動物園でのダブルデート
服に買いに行く時間は取れなかったので、なんとか持ち合わせの服を自分なりに考えてコーディネートしてみた。その結果、紺色の長袖パーカーとジーパンというなんともありふれた服装に落ち着いた。
待ちあわせは動物園の入り口なので、僕は電車に乗って向かう。
いつもは乗らない時間帯の電車。座れない程ではないが、思ったより人が多い。スーツや学生服の姿はほとんど見られず、オシャレしている人がほとんどだ。休日だからみんな出かけるんだろう。
動物園にははじめて行くので迷わないか不安になり、少し早めに出てきたのだが駅からは矢印が出ていたので迷わず到着することが出来た。
時計を見ると待ちあわせの時間の三十分前。少し早かったな。どうやって時間潰そうかな。
「彼氏くん?早いね。」
「あ、おはよう。」
声をかけてくれたのは芽依だった。
彼女は海のようなロングスカートで白いTシャツに真ん中でグレーと紅が分かれているカーディガンを羽織っており、僕に好感を持たれても仕方ないかかもしれないけど好きな服装だった。
「可愛い服装ですね。え、えっと・・」
名前で呼ぶのは少し遠慮しちゃう。いきなり女子を名前で呼べるような陽キャラや女性慣れしたパリピでは僕はない。けど名字なんだっけ?
よくテレビでやってるお名前はってやつで名字を聞き出すか?いや、あんなのはダメだ。広まり過ぎてて名字が分からなかったのが丸わかりで失礼だ。
「ありがとう、芽依でいいよ。あのゴリラには呼ばせないけど、彼氏くんは名前でいいよ。」
こっちが名字が分からないのが見透かされた感じ少し恥ずかしい。
それにしても英都のやつ、嫌われてるな。
「分かった。芽依さん、じゃあ僕も譲でいいよ。」
「彼氏くんはさ・・」
名前で呼ばんのかーい。心の中で大きなツッコミを入れる。僕としても名前で呼んでいいって言うのに勇気が必要だったんだぞ。普段はこんなこと言わないんだぞ。陰キャラの割にめっちゃ頑張ってコミュニケーション取ろうとしたんだぞ。僕の心の中は騒がしくなっていた。
「芹奈の事をゾッコンで好きってわけでもないみたいだし、芹奈みたいなみんなの中心になれるような人間じゃなくて、もっと隅っこでくらしてるような陰キャラじゃん。むしろそれを好んでるでしょ?それなのにどうして芹奈と一緒にいるの?関わらない方が平穏だったと思うんだけど。変態なの?」
陰キャラで間違ってはないけど酷い言われようだ。
一緒にいる理由か・・
もちろん来てくれるから一緒にいるってのは理由の一つだよね。
芹奈との思い出は少ないけど思い出してみた。
突然の電車での告白は嬉しかったな。
そんで次は校内放送での彼氏探しに迷惑して、次の日に連絡先交換で騒がれてクラスメートに殴られた。その次の日は誤解は解くことが出来たが、ストーカー扱いされた。
今思うとハチャメチャだな。僕の平穏で静かな学園生活はどこにいったのやら。
けど一緒に居る理由を問われて、パッと一番最初に思い出したのは、駅のホームではじめて話したあの日の芹奈の寂しそうな背中だった。
「最初に変態ってのは撤回してほしいな。僕はただ、彼女は寂しがり屋なのかなって思って。明るく振る舞うのは寂しさの裏返しなのかなって、だったら僕が出来るのは彼女が寂しくなくなるまで一緒にいてあげるだけだからだから一緒にいるんだよ。」
「譲くんはいい人だね。」
僕の言葉を聞いてどう感じたのか分からないが芽依は優しく微笑んだ。
はじめて見た微笑む芽依の姿は芹奈に負けず劣らずの可愛さで思わず見惚れてしまう。
芹奈が妖精なら芽依は精霊って感じだな。
「なに芽依を見つめてんのよ、この浮気者。」
芹奈の服装はニーハイでショートパンツに絶対領域を出す今どきのファションの最先端行ってるって感じの服だった。素敵だけど、僕の好みではなかった。もちろん口にはしない。
「悪い、待たせた。」
芹奈の機嫌を損ねて困ったタイミングで英都が来てくれた。時計を見るとちょうど待ちあわせの時間だった。
「へぇ〜二人共可愛い服装だね。」
「ゴリラにも芹奈の服装の良さが分かるなんて流石は芹奈だわ。」
素直に褒めた英都を貶して芹奈を褒める芽依からは、さっきまで微笑んでいた優しさは見えずトゲトゲしている。
英都はその挑発に乗ることなく腕を組んで何かを考え混んでいる。どうしたんだろうか?
「ゴリラ、何考えてるのよ。どうせ脳みそないんだから言いたいことあるならさっさと言いなさい。」
英都にもゴリラにも失礼な言い方だな。
ちゃんと二人とも脳みそはあるぞ。
昨日と違ってまだヒートアップしていない英都は、冷静に芽依の言葉に頷く。
「じゃあ言うけど、何で七瀬さんは譲の苦手な服装してて、カワメェは譲の好きな服装してるんだ?なんか七瀬さんの作戦?」
英都が悩んでいたのはそれかー
その言い方だと僕が悪い流れになるじゃないか。空気読めよ。
ってかカワメェってなんだよ。カワウソと芽依が合体してるじゃねぇか。
案の定僕は芹奈に睨まれ詰め寄られる。
「アタシと芽依。どっちの服装が好みなの?」
これは絶対芽依って言ったら怒るだろうから、ここは芹奈を選ぶしかないよな。
僕は芹奈を指差す。
「素敵だよ。」
「無理やり言わなくてもいいよ。その言い方だと絶対、芽依の服装の方が好きなんじゃん。最悪。」
「そんなことないよ、私より芹奈の方が素敵だよ。」
「人の彼氏に好かれて良かったわね。」
正解のない問いかけは止めてほしいものだ。
結局僕は怒られ、フォローしようと口出しした芽依も怒られて不機嫌な芹奈とともにみんなで動物園へと入っていった。
動物園に入る際に横に来た英都が僕の肩に手を置いて、ドンマイっと言ってきたので心の中でお前のせいだぞっと思いながらも口には出さなかった。