先輩、初心者を卒業して下さい!
先輩、装備を新調しましたよ!
つぎのひ~♪
「おはようございます、先輩!」
『……おはよう』
目覚めの朝がやって来た。今日も今日とて、先輩をプレイングするとしよう。
『その前に1つ聞きたい。……オレの身体、今どうなってる?』
「綺麗さっぱりしてますよ! 今は“自動身体機能訓練”でスクワットをしている最中です! 大丈夫、先輩のルーチンは全て把握しているので、何の問題もありません!」
ボクは背後でスクワットをしているリモート状態の先輩をチラ見ながら答えた。相変わらず逞しく美しい肉体である。滴る汗は、まるで砂金のようだ。
『いや、問題しかないよ!? 何してくれてんの!?』
「何って、先輩の雄々しい姿を堪能してるんですが……」
『何を言ってるんだお前は! 今すぐ止めろ!』
「いいえ、止めません! 筋トレで掻いた先輩の汗を舐めたいという、ボクの純粋な気持ちを分かって下さい!」
『純粋ではないし、分かったらお終いだろ、それは!』
よく分かってるじゃないですか。なら問題はありませんね。
「そんな事より、今日は装備の強化ですよ」
『そんな事より!? ……いやまぁ、装備の強化は正直したいけど、そういう事じゃなくてな!?』
「さぁ、先ずは武器屋に行きましょうか!」
『人の話を聞けよ!』
だが断る★♪ という事で、レッツ武器屋!
「着きましたよ、先輩」
『おお、遂にここへ入れるのか!』
前回通り過ぎるだけだった武器屋を前に、先輩の目がキラキラと輝く。可愛い。どんなにイケメンに成長しても、中身はやっぱり夢見る男の子だよなぁ。
『中は更に凄いな!』
「所狭しと武器が並んでますねぇ」
ドアを潜ると、そこは武具の回廊でした。右を見ても左を見ても、何なら天井を見ても、武器や防具でいっぱいであり、武骨な物から不思議な物まで、多種多様な武具が飾り立てるように陳列されている。見ているだけでも飽きないが、今回は売買ではなく武具の強化に来たので、眺めるのはまた今度にしましょうね、先輩。
『いらっしゃ~い』
すると、店の奥にあるカウンターから声が掛かった。目を向ければ、中性的な容姿の人物が。逞しくはあるが美しくもあり、声の高さもテノールくらいと、体格や声色でも判断が付かない。鍛冶職人らしい格好もそれに拍車を掛けている。
『角?』
「耳も尖ってますね」
しかし、一番気になるのは、頭に生えた二本角と尖った耳であろう。よく見ると瞳孔が縦長だし、歯や爪も鋭い。これはもしかして、
「なるほど、「半妖族」ですか」
『「半妖族」?』
「文字通り、半分化け物って事ですよ。正確には現人類とは別系統の人間ってだけですがね」
『………………』
『……おやおや、お客さんは半妖差別主義だったかね。こりゃ失敬』
と、先輩の台詞が聞こえていたらしい半妖族の女が、何でもないように言ってのけた。こういう扱いに慣れているのだろう。
『(なぁ、半妖族って、もしかして)』
「バッチリ差別の対象ですね。一応、公には平等に扱ってますが、大抵の人間は眉を顰めますし、酷いと小型モンスター呼ばわりして攻撃する奴さえいます」
『(酷い話だな)』
「人間なんて、どの世界でも同じ物ですよ」
そう、十把一絡げの人間など、どいつも大差はない。皆クズさ。
『……いえ、そういう訳ではありませんよ。ただ、今まで見た事が無かったもので』
『あ、そうなの。なら、珍獣が見られた記念に、何か買って行くかい?』
『……えっと、その……』
『ああ、気にしないで。あたしは武具を弄れりゃそれで良いからねぇ。ただ、金が入らないと続けられないから、仕方なく売ってるだけで。アタシにとって、お客様は誰でも神様よ。どうせ馬鹿は直ぐに死ぬしね。お小遣いを貰えた上で自主退場してくれるんだから、こっちとしては文句なんて無いのよん』
『は、はぁ……』
うーん、凄いな、この女。
人間種からの差別が強いとは言っても、半妖族は長生きで身体能力も高いから、普通に殺り合っても負ける事は殆ど無いし、精々“下等生物が何か言ってる”程度に感じている奴も少なくないって設定資料に書いてあるけど、こいつは特別な気がする。
だって、人間種どころか同族すらも“金の成る木”ぐらいにしか思ってないもん、絶対に。見た所、他に同系統の店も無いし、実質的に独占状態だから、態度もデカくなるのかも。
『それで? 今日はお買い物? それともオーダーメイドでもご所望で?』
