 それから私は彼の追っかけを密かに始めた。彼が成瀬というシーカーと組んだと聞き、彼が投稿する動画を見漁った。

 葉村志吹は全身を隠し、成瀬を完璧なサポート技術で支えた。その卓越した能力に、私は惹かれ、彼を参考に修行をした。

 彼の動画のおかげで私はメキメキ能力をつけ、S級シーカーであるアビス様のサポーターに選ばれた。彼のおかげで、私はドンドン地位を上げていった。

 迷宮で得たお金で彼の動画にスーパーチャット(相手に課金できるシステム)も送った。


 私のヒーロー、葉村志吹……彼は一体どんな顔をしているのだろう。


 彼の顔を初めて見たのは彼がオッドキャットの本部に来た時だ。私は本部の監視カメラ越しに、エレベーターに乗ってきた葉村志吹の素顔を、初めて見た。


(えっっっっろっっっっ!!!!)


 それが私の彼の顔に対する感想だった。


 垂れ目がちな目。達観したような瞳の奥に眠る、熱い想い。

 黒く、整髪料で整えられた髪。

 筋肉の付いた肢体。筋繊維の張った首筋……。


(エッッッッ!!!!)


 マスクマン現象――それは仮面などで素顔を隠していたキャラクターの素顔が、晒された際に起きる現象(命名:私)。謎に満ちていた仮面男が素顔を晒した時、女子はその相手の秘密を知れた喜びと想像していた姿とのギャップであっという間に落ちてしまう。


 私はマスクマン現象にまんまとハマり、そして――葉村志吹に惚れた。



 ---



 ヤバい。

 雰囲気がさっきとまるで違う。

 この人、ここからが本番か……!


「さ、冴? 大丈夫か?」

「あ……」


 一色さんは数原さんの声を聞き、いつものクールな表情に戻った。


「……だだ、大丈夫。問題ない」


 雰囲気が落ち着いていく。さっきまでの圧迫感、威圧感が失せていく。


「というか、降参する」

「え?」


 一色さんは両手を挙げる。


「魔法のレベル、体術、知力、全てにおいてあなたの方が上。私が勝てるルートはない」


 降参、か。

 ちょっと残念。これから面白くなる予感がしたんだけどな……。


「完敗だぜちくしょう!」

「うおっ!?」


 数原さんが後ろから肩を組んでくる。


「五文字魔法に無詠唱魔法か。成程ね。認めたくはねぇが格が違う。アビスがオリジンを与えるわけだ」

「数原さんの魔法の組み合わせも凄かったです。アレは五文字魔法以外じゃ対処できなかった」

「けっ! 世辞にしか聞こえねぇよ」


 いや、本心なんだけどな……。


「このチームの指揮はあなたがとるべき」


 と、一色さんが提案する。


「いえ、それはさすがに……年功序列で数原さんがリーダーをやるべきでは?」

「こういうのは実力順だろ。それにお前は相手の手の内を知っている。お前がリーダーをやるべきだと俺も思うぜ」

「そうですか……わかりました。じゃあ俺が指揮をとります」

「つかよ志吹、お前、俺に敬語辞めろ」

「え?」

「俺はお前が気に入った。いや、そもそも気に入っていたと言うべきかな。さっきはギルドの一員である以上、厳しいことを言ったが、惚れた女のために戦争を起こすなんざ中々にいかしている」

「別に如月に惚れているわけじゃ……」


 あと一色さん? なぜそんな怖い顔をしているんです?


「更に、そのいかした能力! ダブルで惚れこんだぜ。俺は認めた奴にはタメ口で、下の名前で呼んで欲しいタチだ」

「でも10個も上の人に対して呼び捨てはさすがに……いででっ!」


 数原さんが肩を組んだまま、首を締め上げてくる。


「俺がいいって言ってんだからいいんだよ!」

「わかりました! ……わかったから! 放せ凛空!!」

「ぬははっ! それでいい!」


 凛空の力が緩み、俺は凛空から離れる。

 まったく、ヤンキーは強引だな……。


「よし! じゃあダチになった記念に写真撮ろうぜ写真!」

「……距離の詰め方凄いな……」


 また凛空が肩を組んできて、そんでいつの間にか持っていた自撮り棒にスマホを装着し、写真を撮ろうとする。

 すると、スマホの画面端に一色さんが映り込んできた。


「おい冴! お前入ってるぞ! あっちいけ!」

「偶然入っただけ」

「どけって!」

「私がどく道理はない」

「ったく、めんどくせぇな」


 凛空は場所を変え、角度を変えて写真を撮ろうとするも、また一色さんが映り込んできた。


「だから入ってるって!!」

「偶然偶然……」

「んなわけねぇだろ!」

「……もういいだろ。早く修行に移りたいからこのまま撮ろうぜ」

「しゃあねぇなぁ……」


 俺と凛空、一色さんで写真を撮った。

 一応、嫌々な態度ではあったものの……内心、嬉しかったな。こういうこと、前のギルドでは無かったし。

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