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冒険の遺書  作者: 寥
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1話〜冒険の前日〜


××年×月×日 【冒険に出る前日】


「おい、俺は水が苦手なんだよ!気をつけろよ!」


建物の陰から顔見知りの魔物が顔を出して叫ぶ。

装備が濡れている。


僕の手にはバケツに入ったたっぷりの水。

育てている植物に水をあげている最中のことだった。


「ごめん、僕 ドジだから…これからは気をつけるよ!」

「これからは、って…お前 明日旅立ちの日だろ!勇者様がよー」


今更遅い!と怒りをあらわにしたかと思うと、ま、少し寂しくなるなと、急にしんみりとした顔になった。


そう。

僕は生まれた時から勇者らしいのだ。


「僕が勇者とか、未だに信じられないけどな…」

「そんなの俺たちの方が信じられねーよ」


村一番のドジなお前がなー、と魔物が続ける。


魔物。そう、この村には人間だけでなく、魔物が共存している。

僕は他の村を知らないからあまり分からないけど、それはとても珍しいことみたいだ。


僕の使命は魔王を倒すことだけれど、この村に住む魔物は魔王への信仰心を持ち合わせていないらしいので、罪悪感も無い。




「ヨル!あなた明日の準備は済んでるの?」



パタパタと音を立てて、綺麗な銀髪を靡かせる彼女は僧侶のフィアだ。


「出来てるよ。」

「そう、それならいいけれど」


フィアは優しい眼差しをこちらに向けて微笑む。


フィアは、僕の10歳上の幼馴染だ。

両親のいない捨て子の僕を、実の息子のように思って接してくれている。


「こんな美人と二人旅とか、ガキのくせにお前…ぜーたくな旅だなオイ〜」

「達者でやれよ二人とも!」


周りにはいつの間にか魔物、人間問わず人が集まってきた。


「ハイハイ、皆仕事に戻る戻る!」


フィアがパンパンと手を叩くと、周りもそれぞれの持ち場に散り散りとなっていった。 


フィアはみんなに好かれていて、僕にとっても憧れのお姉さんだ。


「僕、フィアも一緒に来てくれて心強いよ。」


そう言うとフィアは綺麗な顔で微笑んで、ふふっと声に出して笑った。


「ヨルは私の息子同然だもの。突然よ」



明日僕は、冒険に出る。

大好きなフィアと。2人きりで!


心が躍って仕方ない。




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冒険の書を閉じる。

ふう、とため息を吐く。


冒険を始めて2年、隣にいるのはフィアではない。

この時の僕が今のこの状況を見たら、行動を変えるだろうか。


今思えば苛立たしいほどに、この時の僕は何も分かっていなかったのだ。

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