先輩、一狩り行っちゃって下さい!
先輩、そこどいて、そいつ殺せない!
「『何だこいつ……』」
最早それしか言えない。マジで何なの、この人?
『こいつとは失礼ですね! アタシはキミの先輩ですよ!』
「『は、はぁ……』」
こんな先輩は嫌だし、ボクの先輩は彼だけです、ハイ。
『おや、帰ってたのか。確か「バルセルク」の方へ行ってなかったっけ?』
すると、女騎士が魔女っ子へ気さくに声を掛けた。
『おお、そう言うアナタも遂に定住したのですか。手紙で知ってはいましたが、改めておめでとうございます。アイツもきっと泣いて喜ぶでしょう』
『いや、泣いてお断りされたが……』
『でしょうねぇ~』
対する魔女っ子も友達感覚で返す。知り合いなんだね、君ら。ますます以て関わりたくないんですけど。
それで何の用だ……と言いたい所だが、チームを組みたいって言ってたな。ぼっちなの君?
しかしなぁ、こんな浪漫兵器を恥ずかし気も無く背負ってる奴と組むのは正直厳しいし、何より恥ずかしい。フレンドリーファイヤーで殺されたり、後隙を狙われて勝手に自爆されたりしたら、目も当てられないだろう。幸い選択式のようだし、ここは断るか!
▷はい
▶いいえ(ポチッ!
New Loading……
▶はい(カチッ!
▷いいえ
『ハッハッハッハッ! 分かってるじゃないですか!』
「『あれぇ!?』」
断れないだとぉ!?
しかも、「はい」だから強制的に仲間入りだよぉ~。
ま、まさか、これもチュートリアルだったのか!?
『さぁ、それでは早速クエストを受注しに行きましょう!』
「………………!」←※必死に別方向へ行こうとしてる
だ、駄目だ、運命からは逃れられないィ~!
『は、放せ! 放せぇ!』
『だが断る!』
だが断られた先輩が、魔女っ子に襟を掴まれてズルズルと引き摺られていく。この魔女っ子、意外と力あるな。
『おっと、待って貰おうか! 彼はワタシの後輩だ。勝手に連れていかれては、困るなぁ?』
と、ギルドの受付に辿り着く前に、女騎士が先輩の足を掴んだ。
『アアアアアアアアアアッ!』
「先輩ィイイイイイイイッ!」
当然、先輩は胴を中心に二方向へ引っ張られる事になり、普段は絶対に聞けない酷い叫びを上げた。まるでウ○トラ警備隊の狙撃手のようである。
と、その時。
――――――ダダキンッ!
『『はぁん♪』』
一瞬の風切り音と共に、女騎士と魔女っ子が撃墜され、先輩は解放された。危うく先輩が2つに裂かれる所だったぜ。
『はぁ……はぁ……あ、危ねぇ……っ!』
「そういう処刑方法、ありましたよね?」
『それが許されるのは近世までだよ……』
ハァハァしてる先輩も素敵。興奮しちゃう。
それにしても、今の攻撃は一体……?
『あいつは……?』
とりあえず音が飛んで来た方に先輩を向けてみると、そこには如何にも死神(というか何処ぞの暗黒卿)みたいな姿をした近寄り難い雰囲気の女と、何かチャラい格好をしたパリピ野郎、それから小学生の年少さんくらいの女の子が居た。恰好に統一感が無いものの、雰囲気的に核家族だろう。
その内の死神女が、左手に変わった形の狙撃銃を携えており、おそらく彼女が女騎士と魔女っ子を狙撃した物と思われる。こいつ、スナイパーライフルを片手撃ちしたのか。
つーか、こんなギルドのど真ん中で人を撃ち殺しちゃったけど、良いのか?
お巡りさん、こいつでーす!