そして、この切り替えの早さである。これで腕が鈍だったらぶっ飛ばすぞ。
『あ、ハイ。このカリギュラスの素材で、武器の更新と防具の新調をしたいんですけど』
『ああ、よく見りゃ最初期装備だもんね。それじゃあ、命が幾つ有っても足りないの、分かるよー。そんじゃまぁ、依頼は受けたから、とりあえず今日は返って、出来上がるの待っててねー。大体、2、3日で完成するから』
とは言え、それはゲーム内での話。現実世界はそれをスキップ出来るので、物の数秒で完成する。
だが、せっかくだから、用意された作成ムービーくらいは見るか。これに関しては先輩にも知識として共有されるみたいだし、丁度良いのかもしれない。
と言う事で、レッツ見学タイム。
先ずは鉱石を溶かして、雛型となる剣や盾、防具を形作る。熱々の金属をハンマーで叩く様は、万国共通のようだ。
しかし、その後は大分異なっている。
カリギュラスの皮や骨を加工し、基礎となる武器や防具に熱で圧着しつつ、刃の部分や鎧の裏側にパイプのような物を組み込んで行く。管の中には濃縮したカリギュラスの体液を流し込んでおり、剣と盾のグリップ、鎧の各部に循環システムを埋め込んである。握ったり、構えたりと、一定の動作で体液に刺激が伝達され、発光をサインに作動する仕組みだ。
何と言うか、側こそファンタジックだが、中身はオーバーテクノロジーの塊、みたいな感じである。
実際、映像内で半妖族の女が武器を構えると、刃の縁に体液が走り、ギャラギャラと輝く光刃に変化している。鎧の方も同様だ。科学と魔法が融合した、“魔導化学”とでも言えば良いだろうか?
『……そう言えば、初期装備も戦闘時はちょっと光ってたかもな』
「そうですね。プレデターの武器や防具は、モンスターの体液を利用する事で絶大な力を発揮します。素材を剥ぎ取る時に必ず体液を採取するのは、その為みたいですよ」
『へぇ……』
ついでに他の体組織も回収するのは、刺激を与える事で一時的に蘇った体液に、肉体がまだ生きていると誤認させる為だったりする。
つまり、プレデターの装備は、モンスターをそのままコンパクト化し、人間が使い易くした物なのだ。死体を操っていると言っても良い。敵の力で敵を制するなんて、中々に痛快な設定じゃあないか。
ただ、諸刃の剣である事に変わりはないので扱いは慎重にすべきだし、場合によっては不利になる事もある。それこそ、プレデターの腕が試されるのだろう。
『はぁ~い、出来たわよー。動作は問題無いから、お金だけ置いて、早く自殺しに行ってね~』
『………………』
そんなこんなで、(ゲーム内では数日経った設定で)約束の武器と防具を装着してみる先輩。ルビのおかしさは、この際見なかった事にしよう。
「先輩、似合ってますよ」
『(そうかな?)』
鱗が目立つ装備に身を包んでるから、まさに竜騎士って感じ。フリルをポンチョのようにしているのもGOOD。武器を銃にして、ティンガロンハットを被れば、凄腕ガンマンに早変わり出来るデザインが秀逸ね。ととてもエリマキカナヘビから作られたとは思えないわ。
ちなみに、武器は相変わらずの“右手に盾を左手に剣を”な「グラディアルスタイル」のまま。色んな武器を使うのは楽しいけど、先ずは「これ」っていう1本を見定めないとね。
『どんな感じ~?』
『良い感じですね。明らかに力が漲って来ますし、鎧を着ているのに前よりも身体が軽く感じます』
『そーそー。アタシの腕は神様級だからねー。それじゃ、これからも宜しく~。……短い付き合いにならないと良いねぇ?』
『は、はい……』
やな感じぃ。
だが、これでようやく初期装備を脱した。後は誰にも邪魔される事なく、気持ち良く狩りを成功させるだけである。
そう、今度こそ先輩とボクの力だけで、ね。
さぁ、初級装備を卒業した先輩に狩られる、名誉あるモンスターは、どいつだ!?
◆イコル・ドラゴノイズ
シズラエル唯一の武器屋を営む鍛冶師。半妖族でもあり、随分前から店を構えている。
一見するとおっとりマイペースという感じだが、実際は武器や防具を作る事にしか興味が無いサイコパスで、プレデターは金の成る木ぐらいにしか思っておらず、金さえ落としてくれれば後は一切無関心となる。仕事とお金には忠実なので、金払いさえ良ければいい顔はしてくれる。
ちなみに、戦闘能力も並みのプレデターを返り討ちにする程度にはあり、その気になればプレデターとしてもやっていけるが、あくまで武器を作る事にしか興味がないので、そのつもりは毛頭ない。