英都登場、そして別れ
「ゆーずる。大丈夫か?俺が風邪に負けてる間に大変なめにあったらしいじゃねぇか。」
「英都、ちょうどいい時に来たな。その件はもう済んだから大丈夫だよ。ところで今週暇?服を買いに行くの付き合ってよ。」
昼休みに数少ない僕の友達である、剛田英都が訪ねてきた。コイツは貧弱な僕とは違い、熊みたいに体が大きく、空手もめちゃくちゃ強い。そして、テンションも高く、素直でいいやつ。何かと絡まれる僕を助けてくれる。
「まさかあの七瀬芹奈とデートなのか?」
「デートじゃなくて一緒に遊ぶだけだよ。」
英都は驚きながらも嬉しそうに俺に肩を組んでくる。
デートではない。だって遊ぶのは二人ではないもん。多分デートと言うのは二人で遊びに行くことを言うのだろう。
「それをデートと呼ぶんじゃあ。」
「いや、とも・・」
芹奈の友達とも一緒と言おうとしたのだが、英都の次の言葉に遮られてしまう。
「まずは七瀬芹奈との出会いからの馴れ初めを聞かせろ。」
僕の恋バナになのか、芹奈のことだからなのかいつもより興味津々でグイグイと英都が聞いてくる。ってか馴れ初めって言い方なんか古くないか。
正直芹奈との出会いを話すのは恥ずかしいし難しい。けど、英都ならいいか。
「電車で会って、いきなり告白された。」
「省略しすぎだ。」
笑いながら英都は僕が要点だけ話したと思い、大きな声で笑う。
そりゃ信じないよね。こんな展開。
「いや、省略してないよ。僕が乗ってた電車の横の席に彼女たちが座ってきたんだ。そんで、いきなり告白された。」
僕の言葉を信じてくれたのか、英都はフリーズする。なんか頭の中でいろいろと考えているのがわかる。こうやって英都が突然黙る時はいつも何か熟考している。
「それでお前はイエスと言ってしまったのか?」
「まぁ・・」
「ゆ〜ずる。お前の優しさは分かるが知らない人からの告白をそんな簡単に受けるなよ。騙されたら大変だろう。」
たしかにな。俺も詐欺かと思ってたし。
英都はこのように、たまに僕に保護者みたいなことを言い出すことがある。
さっきまで楽しそうな顔だったのに、目の奥に火が着いたように熱を感じる。
「それにしても、許さん。七瀬芹奈。俺が話をつけてくる。」
「ちょっ、ちょっ待てよー」
突然英都が走っていき、それを僕も慌てて追いかける。話の流れからして芹奈のところに向かったんだろう。
芹奈の教室を知ってるのか、野生の勘なのか英都は迷わず走っていく。運動能力の差もあって僕との差が開いていく。芹奈の教室を見つけた英都は迷わず教室へと入る。面倒なことが起きないといいけど、英都が教室に入ってから少し遅れて息を整えてから僕が入る。するとそこでは、地面に這いつくばり、警察官が犯罪者を取り押さえるような状態で右腕の関節技を完璧に決められた英都とその背中で完璧に技を決めた芽依の姿があった。
「芹奈に近付くなよ、このゴリラが。」
これはいったいどういう状況なんだ?まさか英都がやられるとは。
冷たい目で英都を見る芽依さんはとても話しかけにくいオーラを放っている。
「芽依離してあげな。この人、彼氏の友達っぽいし、悪い人じゃないよ。おーい彼氏。」
「芹奈がそう言うなら」
見慣れた光景なのか芹奈は何もないかのように僕に手を振ってくる。
あっさりと芽依は芹奈の言葉通り腕を離す。
英都は腕を抑えながら立ち上がる。
とりあえず入り口でじっとしててもダメだと思い、英都のそばによる。
「英都、大丈夫?」
「ああ、油断した。あんなイタチみたいな護衛がついてるとは。」
芽依は英都の言葉に少し顔を赤くしているが、軽く深呼吸してから僕に歩み寄ってきて手を伸ばす。
これは握手を求めてるのだろうか?はじめましてじゃないけど、挨拶みたいなもんかな。芹奈から今度一緒に遊びに行くことを聞いてよろしくみたいな感じかな。
僕も手を出すと、腕を捕まれ一気に重心を崩され後ろに蹌踉めく。その隙きに芽依からの蹴りが顔を目掛けてくる。蹴りがスローに見える。無理、避けれない。よろしくじゃなくてこれは夜露死苦だ。
その瞬間、僕の前に英都が立ち両腕で芽依の蹴りをしっかりとガードする。
「サンキュー、英都。」
「さっきは油断したが、今度は負けねぇ。こい、カワウソパンツ。」
カワウソパンツ・・?
