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先輩、今すぐ逃げて下さい!

先輩はボクだけのモノなんだぁーっ!

『さぁ、何処からでも掛かって来い!』


 何処からともなく現れた誰かさんが、引っ繰り返ったランボルギアスに対して挑発的な態度を取る。

 装備は両手に盾の「ボクサースタイル」。意味はお察し下さい。盾は鈍器なのよ。防具もキーファ級の最上級モンスター「グライルモス」の素材を使用しており、実力の程が窺える。外装としては“女騎士”と表現するのが妥当か。

 中身は巨乳ながらガッシリとした妙齢の女性で、金髪翠眼かつ雪を思わせるきめ細やかな肌が特徴的。鎧を脱いで笑ったら、良い所の令嬢か御姫様のような外見である。実際はポニーテールとキリッとした表情のせいで、おっぱいの付いたイケメンみたいな感じだが。

 つーか、誰よキミ?


《グヴェァアアアッ!》『ぬぅん!』


 しかし、そんな疑問にランボルギアスも女騎士も答える訳も無く、戦闘を再開する。今度は前脚にも車輪を発生させ嘘偽りなくスポーツカーのような動きで突っ込んで来るランボルギアスに対して、女騎士はガードで往なすだけで反撃する様子はない。一体何が狙いだ?

 ……と、思ったのも束の間。


『漲って来たァアアアッ!』

「『漲って来たぁああ!?』」《………………》


 急に女騎士が漲り出した。全身に黒紫色のオーラを纏い、眼を真紅に光らせている。エフェクトが完全に魔王なのよ。敵である筈のイッヒールが怯えて先輩の背後に隠れてるし。反骨ポ○モンが第二形態に変化する時ばりにヤバい見た目してるって!


『貴様の激しい攻め、まさしく賞賛に値する! 褒美に死をやろう!』

《ギャヴォオオオッ!?》

「『絶対にヤバいってこの人!』」《キュゥゥ……》


 さらに、さっきまでの堅牢な姿勢は何処へ行ったのか、防御を完全にかなぐり捨てて只管に殴り始めた。ランボルギアスも角や尻尾で反撃しているが、全く怯む様子が無く、何なら仰け反りも尻餅も着いていない。一種のハイパーアーマー状態なのだろう。


《ガァァアヴィイイァアアアアッ!》


 だが、流石に相手は場違いな最上級モンスター。そう簡単には死なない。というか、身体の一部が破壊されても切り離せばいいので、ダメージの蓄積が少ない印象がある。群体生物の面目躍如だろう。

 その上、手痛い反撃を食らった怒りから興奮状態になっている。攻撃はより苛烈になり、飛び道具まで使って来るようになる。背中の突起がシダ植物の如く展開して翼のようになったのが、その証拠だ。



 ――――――キィイイイイイインッ!



 早速ランボルギアスの顎角が帯電し、次いで口から赤紫色の粒子ビームを放って来た。この光線は大気を背中の翼から吸収・圧縮・微小化した上で撃ち出した物で、当たった物体は分子結合が破壊されて溶けてしまうという、序盤どころか終盤で出してもイケない特性を持っており、ゲーム内の処理としては「防御力低下+ガード不能の攻撃」として処理される。

 ようするに、当たったらほぼお終いの即死技である。


『ヤッターハァアアアアン♪』


 しかし、女騎士を消し飛ばすには至らなかった。むしろ更にテンションが上がり、攻撃力もUPした。どういうスキルの組み合わせをしてるんだ……どういう頭をしているんだ、この人は。馬鹿なの、死なないの?


『さぁ、お前にもこの痛み(よろこび)を味わわせて――――――ハァンッ♪』

《グヴヴヴゥゥ……ッ!》


 いい加減こんな変態リッチーを相手にしていられないのか、ランボルギアスは尻尾で殴る振りをしつつ砂埃を巻き上げ、視界が遮られている隙に地面へドリルダイブし、そのまま戦場から逃亡した。

