強くなりたい
次の日学校に行くと昨日と同じようにみんなからの視線を感じる。
芹奈とのことはどれだけ広まってるんだよ。校内放送ヤバいな。
これだけの人に興味を持たれている芹奈凄い。
校舎に入ると廊下に貼られた紙に大勢が集まっている。
僕には関係ないと思い通過しようとするとクラスメートに呼び止められ、紙を見る。そこには僕の事が書かれていた。
内容は芹奈にストーカーしている犯罪者とデカデカと書かれクラスと名前まで入ってる。紙は至るところに貼られているらしい。
あの二人の仕業だと直ぐにわかった。
これはやりすぎだろ。どうすんだよ。こんなの。僕はクラスメートにストーカーじゃないと伝えると自分の席へと向かった。
席に着いても落ち着く事なく、クラスメートからは冷たい視線を感じる。
あの二人は作戦が上手くいったのかクラスの隅で心の底から楽しそうに笑っている。
アイツらが犯人だと言ってもいいのだが、証拠がない。仮に違った場合大変なことになる。
僕はもうどうしていいかも分からず、帰りたくなったのだが、みんなからの視線が怖くて立ち上がることも出来ない。胸がきゅーと締め付けら、呼吸が上手く出来ない。不安で体が震える。
更に先生が入ってきて、僕に話があるから職員室に来いと言われた。これで先生まで来たらいよいよあの紙に書かれていた事が真実だと勘違いされてしまう。しかし既に僕の心は不安で支配されており、先生に助けを求めることも、あの紙について抗う力もなく僕は立ち上がり先生に付いて行くしかなかった。
ピーンポーンパーンポーン
その時、校内放送を知らせる放送が流れた。
こんな時に一体なんだと言うのだ。もう僕は泣きそうです。
「アタシはストーカーなんか受けてない。アタシの彼氏をイジメるやつは誰なのか名乗り出なさい。さもなくば探しだします。アタシは本気です」
芹奈だ。彼女ならこの僕の状況を打破出来る。真っ暗になった僕の心に小さな光が輝きだす。先生の足も止まり、僕へと振り返る。
「勘違いしてる人が多いから言うけど、彼に告白したのはアタシからです。アタシは彼氏の事が大大好きです。」
「お前本当にストーカーしてないのか?」
先生が真剣な顔で聞いてくるので僕は頷く。
「もう一度言うよ。彼氏はストーカーなんかしてない。紙に書いてあることはデマです。信じないで。アタシは彼氏の事が大好き。だから許さないよ。彼氏にこんなことする人。この犯罪者は必ず見つける。けど、見つけても先生に言わない。直接警察に突き出します。」
おっと凄いことを言い出したぞ。なかなかエグい話になったな。
警察は流石にやりすぎちゃう?芹奈のおかけで疑いは晴れたようだし。
先生は分かったと頷き、僕に疑って悪かったと謝罪し急いでどこかへ向かっていった。向かった先が職員室なのか放送室なのかはわからないが僕は廊下で開放された。僕はホッと肩の力が抜けた。いきなり開放されてもどうしていいかわからないので、とりあえず席へと戻った。
席に戻るのは怖かったが、戻ると芹奈の放送のおかげなのか冷たい視線はほぼ感じられなくなっていた。ホッと胸をなでおろすと冷たい視線の代わりに別の視線を感じる。
聞き耳を立てるとどうやら僕の事を羨ましがっているらしい。そりゃ芹奈みたいな子と付き合えたら羨ましいと思うよなと思ったのだが、どうやら理由はそれだけではないみたい。あの放送を聞いたクラスメートは愛されてて羨ましいと思っていたようで、だから男女のクラスメートからなんともニヤニヤした温かい視線を感じるのだ。
確かにあんな校内放送で愛を叫ばれる人なんてそうそういないだろう。今思うとかなり恥ずかしいな。
僕自身なぜあんなに彼女に想われているのか全然わからない。けど今日の事は芹奈に感謝だな。彼女が居なかったら正直耐えられる気がしなかった。もう学校に来る勇気すら持てなかったかも知れない。あとでお礼を言っておこう。メールで済ませるにはちょっと申し訳ないけど、昼休みだと恥ずかしいので放課後にでも声をかけてみようかな。
午前中の授業は芹奈の放送に勇気をもらったこともあり、いつもより集中出来た気がする。
そして、昼休み。案の定あの二人が僕の席の前に立っている。
恐る恐る顔をあげると明らかに怒っていた。僕への仕返しに失敗したからだろうけど、懲りないんだね。
あの紙と芹奈の放送でこの件はかなり大きな話になっている。見つかっても知らないぞ。
「お前、ちょっと付いてこいよ。」
腕を掴まれ立たされる。掴まれた腕は痛いと感じる程の力で握られる。その為、また強引に連れて行かれるのかと理解する。痛いのは嫌なので、仕方なく付いて行こうとする。