芽依の顔がみるみる赤くなる。その赤はりんごのような真っ赤ではなく、火山が噴火したようなグツグツと怒りを感じる赤色となっている。
俺は英都の背中で見えなかったけど、さっきの蹴りの時に見えたんだな。
「ゴリラ、殺す。」
指をゴキゴキと鳴らしながら、英都と芽依の間には激しい炎がぶつかり合っている。これはどうやって沈めればいいんだ。けど、これは絶対英都が悪いんだろうな。考えている間に二人が構えを取り出したので、心の準備も出来ないまま間に割って入る。
「英都、落ち着けよ。今のはお前がわるっ、いてててて。」
僕は英都と向き合って、芽依との距離を取ろうとすると背後から腕を取られて痛みが走る。
「お前は芹奈に相応しくない。」
学校中のみんなが思ってることだろうけど、実際に面と向かって芹奈の親友に言われると胸に大きな穴が空いたような衝撃がくる。
不釣り合いなのは僕自身も理解している。
投げ捨てるように芽依は僕の手を離した。
しかし、引き下がらなかった。僕じゃなくて英都が。
「それはこっちのセリフじゃあ。ノーと言えない譲の弱みに付け込んだこと。そして、知らないやつに突然告白するような軽い女、譲じゃ釣り合わない。こっちからお断りじゃあ。別れろ。」
英都だけはそっちの意見なのか。
心の中でツッコミを入れながらも、学校中から批難されていたように感じていた中で、味方が居てくれるのは嬉しいものだ。
やばい、この二人どうやったら止められる?
「じゃあアタシが彼氏と別れればいいのね?」
「芽依、やっと分かってくれたの?」
今まで静観していた芹奈は立ち上がり、僕の前に歩み寄ってくる。
「彼氏、別れよ」
別れる・・まだ何も始まってない気もするのだが、やっぱり芹奈も不釣り合いだと理解したのだろうか。やっぱり僕のことなんて遊びだったのかな。いやいや、舞い上がって一番冷静じゃなかったのは僕だったのかもしれない。遊ばれてたことに気付かないなんてバカだね、僕って。少し考えればわかるのにね。
寂しい気持ちが押し寄せてくるかと思ったのだが、全然こない。その代わり虚無感が訪れてきた。全てのことがどうでもよくなる。僕フラレたのか。
「二人が言うように別れたんだから、お互い謝って。仲直りして。芽依は彼にもね。」
芹奈に言われるまま、芽依は僕に頭を下げてきた。どことなく謝罪しているのに嬉しそうだ。そんなに僕と付き合うのが嫌だったんだろうか。僕はどんな顔をしていたのだろうか?なんだかあんまり反応することが出来なかった。
「彼には謝るけど、コイツには謝らないよ。絶対絶対謝んない。」
芽依はまだ熱が冷めないようで、英都を力強く指差す。
「まぁ英都くんも悪いし仕方ないか。」
これについては芹奈と同意見だな。
英都も冷静になり、自覚したのか芽依に謝罪した。
これで二人の関係は落ち着いた。
僕ここに何しにきたんだっけ?
さて、教室に戻るか。