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先輩、頑張って下さい!

初陣ですね、先輩! バッチリフォローしますよ!

 「World(ワールド) of(オブ) disaster(ディザスター)」。

 最大手の株式会社デルタ・コーポレーションが開発した「Worldシリーズ」の1つであり、その中でも一際武骨な面のあるゲームだ。

 過去に何らかの理由で文明が崩壊し、緑溢れる代わりにモンスターが蔓延る世界となった「アマルガスタ」という辺境の惑星が舞台で、無力な人々は居もしない神に祈りながら無力に嘆く――――――なぁんて事は無く、逆にモンスターを狩ってしまう、とんでもない世界観である。

 何故そんな事になっているかと言うと、文明の崩壊具合が中途半端であり、僅かながらに遺る未来オーバーなテクノロジーを原始的な武器や防具にしか活かせず、強大なモンスターが跋扈しているせいで生活圏が限られているからだと思われる。

 その為、農業・漁業・林業などの概念はあるが細々とした物で、基本的に生活基盤が“自然の恵み”に頼らざるを得ず、必然的にモンスターと相対する事になる。というか食糧の大半を倒したモンスターから得ているので、人間はモンスターと戦うしかないのだ。

 そうした事情からか、モンスターと闘う戦士は「勇者(ブレイブ)」でも「狩人(ハンター)」でもなく、「捕食者(プレデター)」と呼ばれている。ゲームのシステム上、プレイヤー視点ではやってる事は紛う事無きハンターなのだが……。

 内容としては“ギルドの依頼でモンスターを狩りに行く”というシンプル・イズ・ザ・ベストな物だが、武器や防具、何よりモンスターのデザインがカッコいいと言った理由で人気を博しており、続編も確約されている期待のコンテンツである。

 そんな自然の驚異と恩恵に満ち溢れたバーチャル世界に、先輩は(精神だけ)転移した。アバターは彼の情報を基に創っているので、ほぼ分身みたいな物だけどね。


『ここが初期位置か』

「はい。プレイヤーは必ずここからスタートします」

『……草原なんだけど』

「正確には「湿地草原」という湿地帯ですね。所々ぬかるんでるので気を付けて下さい」


 まぁ、気を付けるのは、操作を担当するボクなのだが。


『とりあえず、どうすれば良いんだ?』

「ストーリーモードに固定されいるので、今は色々と見て回りましょう」


 現状、ゲームは物語が中心となる1人用の「ストーリーモード」かつ、コントローラーで外部操作する「レトロモード」になっている。本人のフィジカルが求められる「ダイブモード」と違い、引き籠りのオタクに優しいシステムだが、今は完全に裏目に出ている。これでは先輩の超人的な反応が活かせないばかりか、多人数用の「オンラインモード」のように助力も得られない。完璧にボクの頑張り次第だ。

 ……何てエモいシチュエーションなんだ。この素晴らしい現状に祝福を!


《ギャアギャアッ!》

『おい、何か出て来たぞ!?』


 とか何とか言っていたら、駄々っ広い草原の一角で、初のモンスターと(先輩が)対面した。


「「イッヒール」というバイ級以下の小型モンスターですね」


 現れたのは、「イッヒール」という小型モンスター。

 この世界ではモンスターの大きさを「キーファ級」「バンブ級」「バイ級」と呼び分けており、それぞれ「大・中・小」である。大まかな目安としては、バイ級が小型~中型くらいの恐竜、バンブ級が大型の恐竜、キーファ級が怪獣サイズとなる。こいつはバイ級以下なので雑魚中の雑魚だ。ド○クエのスライムポジションと言ってもいい。

 だが、それでも体長が2メートルくらいはあるし、何より先輩は最初期装備なので、油断すると普通に負けるので気を付けよう。これが“ゲームオーバー=死”みたいなデスゲームじゃありませんように……。


