先輩、華麗に決めさせて下さい!
そう言えば、そろそろ太陽が壊れそうですね、先輩!
「魔鍾洞」。
火山の近くにある地下洞窟で、大小様々な宝石が壁を構成しているという、実にファンタジーなフィールドである。迷宮のように入り組んだ内部は雨水の浸食によるものであり、幾つかのエリアには地底湖が存在している。その為、案外と水棲生物が多いのが特徴。
今回の獲物である「ハスワンテイル」も、その内の1体だ。虻を祖先に持つ超竜種で、別名を「虻瀑超竜」という。
見た目としては、複眼を3対持った水龍の頭部に、百足のような体節と節足だらけの胴体、海老を思わせる尾鰭など、全体的に深海生物系統の姿をしている。甲殻は背側が黄褐色で腹側が赤褐色と、濁った水辺に適応している事が分かる。地底湖は澄んでいるが薄暗いので、正直体色はあまり関係ないのだが……。
何というか、容姿はハッキリ言って、かなり気持ち悪い。明らかに異形だし、作品が違えばルルイエとかに生息してそう。
まぁ、超竜種なので淡水域にしかいないのだけれど。色々と惜しい。
そんなクトゥフル系の化け物を狩りに来た先輩だったが、
『普通に奇麗な所だな』
「それがここの売りみたいな物ですからね。珍しい鉱石とかも有りますし、採掘ポイントとしての評価もかなり高いですよ」
『それは楽しみだな。鉱石を使った装備とかもあるんだろ?』
「はい。攻撃力は若干控えめですけど、色んな属性を持っているのが特徴です」
『良いねぇ。幾ら初期装備を脱却したと言っても、序盤モンスターのスキルなんて、高が知れてるからな。しっかりと素材集めもしておこう』
「了解でーす」
気分は完全に炭鉱夫だった。プレデター有る有るである。自分の命より素材、みたいな。
という事で、ピッケル片手に採掘タ~イム♪
……カツン、コツン、カキン!
【「鉄鉱石」を手に入れた!】【「鉄鉱石」を手に入れた!】【「魔鍾石」を手に入れた!】
「おっ、「魔鍾石」が手に入りましたか」
『レア物?』
「“ご当地品”って奴ですね。中々の一品ですよー」
『幸先良いね』
「はい!」
この調子を維持したまま、クエストクリアまで持って行きたい所。
『所で、他のモンスターとかは居ないの?』
「とりあえず、近くの区画に「クォステロス」ってのが居ますね」
『何それ?』
「……攻略サイトによると、とんでもない地雷恐竜種らしいです」
『恐竜種ってそんなのしか居ないのか……』
「まぁ、恐竜種はあくまで超竜種よりもヒエラルキーが下ですからね。ビックリ芸でも持ってないと、色々と不都合が多いんでしょうよ」
『なるほど』
更に詳しく言うと、「クォステロス」はヨロイトカゲ科から進化した種族であり、消化した鉱物を鱗に生やす事で、様々な鎧を身に纏うモンスターだ。その単純な特性から亜種や近縁種が多く、「テロス系」というグループを形成する程に優勢な種族でもある。
クォステロスの纏う鱗はガラスであり、見た目だけは非常に美しく、人気が高いらしい。逆に言えば、戦闘に関しては「クソモンス」呼ばわりされていたりするのだが。
どちらにしろ、こいつは今回の獲物ではない。無視して先に進もう。
《クォルルル……コァアアアアアアッ!》
「『うるさーい!』」
と思ったら、移動して来やがった。しかも、即座に見付かっちゃったよ。
……うん、改めて見ると、確かに奇麗なモンスターだな。
ベースはメガロサウルスだが、テリジノサウルスのような鈎爪が有り、頭頂部から尻尾に掛けた背中側にびっしりと生えたガラス状の鱗がキラキラと輝き、光の反射具合によっては虹色恐竜のようにも見える。
しかし、相対して理解出来た。こいつはクソモンスだと。だってさ、
「『耳がーっ!』」
威嚇の唸り声に合わせて、全身の鱗を擦り合わせて警告音を出しているのだが……これがまぁ、煩いの何の。ゲームの癖に、一端にガラスを引っ掻く音を鳴らすんじゃない。おかげで全身がゾワゾワするだろうがぁ!
《クォオオン!》
さらに、デカい図体の割りに飛び道具が主体のチキン戦法を使って来るウザったさ。仮にも“恐れ知らず”って設定されてるんだから、猪突猛進に攻めて来いや。そうしたら、カウンターでボコボコにしてやるからよぉ!
『あ痛ッ!? 何これ、超痛いんだけど!? 傷が……傷がエグい!』
と、地面に突き刺さった鱗にうっかり触れてしまった。それも何度も。実際はボクの操作ミスなんだけどね。痛みに喘ぐ先輩という垂涎物な姿に、ついついやっちゃったんだ♪
だが、そんな事を言っている場合ではない。最初の鱗飛ばしを諸に食らった上に、その後も置き土産にまで触れまくってしまった。
「あ、ヤバい! それに触れちゃいけませんよ!」
『もう遅――――――イナバウァアアアアアア!』
「先輩ィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
その瞬間、先輩がチャールズ・ベルの絵画を思わせる、後頭部と踵だけを地面に着けた海老反り状態……所謂「バビンスキー反射」の恰好になった。
『ななななななぁななー!?』
「これは「破傷状態」と言って、テロス系のモンスターが放つ鱗に当たり続けると、一定時間そうなります」
『うなぎぎぎ、あなおなにー!?』
「まぁ、割と直ぐに解けるんですが、敵の前でそんなポーズを取ってれば当然――――――」
《クカァアアアッ!》『ぎぇええええっ!』
「……そうなります」
ごめんなさい、先輩。ユーザーに忌み嫌われる“テロス殺法”をキッカリと食らったせいで、獲物に接敵する前に1乙してしまった。哀しい……。
『……お前、ふざけるなよ』
拠点に帰還したと同時に、先輩からお叱りを受けた。当然ではある。
「ごめんなさいィイイイ!」
『あれ、意外と攻撃範囲狭いし、自分から当たるか事故でも起きない限り、絶対にあの状態には陥らない奴だろ』
ヤバい、バレテーラ。流石は先輩、素晴らしい洞察力ですねぇ。
「だ、大丈夫! 次は無いですから!」
『いや、つーか、そもそも獲物が違うんだよ』
「そうですけど、このまま引っ込んでは男が廃るってモンでしょうが!」
『お前が言うか』
言うんですぅー!
さぁさぁ、第3区画へ急ぎ戻って、クォステロスの野郎をぶっ倒すぞ……先輩がなぁ!
◆クォステロス
動物界脊索動物門脊椎動物亜門爬虫綱恐竜目テロス科のバンブ級モンスター。ヨロイトカゲ科を祖先とする大型の恐竜種で、食べた鉱物を鱗として生やし、鎧や武器として利用する性質を持つ。
また、破傷風菌とよく似た微生物と共生しており、撃ち出される鱗の内部にギッシリと詰まっている。その為、着弾と同時に感染し、瞬く間に破傷風の症状を引き起こす。本来ならそこで食らった生物は死んでしまうのだが、プレデターは人間を辞めているので、一定時間拘束されるだけである。
まぁ、無防備な状態で動きを封じられるので、その後に訪れるのは「1乙」という名の「死」なのだが……。
ちなみに、共生している微生物は鉱物を食べる際に摂取しており、自然界に普遍的に存在している。