鈍感なのか?
「昼休みぶり。こうやって会うのはじめてだよね。」
「そうだね。友達は?」
いつも芽依さんと一緒に居ると言われてたからてっきり今日も来るのかと思っていた。
「誘ったんだけど、はじめてのデートは邪魔したくないから来ないって。」
デートではないと思うんだけど。そう言われると誘ったのが恥ずかしくなってくる。
僕は芹奈と駅のホームのベンチに座っている。
学校だと他の生徒もいるので、会うのは恥ずかしいし、他のお店で会うのも誰かに見られたら恥ずかしい。悩んだ挙げ句、駅のホームで会うことにした。駅なので人通りはあるが、そこは我慢。
そして、土下座させてしまったことに後ろめたさがあるが、彼女はもう気にしてないようでいつもと変わらぬ可愛い顔で笑っている。
「あの動画、どうしたの?」
「あ〜あれね。アタシのお姉ちゃんってこの学校の卒業生で今探偵やってるの。それで相談したんだけど、彼氏は5年前の事件知ってる?」
割と有名な話で、文化祭の時に一人の生徒を集団で襲おうとして、警察まで来たらしい。理由は恋愛のいざこざとか言われている。けど、詳細は伏せられてるのでわからない。
「噂ぐらいは。」
「あの事件の後、学校にいくつか防犯カメラを設置したみたいなの。そしてその一つにこれが写ってたってわけ。」
普通に防犯カメラに写ってたのか。アイツらもバカだな。
それにしてもこの短時間で防犯カメラまで調べちゃうなんて、芹奈のお姉さんってかなりデキる人なんだろう。
さて、緊張するけどちゃん言わないとね。いきなりは言えなかったけど、言わないと。軽く深呼吸する。周りをチラッと見るとちょうど人が誰も居ない。このタイミングだ。
「今日はありがとう。君が居ないとストーカー扱いされてどうなるかわからなかったよ。」
深々と頭を下げたが芹奈からの反応は素っ気なかった。もっとなにか言われると思っていた。
「君って誰?」
「君は・・君でしょ?」
僕は芹奈を指差す。
彼女は分かっている筈なのにわからないフリをしているのは分かるが、何を求めているのかはわからない。
「彼氏って鈍感なの?」
「ごめん」
鈍感かはわからないけど、少なくとも今彼女が求めてることがわからないので鈍感なのかもしれない。
「土下座させちゃってごめん」
「あれはアタシが勝手にやっただけだから」
「けど、もう二度としないで。いや、ちょっと違うな。もうさせないから。」
僕は芹奈の手を無意識に握り、力強く決意表明をした
芹奈は少し恥ずかしそうに僕から視線を反らして空を見上げた。気のせいなのか、夕陽のせいなのか彼女の頬が少し赤くなった気がした。
「君みたいな強い子が困ることなんてないかも知れないけど、きみが困ったら今度は僕が助けるよ。」
芹奈が目を背けるものだから、僕も恥ずかしくなり、手を離してしまった。というより僕はいつもの間に手を握ったんだろう。
「なんで手、離すのよ。」
「ごめん。」
芹奈が怒って僕の肩をバンバン叩いて抗議してくる。離さない方が良かったんだ。勝手に繋いだから怒ってるのかと思った。けど、今からまた繋いでいいのかな?なんか怒られそうな気がする。
「手・・繋ぐ?」
「いちいち聞かないで」
やっぱり彼女を怒らしてしまった。また腕を叩かれる。知らなかったけど、僕は鈍感なのかもしれない。
「アタシは強くなんかないよ。」
芹奈は立ち上がり僕に背を向けて言った。
後ろ姿だったので、この言葉を彼女がどんな顔で言ったのかわからない。けど少しだけいつもの明るい彼女ではなく、弱々しく寂しそうに感じ取れた。
「ほら、さっさと手を出して。」
「えっ?」
芹奈は僕に手を差し出すも、女性慣れしてない僕はおろおろしていた。すると芹奈はそんな僕の手を掴む。
「ほら、行くよ。」
「どこ行くの?」
「適当に散歩しよ。アタシは彼氏と一緒に歩きたい気分なの。レッツゴー。」
抵抗も出来ず、いや抵抗する気もないのだけれど、僕は芹奈に引っ張られるままに歩き出した。見慣れた景色のハズなのに、彼女と一緒に歩く道はいつもと違って華やかに輝いていて心躍る。
「そうだ、アタシ困ってることあるんだけど聞いてくれない?ってか聞いてくれるんだよね。」
「僕に出来ることなら」
ニコニコと楽しそうに繋いだ手を前後に振りながら芹奈は小悪魔のような顔をしている。
余計なこと言っちゃったかな。芹奈ならどんな依頼が来るかわかんないからもっと限定した約束にすればよかった。
「芽依とも仲良くして欲しいの。だから今度三人で遊びに行こう。」
「それなら全然いいよ。」
二人きりよりむしろ緊張しないかもしれない。
そうすると服買いに行かないと。芹奈と一緒に歩くのに恥ずかしくないようにしなきゃ。
僕は知らないうちに彼氏と言わることに抵抗がなくなり、彼女と一緒に居たいと思いだしていた。