『羽毛恐竜……というか、スタイリッシュで馬鹿デカい鶏にしか見えないんだが』

「まぁ、そういうモンスターですから」


 イッヒールの見た目は、まさしく先輩の表現通り、スタイリッシュなコケコッコー(色は名古屋コーチン)である。というか、ディノニクスに鶏模様の羽毛を生やしたと表現すべきモンスターだ。

 その外見通り俊敏な動作が特徴で、足の鈎爪で引っ掻いたり、牙の生えた嘴で噛み付いて来たりする。あと、「キェーイ!」と鳴きながら脇腹でタックルもしてくる……らしい。

 ま、あくまで体験版の動画を見ただけなので、知識は浅はかなんだよ、ボクは。

 しかし、先輩の為にも頑張って操作しなくちゃ!


《キシャアアッ!》

『おい、来るぞ!』

「任せて下さい!」


 イッヒールが動き出したので、ボクも先輩を動かす。

 彼は“右手に盾を左手に剣を”という「グラディアルスタイル」なので、盾で殴りつつ剣で傷付けていくのが主な攻め方になる。普通は逆だと思うのだが、小型ですら脅威となるモンスター相手では、利き手で防御しないと守り切れないのだろう。ただの鈍器とか言ってはいけない。


《ギャォオッ!》

「よし、そこ!」


 初期の雑魚モンスターらしい、何の捻りも無い飛び掛かりを繰り出して来たイッヒールの攻撃を、回避ボタンで華麗に躱す先輩。


『んんッ!?』


 ……の筈が、物理的に大分無理のある決めポーズで固まってしまった。


「しまった! 間違えて「決めポーズ」のボタン押しちゃった!」

『おいぃっ!? ……ぐわばぁあああっ!』

「ああっ、先輩ィイイイッ!」

《………………》


 むろん、イッヒールが操作ミスを許してくれる筈もないので、哀れ先輩は吹っ飛ばされ、一瞬にして瀕死手前に。心なしか、意味不明な行動を取った先輩を、イッヒールが何とも言えない目で見ている気がする。


『げぶふぅ……! い、今にも死にそうなんだが!? この装備、防御力幾らだよ!?』

「「5」です」

『ゴミじゃん!』


 だって最初期装備だもん。

 いや、言うてる場合か。先輩は今にも死にそうなんだよ!


「先輩、今回復しますね!」

『頼むよ、マジで……』


 とりあえず、何でも入る四次元ポーチから「輝石玉」という目晦ましの道具を取り出し、閃光でイッヒールを目潰し状態にしてから、回復薬(ポーション)を飲ませてあげる。

 すると、半分を切っていたHPが見る見る内に回復し、一気に満タンとなった。流石は初期状態、ダメージは大きいが、回復も早いね。

 さぁ、今度こそ反撃を――――――、


《ギャオギャオッ!》

『火球を吐いたぁ!?』

「あっ、そうだ、こいつ口から火を吹くんだった……」


 何とこのモンスター、雑魚の癖に飛び道具を持っているのである。

 しかし、威力は飛び掛かりの半分以下であり、精々「あとぅーい」ぐらいのダメージしか受けないので、被弾しないよう気を付けつつも、ボクは先輩をガンガン突っ込ませた。


「オラオラオラオラ、オルァッ!」

『盾ってこういう使い方だっけ!?』


 モンスターはなぁ、殴れば(ついでに斬れば)死ぬんだよぉ!


《ギギギギ……》


 流石は最序盤の雑魚助。適当に盾で殴打しながら斬ってるだけで、あっという間に瀕死へ追い込まれた。

 よしよし、これなら先輩をほぼ無傷で生還させられ、



 ――――――ズズン!



『うおっ、何だぁ!?』《ウギャゥ!?》


 突然、地震に見舞われた。それも断続的な、不自然な揺れ方の。

 否、これは地震じゃない。“ナニカ”が地中から出て来る音だ!