 つーか、今ルビがおかしかったぞ。愛は痛みだとでも言う気か、貴様。


「ともかく、助かりましたね」

『そうだな……』《ギャゥゥ》


 ……ところで、君は何時までそこに居るのかね、イッヒールさんや。


『……危ない所だったな。怪我は無いか?』


 と、スキルを解除し、元の状態に戻った女騎士が、静かに安否を確認して来た。現状、一番危ないのは他ならぬ貴様なのよ。


『あ、はい。大丈夫です』

『そうか。しかし、装備を見た所、新米も新米のようだが、何故湿地草原のど真ん中に居たんだ? ワタシが偶々立ち寄らなければ、モンスターの餌になっていたぞ?』

『すいません……』


 ――――――クソッ、先輩がペコペコしてる姿なんて見たくないのに、イベントシーンだから飛ばせない、この屈辱ッ!

 というか、ここまでがチュートリアルだったのね。手厳しいにも程があるだろ。


『それに、そのイッヒールはどうした? 君に懐いているようだが?』


 懐いてるんじゃなくて、お前が怖いだけだよ。野生動物に本能的な恐怖を喚起させるとか、こいつこそ本当のモンスターだわ。


『ええっと……』

「………………」

『“こいつはオレのトモダチです”』


 言葉に窮する先輩を見兼ねて、ボクはチャット機能で台詞を言わせた。確かこのゲームはモンスターを「カプセルモンスター」というペット枠にするシステムがあった筈だ。これがチュートリアルなら、このイッヒールもその一環なのだろう。今更焼き鳥にするのも可愛そうだし。


《ギャウギャウ!》


 本鳥も納得してるようですしお寿司。


『そうなのか。ならば、“これ”を使うと良い。そのまま連れ歩いたら、入国審査に引っ掛かるからな』


 そう言って女騎士が渡して来たのは、ソフトボール大のカプセル「モンスターカプセル(略して「モンカプ」)」。これは野生のモンスターを「カプセルモンスター」として扱う為の器具で、登録したモンスターを縮小してしまっておく事が出来る。

 モンスターの大多数は「スリープモード」とでも言うべき“殻に籠る”形態があり、硬質化した体液の殻の中に液化して閉じ籠る事で傷を癒す能力を持っていて、モンカプはそれを利用する形でモンスターと“絆”を結ぶのである。硬質化していると言っても割れる事はあるし、何より変化中は全く動けないので、そんな自分を預けるのは、まさしく信頼の証なのだ。

 まぁ、このイッヒールの場合、最上級の捕食者が傍に居るから、早く安全圏に逃げたいだけだろうが。1羽だけな所を鑑みるに、野生に還しても居場所は無いだろうしね。


『……お前もそれで良いか?』

《ギャウギャウ!》

『そうか。なら、一先ずよろしく頼む』


 という事で、イッヒールGETだぜ~♪


『名前は有るのか? 無いのなら、付けた方が良いぞ、お互いの為にな』

「『フム……』」


 名前ねぇ……。


「『じゃあ、「コーチン」で』」


 見た目がまさに、だからね。いや、食べないけどさ……。


『そうか。では、話も纏まった所で、街へ行こう。このままここに居ても、何にもならんからな』

「『そうですねー』」


 そういう事になった。

◆ランボルギアス


 動物界重骨格動物門多足亜門唇脚綱蟲毒目ギアス科に属する超竜種(怪竜種・超竜種・超怪竜種は大きさと危険度を参考にした節足動物を祖先とするモンスターの俗称であり、例えるなら「恐竜」くらいの意味でしかない)。

 百足類を祖先とするキーファ級の大型モンスターであり、最上級戦士でも容易には倒せない危険生物。ローラースケートのような足から繰り出される高速の突進や角の突き上げは只管に脅威で、興奮状態時に放たれるブレスは絶大な破壊力を持っている。縄張り意識が強い為、彼らの棲み処を横切る者に命は無い。

 蟲毒目に属するモンスターの共通点として、巨大な卵鞘内で幼体同士が殺し合い、頭となる1体を中心に一体化する習性があり、それ故に凶暴な性格に育つ。取り込まれた他の個体は手足兼スペアでしかなく、脳と呼べる物は神経節しか残っていない。

 ただし、何らかの理由で頭部が致命傷を負った場合、他の個体が乗っ取り返す事もある。ほぼ一体化しているとは言え、群体生物の哀しき性と言えよう。

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