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先輩、目を覚ましてください!

前回は見事に殺られちゃったけど、今回はそう簡単には逝かないぞー!

『はぁっ!?』

「あ、お早うございまーす」


 そして、先輩は拠点で目を覚ました。


『何とか無事に到着だワン』

『でも、仏の顔も三度まで』

『次に力尽きたら、もう後が無いワ~ン』


 すぐ傍には、先輩を送り届けてくれたイヌシー(※犬タクシーの略)のコスリヌが。

 イヌシーはチャリオット形式の押し車であり、前から2匹が力の限りに引き、後ろの1匹がバランスを取りながら押すという、3マンセルで動かしている。その為、乗り心地は決して良いとは言えず、下ろし方も非常に乱雑だが、命の瀬戸際なので贅沢は言っていられない。


『おい、後輩』

「何ですか、先輩?」

『……BGMに殺されたんだが』

「そういう仕様ですから」

『どういう仕様なんだよ!?』

「この世界のモンスターにはクラシック系の音楽がBGMとして使用されてるんですよ」

『マジかよ。そう言えば、ランボルギアスの時も「魔王」っぽい感じがしたような? ……えっ、じゃあ、また聞かなきゃいけないの、あれ?』

「そういう仕様ですから。一応「ウルトラバージョン」とか「オリジンバージョン」とか、別パターンもありますが、今の設定だと変えられないみたいです」

『あっそう……』


 ボクとしては、力尽きた=死亡じゃなくて一安心だよ。

 まぁ、クエスト失敗が死に直結している可能性はまだあるけど。それはそれ、今気にすべきは、カリギュラスをどう攻略するかだ。


『あっさり殺られちゃったから分からんけど、あいつはどういう攻撃をしてくるんだ? 当然、体当たり以外もあるんだろう?』

「はい。蜥蜴らしく舌を伸ばしたり、振り回したりしてきます。あと、唾液の塊を吐き出してくるようですが、威力こそ大した事は無いですけど、あまりガードはしない方が良いでしょう。仰け反っている内に追撃を食らう可能性が高いので」


 カリギュラスは元がカナヘビなので、大してスペックは高くない。攻撃も属性付与のない物理一辺倒であり、威力もそこまで高くは無い為、突進や舌攻撃後の隙を見逃さず、しっかりと反撃すれば初期装備でも何とか倒せるだろう。


『……あとはBGMをどうするかだな』


 問題は先輩がNPCではなくプレイヤーという事だ。彼は己のステータスもバーチャルで確認出来る転移者状態なので、嫌でもメタ効果の影響を受けてしまう。BGMを別バージョンに切り替えれば済むのだろうが、何故か「クラシックバージョン」から変更出来ないので、克服して貰うしかない。


「まぁ、流石に2回目はインパクトも薄れてるでしょうから、思い出し笑いしないように気を付ければ大丈夫じゃないですか?」

『それもそうか』


 さっきの事故死は、あくまで予備知識のない完全初見のせいである。ボクの先輩に“次”なんて無いのさ!


『というか、早く戻らなくて良いのかワン?』

『……ッ、そうだった!』


 ああ、そう言えば魔女っ子は現場に居るんだっけ。死んでなきゃ良いけど。……いや、流石にそれは無いか。ともかく急ごう。


『頼むぞ、コーチン!』

《コケッコーッ!》


 という事で、コーチンに跨り超特急で第4区画へ逆戻り。意外と力持ちだよね、コーチン。見た目は鶏なのに。


『てぇいっ!』《ギュルァ……ッ!》

「『おいぃいいいいいいいいッ!?』」


 だが、戻る頃には、カリギュラスは魔女っ子に討伐されていた。クエスト達成のファンファーレがボクと先輩の脳内に響く。

 ……って、何て事しやがる、このちび助!

 折角の先輩の初陣を、待つ事無く台無しにするなんて、絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!


