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マーロンは当惑する盗賊たちを一喝する。
「何をぼさっとしている! 『灰色烏』のお帰りだ! 先代のギルド長に礼儀を尽くせ!」
その言葉で、連中は慌てて立ち上がって俺に頭を下げた。マーロンは俺をカウンターに招く。
「まあ座ってくれ、ウォーレス。久しぶりに顔を見られて嬉しいよ。老骨も昔の武勇伝がよみがえるってものだ」
「俺も会えて嬉しいが、昔話がしたくて帰ってきたわけじゃない」
灰色烏。それが昔の俺の通り名だ。孤児だった俺は盗賊ギルドに拾われ、ギルド長にまで上り詰めた。足を洗った俺だが、また戻ってきた理由は簡単だ。
「おい、まさか」
マーロンが驚きと同時に、嬉しそうな顔をする。こいつは俺が灰色烏だった時、右腕として沢山の仕事を共にこなしてきた。
「そうだ。仕事だ」
「嬉しいよ。またあんたと一緒に盗みができる。で? 獲物は?」
俺は腰を下ろして、話し始める。かつて部下だった男に自分の作戦を語るのも懐かしい。
「ラエティア公ファルネーゼ枢機卿を、権力の座から追い落としたい。密輸の帳簿、武器の違法生産、親族の不正。あいつの抱えている山ほどの醜聞の証拠を、政敵に送り付けてやるのさ」
俺がそう言うと、マーロンは悪党の顔で笑った。
「こんなに血がたぎる仕事は久しぶりだ。やっぱり俺たちにはあんたが必要だよ」
周りの連中はおずおずと俺たちに近寄り始めた。あの人が灰色烏だって……というささやきが聞こえる。
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