「全力退避!」

『ドワォッ!?』《ギャアアッ!?》

『グヴェァアアアアヴォオッ!』


 そして、湿地をかち割り、泥草を巻き上げ、巨大なモンスターが姿を見せた。

 全身が赫くトゲトゲした甲殻に覆われ、額に三日月型の二本角、頭部の側面から捩じれた一対の大角が生えた、アロサウルスを思わせる体形の竜型モンスター。背中には翼の痕跡を思わせる大きな突起が生えており、尻尾の先端が鋏状になっている為、傍から見ると悪魔のようにも思える。

 こいつはまさか――――――、


「「ランボルギアス」!?」

『えっ、何だそのラン○ールギーニみたいな名前は?』

「「赫超竜(かくちょうりゅう)」とも呼ばれる、キーファ級の大型モンスターです! クエストで言えば終盤にしか戦えない、最上級モンスターですよ!」

『それ絶対に初期装備じゃ勝ち目無いだろ!』

その通りでございます(Exactly)!」

『喧しいわ! つーか、どうすりゃ良いんだよ!?』

「そ、そんな事言われても……」


 何でチュートリアルみたいな戦場に、こんな化け物ががががが!?


◆『分類及び種族名称:赫超竜=ランボルギアス』

◆『弱点:下顎、胸及び腹、尻尾の先端』


《グヴェァォオオォオン!》

『いいっ!?』《ギャオン!?》

「クソッタレがぁあああ!」


 だが、このランボルギアスは容赦しないので、猛然と突っ込んで来た。足踏みを一切せず(・・・・・・・・)。とっさに回避ボタン(今度は間違えなかったよ!)を押さなければ、危うく先輩が轢殺される所だった……。


『おい、こいつ車みたいに移動したぞ!?』

「そりゃあそうですよ。そいつ、足の裏側に車輪……と言うか履帯が付いてますもん」

『そんな生物がいるかぁ!』

「いや、モンスターですしお寿司」


 あと、設定を鑑みれば、案外無理筋でも無いんだよなぁ。


「先輩、そいつの身体のパーツをよーく見て下さい。そうすれば自ずと分かります」

『はぁ? お前、何を言って……って、何じゃありゃ!? 大分鋭角的でカッコいいデザインだけど、馬鹿デカい百足の集まりじゃねぇか!? 気持ち悪ぅ!』


 そうなのだ。ランボルギアスはクソデカい百足型生物が寄り集まった群体であり、足裏の車輪はそれに特化した個体というだけに過ぎない。


『じゃあ、あの捩じれた角は“顎肢”なのかよ。よく見れば目も複眼だし!』

「ついでに言えば、額の角は触角ですね。体液で固めてあるだけですが、物凄く頑丈ですよ」


 ――――――って、こんな事言ってる場合じゃ無くない!?


『グヴェアアアアアアァッ!』

「《『イヤァアアアッ!?』》」


 嗚呼、この軌道は……回避が間に合わない!


 と、その時。


『むん!』《グヴェァォツ!?》


 見知らぬ誰かさんが間に割って入り、受け止めるどころか、そのまま投げ飛ばしてしまった。こいつは一体、何だぁ!?

◆イッヒール


 動物界脊索動物門脊椎動物亜門怪鳥綱大雉目狗凰亜目リヒル科に属するバイ級以下の小型モンスター。キジ類を祖先とする大雉目を代表する種族で、新米プレデターのおやつ。小規模な群れを形成し、一番体格の大きい個体は「デルベリッヒ」と呼ばれ、ギルドでは別のモンスターとして扱っている。

 肉垂が変化した「蓄熱袋」という器官が発達しているのが特徴。中には食物から生成した可燃性の強い体液が詰まっており、「着炎牙」という特別な牙から排出されると同時に火が点き、火球として発射される。デルベリッヒに成ると、これが火炎放射となる。

 草食の強い雑食性で主に果実や小蟲を食べる大人しいモンスターだが、縄張り意識はそこそこ強く、侵入者には積極的に攻撃を仕掛ける。

 それらの性質から「1羽見付けたら10羽は居る」のが普通だが、何らかの理由で群れを追い出される個体もおり、先輩くんが出会った個体もそんな“はぐれ”の1羽である。

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