『フッフッフッフッ、遅かったですね! しかし、初期装備の攻撃力や防御力なんて高が知れています! だからこそ、こうしてアタシが後輩の為にと、代わりに狩っておきましたよ! さぁ、ここからは剥ぎ取りタイムですよ! これこそ、プレデターにのみ許された特権です!』


 しかし、魔女っ子は気にするどころか「感謝して敬え」とでも言わんばかりのどや顔を浮かべ、せっせと素材回収を始めた。

 プレデターの狩猟はハンティングであると同時に食糧確保でもあるので、討伐した(もしくは生け捕りにした)モンスターは一定時間後にスペクターが回収する事になっている。その間、プレデターは己の武器や防具を強化する素材や、“今夜のお楽しみ”となる材料を剥ぎ取れる事が許されている。謂わば、命懸けで人類存続に貢献した者に対する、ちょっとしたご褒美である。

 ……だから急ぐのも分かるし、寄生虫プレイをさせて貰った身の上で言うべきではないのだろうが、そうだけどそうじゃないだろ。反撃の臨場感と、初勝利の達成感を先輩に返せ。


「えい」

『あ、おい!?』『あたた、何するんですか!?』


 という事で、素材を剥ぎ取ろうとしていた魔女っ子の背中を(先輩が)蹴った。もちろん手は止まり、無防備故の隙も生まれる。


「そりゃあっ!」

『ああっ!?』『目がーッ!』

「こいつもだぁ!」

『おーい!?』『ぐわばぁあああっ!?』


 さらに、輝石玉を零距離で炸裂させ視界を奪った後、足元に爆弾を設置して吹き飛ばした。その隙にそそくさと素材を剥ぎ取り、魔女っ子が復活する頃にはタイムアップ。見事に素材を独り占めに出来た。


『何て事をするんですかぁっ!』

『ち、違う! 後輩が勝手に!』

『後輩はアナタでしょうがぁ!』


 こうして、先輩の初陣は若干の不完全燃焼ながらも、貰う物はしっかりと頂いた上で幕を閉じた。これで初期装備からも脱却出来るし、万々歳だ。


『滅茶苦茶殴られたんだけど』

「……すいません、つい」


 その後、先輩は魔女っ子にオラオラとしこたま殴られたのだが。

 しかも、魔女っ子はシズラエルに着くや否や、スペクター筆頭の女にチクりやがったのだが、“確かに褒められた物ではない”とした上で“そもそも無理矢理チームを組ませたお前も悪いし、何より先輩面するなら、せめて止めくらいは後輩に譲ってやれ”とド正論で返された為、有耶無耶となった。ざまぁ。


「あ、先輩」

『ん? どうした?』


 と、先輩が1人用の宿屋で床に着いた所で、ボクは大事な事を思い出した。


「時間も時間なので、ボクもそろそろお風呂に入って寝たいんですが」

『そっちだと何時なんだ?』

「深夜0時です」

『思ったより時間経ってた!?』


 ゲームあるあるですよねぇ。まだ2回しか狩りに参加してないけど、こういうゲームって、何だかんだで時間が溶けちゃうんだよなぁ。


「という事で、スリープモードにするんで、先輩も寝て下さいね。なぁに、こっちの先輩はボクが磨いておきますよ」

『えっ、磨くって……おい、ちょっと待っ――――――』

「さようなら~♪」


 さぁ、お楽しみはこれからだぁ♪

◆カリギュラス


 動物界脊索動物門脊椎動物亜門爬虫綱恐竜目ギュラス科に属するバイ級の中型モンスター(ただし個体差が著しい)。有隣目のカナヘビを祖先とする恐竜種で、俊足による突進と長い舌を活かした薙ぎ払いや叩き付け攻撃を得意としている。昆虫食が強いが果実も食べる雑食であり、群れは作らず単独で行動する。基本的に温暖な気候を好むが、サバンナやツンドラ、砂漠のような過酷な環境でも生きていける環境適応能力を持っており、割と何処でも見掛けるモンスターである。

 特にこれと言った能力は無いが、頸周りに付いたフリルを広げながら突進して来る姿は迫力があり、初見のプレデターは驚いて足を止めてしまう事が多い。それはつまり自動車顔負けの突進が直撃したという事であり、即ち「死」を意味している。

 ちなみに、彼らの交尾は筆舌に尽くし難い“ハード・コア・ポルノ”とでも言うべき物で、見た者は一生その光景を忘れないという。

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