『えっと……』
『煩い。飯は黙って食え。耳障りだ』
『えぇ……』
『ああ、そいつは観測者筆頭だから問題ないワン、新人くん』
まさかのこいつがお巡りさんだった。
『(おい、スペクターって何だ?)』
「「観測者」の事ですよ。文字通りクエストの観測を担当する裏方的な人たちで、現場の情報収集や力尽きた時の撤退支援とか、プレデターを補佐する役目を担っています。ただし、それは世を偲ぶ仮の姿。実態は密猟や仲間殺しと言った犯罪行為に手を染めたプレデターを文字通り撃ち殺す、警察機構にして処刑人です」
『(怖過ぎるだろ!?)』
「モンスターもぶち殺せるような輩を野放しにする訳にも行かないんでしょうよ」
知恵ある悪魔なんて、空恐ろしいにも程がある。
『いたたた……♪』『よくもやってくれましたねぇ!』
あっ、生きてた。じゃあ、今撃ったのはゴム弾か何かだったか?
『……チッ』
『ママー、あのひとたちいきてるぅー』
『流石に実弾は容赦なさ過ぎません?』
実弾でした。
今し方開いた攻略サイトによると、スペクターの弾丸には幾つか種類が有り、目晦ましや煙幕、状態異常でモンスターの動きを封じる事が出来るのだとか。その隙に専門の人員が力尽きたプレデターを拠点まで回収しているらしい。
ゲームの描写では一瞬だが、裏ではそんな大変な仕事を熟しているのか、スペクターは。ある意味プレデターより重労働じゃん。絶対に就きたくねー。明らかに労働条件がダークブラックノワールシュバルツだもん。やーだー。
『……とりあえず、クエストを受けるなら、ソロよりもチームで挑む方がクリア出来る可能性が高いのは確かだ』
何事も無かったように話を進めるなよ、女騎士。
『そーだそーだ! これはもう、アタシと冒険の旅に出掛けるしかないですよー!』
黙ってろソーダ娘。魔女っ子は白いアイツと契約してなさい。
『(どうするよ?)』
「うーん、ここは是非ともお断りしたいですけど、たぶん「狩猟方法とチーム戦のチュートリアル」として処理されるでしょうから、どっちにしろとも今回ばかりは行くしかないかもしれません」
『(だよなぁ……)』
新規ユーザーにも優しい仕様なのは分かるけど、何かやっぱり面倒臭いって思っちゃうよねー。
『……分かりましたよ。行けばいいんでしょう、行けば』
『よっしゃあ!』
『でもその前にご飯は食べさせて下さいね?』
『はい』
腹が減っては戦も出来ぬ。モンスターを狩るとなれば、尚の事。
と言う事で、先輩たちは女騎士たちと仲良く食事を取り……うわ、何これ美味しそう。パリパリに焼き上げられた鳥皮にすっぱさのあるソースをタップリと掛けた、イッヒールの照り焼き。現実のそれと比べても遜色の無い、ほかほかの白ご飯。メインを引き立ててくれる何かの漬物。骨身に染み渡りそうな味噌汁。
完全に日本食だが、そこがまた良い。
つーか、この世界観、絶妙に和洋折衷したデザインが多いから、あんまり違和感が無いのよね。
『『『頂きまーす』』』
「うぉおおおおおお!」
クソッ、食いてぇええええっ!
今すぐそれを、寄こすんだッ!
BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!
『ふぅ、ご馳走様です』
『良い喰いっぷりだったな、新米くん。女将、お勘定』
『奢りですね!』
『もちろんだ』
『……大人めぇ!』
ちくせう。
『さぁ、今度こそ行きますよ! アタシとチームでね!』
『はいはい……』
これはチュートリアル、これはチュートリアル……!
『丁度良いのがありましたから、持って来ましたよ!』
『「砂塵の失踪者」……「カリギュラス1頭の狩猟」、ですか。分かりました』
「カリギュラス」って、どういうモンスターだっけかな。分類どころか顔さえ知らないんだけど……まぁ良いや。
それでは、記念すべき初狩猟、出発ぅー!
◆ガルグ・カプコライム
世界中を旅している魔法少女(物理)。武器はまさかのバスターランス2本という浪漫主義。
元は過去の復讐を遂げる為、メラルを殺す目的でシズラエルを訪れたが、後に気持ちに整理を付け、メラルやアイルと共に街を守り、英雄の1人となった。
しかし、浪漫兵器を担いでいる事には変わりないので、今も昔もチームメイトには恵まれず、独り寂しく世界を旅している。その後、何と無しにシズラエルへ戻って来たのだが、そこで運命の出会いを果たした(?)。