しかし今日は昨日と違い反対の手を誰かに握られる。コイツらと違って柔らかくて、小さくて優しい手だと思い振り返るとそこには芹奈が立っていた。
「ねぇどこに行くの?アタシも付いてっていい?」
芹奈は何にも知らないような無邪気な笑顔で赤いメガネ越しに僕を見る。
どこに行くのかと言われると僕にはわからない。多分昨日の教室に連れて行かれるんだろうけど、芹奈は連れていけないだろう。僕は二人を見た。
「な、な、七瀬さん。」
突然の芹奈に二人はめっちゃくちゃ動揺しているのが、見てわかった。顔はみるみるタコのように赤くなり、動きまでタコのようにウニョウニョしている。
「二人ともアタシと一緒に来てくれない?」
芹奈は無邪気な笑顔のまま、問いに答えてくれない二人に逆に問いかける。けど、笑っているが目の奥は笑っていないように僕には見えた。どこか静かな怒りを感じる。
しかし二人は芹奈に誘われた事が嬉しかったのか、高速で何度もコクリコクリと頷く。
「先生には止められたんだけど、警察行こっか?」
「・・・」
二人のコクリコクリと動いていた首はだんだんと油が切れた機械のように動きが渋くなり、停止する頃には赤かった顔は青くなっていた。
更に追い打ちをかけるように芹奈はスマホの動画を二人に見せる。そこには二人が紙を貼っている姿が完璧に写っていた。これは言い逃れ出来ないだろう。
「証拠あるから。」
固まる二人を見ていられなくなったので、僕が芹奈に話しかける。
「警察はいいんじゃないの?先生に伝えるまでにしとこうよ。」
「彼氏はそれでいいの?」
僕としては疑いが晴れたから、これ以上は大事にしたくない。
芹奈の放送を聞いて他の生徒がどう思ったのかわからないけど、少なくともクラスメートたちには真実が伝わったはずだ。
「ストーカーの疑いも晴れたし、彼らもこれ以上は僕に何もしてこないと思う。」
二人を見るも、相変わらず青い顔して事の顛末を見守っている。さすがに懲りてるだろう。
「そっか、分かった。彼氏がそう言うなら。」
芹奈も納得してくれて良かった。彼女はスマホをポケットに仕舞うと、一緒にメガネも外した。メガネ外した芹奈の顔はいつものように可愛さにプラスして凛々しさまで見える。
「けど、彼氏がこんなことされた責任はアタシにもあるんだよね。」
芹奈に責任はないと思うけど、まあゼロかと言われたら微妙だよね。けど少なくとも彼女が責任を感じる程の責任はない。彼女に責任があるなら僕の方がより大きな責任があるだろう。現状を招いたのは僕の選択によるものでもあるから。
彼女はしゃがみ込み、両膝を地面につけて正座をする。次の行動が僕には予測出来た。だから彼女に叫ぶ。
「芹奈、やめて」
彼女は正座の状態から頭を床に着くまで両手を添えて下げた。
「ごめんなさい。貴方たちの気持ちには答えられません。だからこれ以上アタシの大好きな彼氏を傷つけないで下さい。お願いします。」
小さな妖精とまで言われて、学校中で人気のある芹奈の土下座は、見守っていたクラスメートたちから言葉を奪った。それ程までに衝撃的だったからだ。しばらく静寂が流れた。
僕がなんとか言葉を振り絞って話しかけたのは彼女が立ち上がった後だった。
「どうして?」
「はじめて名前で呼んでくれたね。嬉しい。これで彼氏がイジメられなくなるならアタシの頭なんて安いもんだよ。」
僕の問いに嬉しそうに笑う芹奈の笑顔が僕の心にチクチクと刺さる。彼女の想いは嬉しいのになんなんだこの感情は。
チャイムが鳴り、芹奈は去っていく。
二人は他のクラスメートに連れられ職員室へと向かった。
僕の心に生まれたこの感情はいったいなんなんだ。この感情はいつ生まれたんだ?
今、彼女が土下座した瞬間だ。
そうか、彼女に土下座までさせてしまった自分が情けなかったんだ。後悔してるんだ。人が土下座なんてすることは生涯ないかも知れない。それをさせてしまった。彼女に非はないというのに。
なぜ土下座をさせてしまったのか。なんで芹奈を止められなかったのか。
僕が芹奈のことを考えていなかったから?
僕が彼らの気持ちを考えていなかったから?
僕が弱かったから?
考えてもわからないことは多い。
けど悔しいな。こんかに悔しいのは久しぶりだ。両手の拳に力がこもる。
もう二度と芹奈に土下座なんてさせない。弱くてもいい、どうでもいいって思うことは多いし、諦めも早い。だけど彼女にもう二度と土下座なんてさせない。それだけの強さは手に入れる。この気持ちだけは譲らない。