表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

先輩、初心者を卒業して下さい!

先輩、装備を新調しましたよ!

 つぎのひ~♪


「おはようございます、先輩!」

『……おはよう』


 目覚めの朝がやって来た。今日も今日とて、先輩をプレイングするとしよう。


『その前に1つ聞きたい。……オレの身体、今どうなってる?』

「綺麗さっぱりしてますよ! 今は“自動身体機能訓練オートリハビリプログラム”でスクワットをしている最中です! 大丈夫、先輩のルーチンは全て把握しているので、何の問題もありません!」


 ボクは背後でスクワットをしているリモート状態の先輩をチラ見ながら答えた。相変わらず逞しく美しい肉体である。滴る汗は、まるで砂金のようだ。


『いや、問題しかないよ!? 何してくれてんの!?』

「何って、先輩の雄々しい姿を堪能してるんですが……」

『何を言ってるんだお前は! 今すぐ止めろ!』

「いいえ、止めません! 筋トレで掻いた先輩の汗を舐めたいという、ボクの純粋な気持ちを分かって下さい!」

『純粋ではないし、分かったらお終いだろ、それは!』


 よく分かってるじゃないですか。なら問題はありませんね。


「そんな事より、今日は装備の強化ですよ」

『そんな事より!? ……いやまぁ、装備の強化は正直したいけど、そういう事じゃなくてな!?』

「さぁ、先ずは武器屋に行きましょうか!」

『人の話を聞けよ!』


 だが断る★♪ という事で、レッツ武器屋!


「着きましたよ、先輩」

『おお、遂にここへ入れるのか!』


 前回通り過ぎるだけだった武器屋を前に、先輩の目がキラキラと輝く。可愛い。どんなにイケメンに成長しても、中身はやっぱり夢見る男の子だよなぁ。


『中は更に凄いな!』

「所狭しと武器が並んでますねぇ」


 ドアを潜ると、そこは武具の回廊でした。右を見ても左を見ても、何なら天井を見ても、武器や防具でいっぱいであり、武骨な物から不思議な物まで、多種多様な武具が飾り立てるように陳列されている。見ているだけでも飽きないが、今回は売買ではなく武具の強化に来たので、眺めるのはまた今度にしましょうね、先輩。


『いらっしゃ~い』


 すると、店の奥にあるカウンターから声が掛かった。目を向ければ、中性的な容姿の人物が。逞しくはあるが美しくもあり、声の高さもテノールくらいと、体格や声色でも判断が付かない。鍛冶職人らしい格好もそれに拍車を掛けている。


『角?』

「耳も尖ってますね」


 しかし、一番気になるのは、頭に生えた二本角と尖った耳であろう。よく見ると瞳孔が縦長だし、歯や爪も鋭い。これはもしかして、


「なるほど、「半妖族」ですか」

『「半妖族」?』

「文字通り、半分化け物(・・・・・)って事ですよ。正確には現人類とは別系統の人間ってだけですがね」

『………………』

『……おやおや、お客さんは半妖差別主義だったかね。こりゃ失敬』


 と、先輩の台詞が聞こえていたらしい半妖族の女が、何でもないように言ってのけた。こういう扱いに慣れているのだろう。


『(なぁ、半妖族って、もしかして)』

「バッチリ差別の対象ですね。一応、公には平等に扱ってますが、大抵の人間は眉を顰めますし、酷いと小型モンスター呼ばわりして攻撃する奴さえいます」

『(酷い話だな)』

「人間なんて、どの世界でも同じ物ですよ」


 そう、十把一絡げの人間など、どいつも大差はない。皆クズさ。


『……いえ、そういう訳ではありませんよ。ただ、今まで見た事が無かったもので』

『あ、そうなの。なら、珍獣が見られた記念に、何か買って行くかい?』

『……えっと、その……』

『ああ、気にしないで。あたしは武具を弄れりゃそれで良いからねぇ。ただ、金が入らないと続けられないから、仕方なく売ってるだけで。アタシにとって、お客様は誰でも神様よ。どうせ馬鹿は直ぐに死ぬしね。お小遣いを貰えた上で自主退場してくれるんだから、こっちとしては文句なんて無いのよん』

『は、はぁ……』


 うーん、凄いな、この女。

 人間種からの差別が強いとは言っても、半妖族は長生きで身体能力も高いから、普通に殺り合っても負ける事は殆ど無いし、精々“下等生物が何か言ってる”程度に感じている奴も少なくないって設定資料に書いてあるけど、こいつは特別な気がする。

 だって、人間種どころか同族すらも“金の成る木”ぐらいにしか思ってないもん、絶対に。見た所、他に同系統の店も無いし、実質的に独占状態だから、態度もデカくなるのかも。


