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俺は天を仰ぎ観念した。そして苦笑いを浮かべて、両手を上げる。
「それで? 俺は何か企んでいたか?」
「いいえ。私が見たのは、誰もが逃げ出したくなる汚物を前にして、黙々と働く頼もしい一人のフィクサーでした」
「俺もそうだ」
俺は彼女の言葉に応じる。
「俺は教会の連中は信用していない。だから、あんたがここに来たとき、一日で逃げ出すと思っていた」
「それで? どうでした?」
「俺が見たのは。誰もが逃げ出したくなる汚物を前にして、黙々と働く美しい一人の騎士だった」
俺は深呼吸した。初恋をした少年のように胸が苦しくなる。あの日のイヴェットを俺は思い出す。
魅せられてしまったんだよ、灰色烏が。
「――本当に美しいものを見てしまったんだ。だから、助けたかったんだよ。俺なりの方法で」
「そう言っていただけて嬉しいです。騎士として、一人の人として」
イヴェットははにかんだようにほほ笑む。俺はとうとう目を背けた。騎士と元盗賊のこんな会話など、滑稽すぎて誰にも聞かせられない。
「元盗賊に手助けされるのは嫌だったか?」
「いいえ。あなたは私の――ひいては皆の恩人です」
俺に対して、イヴェットはちゅうちょなくそう言った。
「あなたは良い人です。心からそう思います」
「面と向かって言うな。俺は灰色烏だぞ。あのファルネーゼ公だって、気に食わなかったから引退させてやっただけだ」
「ふふ、そういうことにしておきます」
俺も焼きが回ってしまったようだ。一人の教会騎士さえだませないんだからな。
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