第22話 お見舞い
アビスが見舞いに来た翌日、昨日の内に無事退院できた俺はフルーツの盛り合わせを持って迷宮都市第一病院、如月のいる病院を訪れた。
「よっ」
「あ、葉村さん!」
俺が病室に入ると、如月はなぜかひょっとこのお面を被った。
「……なんでお面を被る?」
「は、恥ずかしいので……」
病院じゃメイクとかもできないだろうし、投薬する薬の種類によっては肌の状況が悪くなったりもするだろう。素顔を隠したいと思うのは不思議ではない。如月の場合はただ人見知りが発動しているだけな気がするけども。
「これ見舞い品。ここ置いとくな」
「はい。ありがとうございます」
ベッドの傍にある椅子に腰かける。
「容体は?」
「もう平気です。ただ瘴気に長く晒されていたので、念のためにもう少し入院していないとダメみたいです」
「そっか。慌てずにしっかりきっかり治せよ」
「はい!」
グッと拳を握る如月。
良かった、ホントに元気そうだ。
「飯塚の奴は来たか?」
飯塚の名を出した途端、如月の声のトーンが下がる。
「はい……来ました。『とっとと治さないと借金に利子を付ける』、だそうです」
「あの野郎……」
「飯塚さん、凄くイライラしてました。何かあったのでしょうか」
赤眼のミノタウロスから逃げ帰り、自分のサポーターを他の人間に助けて貰うという恥をさらしているからな。
表向きはアビスが如月を助けたことになっている。サポーターの俺が赤眼のミノタウロスを倒したとなれば大騒ぎになるゆえにだ。つまり飯塚は散々自身を煽ったアビスに尻拭いをしてもらった形になっているわけだ。さぞかし屈辱だろう。まぁ全部自業自得だけどな。
この赤眼のミノタウロスの一件はアビスの新たな武勇伝としてそれなりに広まっているし、飯塚に対する批判も僅かにだがある。早くマイナスイメージを消したいから焦っているんだろう。しかしそれに病み上がりの如月を巻き込まれては困るな。
「なぁ如月、お前、飯塚から離れてアビスのギルドに入らないか?」
「オッドキャットに……ですか? そういえば先日、アビスさんが言ってました。葉村さんもオッドキャットに在籍しているんですよね?」
アイツも如月の見舞いに来ていたのか。
「ああ。なんかアビスもお前のこと気に入っているみたいだしさ。正直、オッドキャットのことまだあまり知ってはいないんだけど、少なくともフェンリルよりはマシな場所だ」
如月は俺の誘いに対して、一瞬嬉しそうに肩を浮かせるが、すぐにまた肩を落としてしまった。
「……すみません。私、飯塚さんに借金を肩代わりして貰っているので、あの人から離れるわけにはいかないんです……」
「もし、そういう柵が無くなったらどうだ? 借金云々は抜きにして、お前の意思を聞かせてくれ」
如月は――ひょっとこの面を外し、涙に潤んだ双眸で俺を見る。
「……オッドキャットに、葉村さんの所に……行きたいです」
如月の、心からの願いだろう。
「わかった。それだけ聞ければ十分だ」
「でも、これ以上葉村さんに迷惑を掛けるわけには……」
「迷惑なんてとんでもない。俺自身のためにも、お前にはオッドキャットに来てほしいんだ」
きょとんとする如月。
俺は照れながらも、如月に気持ちを伝える。
「……実はさ、俺、魔物と戦える術を手に入れたんだ」
「その右腕ですよね? み、見てました! あのミノタウロスを倒してました! そうだ私、まずお礼を言わないといけないのに……! すみません! 本当にあの時は助かりました! ありがとうございました!」
如月は慌てて頭を何度も下げる。
「その件についてはもういいよ。えっと、話を戻すぞ? 俺はこれからシーカーとして生きていこうと思う」
「そうなんですか! す、凄いです! きっと葉村さんなら素晴らしいシーカーになれます!!」
「そんで、そうなると当然、パートナーとなるサポーターが必要となるわけだ」
「そうですね! オッドキャットなら、葉村さんに見合った凄いサポーターさんを見つけてくれますよ!」
「……如月小雪。お前に、俺のサポーターになって欲しいんだ」
如月は首を傾げ、ポカーンとする。
俺が何を言ったのか良く理解できていない様子だ。
「えっと? よく意味が……」
「あのミノタウロス相手に飯塚が逃げる隙と時間を作るなんて凄いことだ。俺がミノタウロスと戦っている時にも、満身創痍な体を動かして完璧なタイミングで拘束魔法を撃ってくれた。サポーターとしての実力は疑うまでもない。それに……シーカーのために命を張ってあんな化物に向かっていくなんて、普通できることじゃない。尊敬する。俺の後ろを任せられるのはお前しかいない」
如月はようやく俺の言葉を理解したのか、顔を赤くして目を逸らしてしまった。
「いいい、いや! 葉村さんにはもっと相応しいサポーターが居ますよ! 私なんかより全然、相性のいい方が居ます!」
「……俺と組むの、嫌か? それならハッキリ言ってくれ。無理やり組もうとはしないからさ……」
「ととと、とんでもないですっ!」
如月はもじもじと人差し指と人差し指を何度も合わせ、顔を逸らしながらゆっくり言葉を紡ぐ。
「えぇっと、そうですね……えぇっと……えと……ぜ、是非とも、よろしくお願いしたい……というか」
「本当か! よっし! そんじゃ後はお前を飯塚から引き離すだけだな!」
如月は三文字魔法までしか使えないが、最低限の魔法を揃えているし、身体能力もサポーターにしては高い方だ。飯塚と組んでいるからだろうが、周りを良く見て行動する。サポーターとしてのポテンシャルは非常に高い。
如月をサポーターにできればA級上位だって夢じゃない!
「ほ、本気なんですね……えへへ。嬉しいなぁ」
如月は照れくさそうだ。
自分の実力を評価されたのが嬉しいんだろうな。飯塚は如月のこと褒めることないだろうから。
「おおぉっと! これはこれは! 変態クソ雑魚サポーター君じゃねぇの!!」
穏やかだった病室の空気が一気に引き裂かれる。
振り返ると、手ぶらの飯塚が入り口に立っていた。
「飯塚……」
「様を付けろよ。クズ野郎」
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