『それで? 今日はお買い物? それともオーダーメイドでもご所望で?』


 そして、この切り替えの早さである。これで腕が鈍だったらぶっ飛ばすぞ。


『あ、ハイ。このカリギュラスの素材で、武器の更新と防具の新調をしたいんですけど』

『ああ、よく見りゃ最初期装備だもんね。それじゃあ、命が幾つ有っても足りないの、分かるよー。そんじゃまぁ、依頼は受けたから、とりあえず今日は返って、出来上がるの待っててねー。大体、2、3日で完成するから』


 とは言え、それはゲーム内での話。現実世界はそれをスキップ出来るので、物の数秒で完成する。

 だが、せっかくだから、用意された作成ムービーくらいは見るか。これに関しては先輩にも知識として共有されるみたいだし、丁度良いのかもしれない。

 と言う事で、レッツ見学タイム。

 先ずは鉱石を溶かして、雛型となる剣や盾、防具を形作る。熱々の金属をハンマーで叩く様は、万国共通のようだ。

 しかし、その後は大分異なっている。

 カリギュラスの皮や骨を加工し、基礎となる武器や防具に熱で圧着しつつ、刃の部分や鎧の裏側にパイプのような物を組み込んで行く。管の中には濃縮したカリギュラスの体液を流し込んでおり、剣と盾のグリップ、鎧の各部に循環システムを埋め込んである。握ったり、構えたりと、一定の動作で体液に刺激が伝達され、発光をサインに作動する仕組みだ。

 何と言うか、側こそファンタジックだが、中身はオーバーテクノロジーの塊、みたいな感じである。

 実際、映像内で半妖族の女が武器を構えると、刃の縁に体液が走り、ギャラギャラと輝く光刃に変化している。鎧の方も同様だ。科学と魔法が融合した、“魔導化学”とでも言えば良いだろうか?


『……そう言えば、初期装備も戦闘時はちょっと光ってたかもな』

「そうですね。プレデターの武器や防具は、モンスターの体液を利用する事で絶大な力を発揮します。素材を剥ぎ取る時に必ず体液を採取するのは、その為みたいですよ」

『へぇ……』


 ついでに他の体組織も回収するのは、刺激を与える事で一時的に蘇った体液に、肉体がまだ生きている(・・・・・・・・・・)と誤認させる為(・・・・・・・)だったりする。

 つまり、プレデターの装備は、モンスターをそのままコンパクト化し、人間が使い易くした物なのだ。死体を操っていると言っても良い。敵の力で敵を制するなんて、中々に痛快な設定じゃあないか。

 ただ、諸刃の剣である事に変わりはないので扱いは慎重にすべきだし、場合によっては不利になる事もある。それこそ、プレデターの腕が試されるのだろう。


『はぁ~い、出来たわよー。動作は問題無いから、お金だけ置いて、早く自殺し(ハンティング)に行ってね~』

『………………』


 そんなこんなで、(ゲーム内では数日経った設定で)約束の武器と防具を装着してみる先輩。ルビのおかしさは、この際見なかった事にしよう。


「先輩、似合ってますよ」

『(そうかな?)』


 鱗が目立つ装備に身を包んでるから、まさに竜騎士って感じ。フリルをポンチョのようにしているのもGOOD。武器を銃にして、ティンガロンハットを被れば、凄腕ガンマンに早変わり出来るデザインが秀逸ね。ととてもエリマキカナヘビから作られたとは思えないわ。

 ちなみに、武器は相変わらずの“右手に盾を左手に剣を”な「グラディアルスタイル」のまま。色んな武器を使うのは楽しいけど、先ずは「これ」っていう1本を見定めないとね。


『どんな感じ~?』

『良い感じですね。明らかに力が漲って来ますし、鎧を着ているのに前よりも身体が軽く感じます』

『そーそー。アタシの腕は神様級だからねー。それじゃ、これからも宜しく~。……短い付き合いにならないと良いねぇ?』

『は、はい……』


 やな感じぃ。

 だが、これでようやく初期装備を脱した。後は誰にも邪魔される事なく、気持ち良く狩りを成功させるだけである。

 そう、今度こそ先輩とボクの力だけで、ね。

 さぁ、初級装備を卒業した先輩に狩られる、名誉あるモンスターは、どいつだ!?

◆イコル・ドラゴノイズ


 シズラエル唯一の武器屋を営む鍛冶師。半妖族でもあり、随分前から店を構えている。

 一見するとおっとりマイペースという感じだが、実際は武器や防具を作る事にしか興味が無いサイコパスで、プレデターは金の成る木ぐらいにしか思っておらず、金さえ落としてくれれば後は一切無関心となる。仕事とお金には忠実なので、金払いさえ良ければいい顔はしてくれる。

 ちなみに、戦闘能力も並みのプレデターを返り討ちにする程度にはあり、その気になればプレデターとしてもやっていけるが、あくまで武器を作る事にしか興味がないので、そのつもりは毛頭ない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