また付き合って
何も考えることが出来ず、みんなに背を向けて一歩踏み出すと、小さくて柔らかい手が優しく僕の手を握ってくる。この手の感触は覚えている。
振り返るとやっぱり芹奈だ。今更僕になんのようだろうか。
「好き、付き合って下さい。」
頭の上で?が並ぶ。周りの英都、芽依やクラスメートまで含めて同じように頭に?を浮かべて状況を理解しかねている。
そんな中一番最初に口を開いたのは芽依だった。
「ちょちょっと芹奈何言ってるの?さっき別れるって。」
「別れたよ。けど、また付き合わないなんて言ってないもん。アタシ彼氏大好き。また付き合って欲しいの。」
混乱するみんなや再び告白された僕の返事を待つことなく、芹奈は僕に抱き着いてきた。
「ああでも言わないと二人とも冷静にならなかったでしょ。アタシに彼氏と一度別れさせるなんて、この借りは高くつくよ。アタシは彼氏に甘え中。ムギュー。」
芹奈の言葉に芽依と英都は互いに目を合わせて申し訳なさそうな顔をする。お互いに少し熱くなってしまったことを自覚はしているようだった。
「嘘とは言え、別れるなんて言ってごめんね。もっとギューしてあげる。」
抱き着いたまま上目遣いで僕を見る芹奈は、相変わらず可愛いが、瞳からは少し寂しさが伺えた。申し訳なく思っているのだろうか?
というより僕はフラレてないってことなのかな?いや、フラレてはいるのか。けど、また告白されたから・・前と同じ関係に戻ったってことなのかな。
「そうだ、今度は動物園でダブルデートしよう。」
切り替えの早い芹奈は振り返って僕に背を向けると英都と芽依を見ながら両手を叩く。
三人でどこか行こうとは言ってたけど・・動物園かぁ
きっとカワウソとゴリラから連想したんだろうな。英都、いつの間にか参加させられてるし。
「「ダブルデート?」」
英都と芽依が声を揃えて芹奈に聞き返す。
息が合うとは、この二人なかなか相性がいいのかもしれない。
「アタシと彼氏」
芹奈は自分と僕を指差す。そして次に当然のように英都と芽依を指差す。
「英都くんと芽依。これをダブルデートと呼ばずしてなんと呼ぶ。」
友達と遊ぶでいんじゃないかな。
心の中でツッコミを入れるも、誰も笑ってはくれない。
誇らしげな芹奈に比べて、不服そうな二人。
「芹奈と彼氏くんと一緒に行くのは我慢するよ。けどゴリラと一緒とかはマジで無理。」
「こっちだってカワウソパンツと一緒なんてごめんだね。」
「ウチより、弱いくせに。」
「一度勝ったぐらいでいい気になるなよ、次は勝つ」
「自分の負けも受け入れられないなんて、本当ゴリラね。実戦に次はないのよ、この負けゴリラ。」
これは勝負あった感じだな。芽依の言葉が胸にぐさりと刺さったのか、敗北を受け入れるかのように力を無くした英都はゆらゆらと片膝を着いた。
「特に異論も無さそうだから、遊ぶのは今週末でいいよね。」
芹奈はいったい何を聞いてたんだ。今、口喧嘩しながら二人が異論を唱えていただろう。
「芹奈、ウチは・・」
芽依が再び芹奈に意見を言おうとした瞬間、部屋の温度が一気に下がったのか、ブルブルと寒気がした。
「ハッ?アタシの意見に異論があるの?アタシに彼氏と別れるまでさせといて異論があるやつなんていないよね?芽依、言いたいことあるなら言ってみな。」
芹奈の顔は笑っているけど、目は笑ってない。背後には鬼がみえる。こんなに怒った芹奈を見るのははじめてだ。異論に対して怒っているのか、別れさせたから怒ってるのかどっちかと思ったが、雰囲気からして別れさせたことに対して怒ってるようにみえる。怒る芹奈は怖いけど、少しだけ僕の心は温もった。
反論するのかと思った芽依を見ると英都の手を繋いでいた。そして僕の手を取り握る。めっちゃ目が泳いでるけど大丈夫か?
「動物園賛成。わーい行きたいな。」
超棒読みの芽依。こんなになるってことはきっと彼女から見ても今の芹奈はかなり怒っているのだろう。
満足したのかと思ったが思わぬ所に芹奈は怒り出した。
「なに、人の親友と手を繋いでるのよ、この浮気者。」
バチン
芹奈の平手打ちが僕の頬を捉えて、赤く腫れ上がる。
何で僕が殴られたんだ?僕勝手に手握られただけなんだけど。意味分かんない。救いを求めようと芽依を見ると関わりたくないのか目を反らされた。
元はと言えばお前たちのせいなんだからな。っと心の中で思いながらも口には出さなかった。
そしてチャイムが鳴り、僕はじんじんと痛みが残る頬を抑えながら自分の教室へと戻って行った。
いろんなことがあった昼休みではあるが、とりあえず四人で動物園に行くことが決まった。