平和の崩壊
昨日の事もあり、今日は少し憂鬱だ。
冗談かと思っていた。あの時だけだと思っていた。そのハズなのに、まさか校内放送までして探しにくるなんて。
足取りは重いが、親に言った所で休む理由にはならないだろう。学校に到着してクラスに入る。今日も放送したりしないだろうな。ついついスピーカーを気にしてしまく。
入るといつもよりクラスが騒がしい。
昨日の話で盛り上がっているのだろうか?
盛り上がるのはいいけど、僕の席近くでやるのは止めて頂きたいものだ。
人が集まって席までいけないではないか。かと言ってこの中を割って入る勇気はないし、他の人の席に座って待つなんて勇気もない。どうしようか立ち往生していると、人の輪が突然一本の道のように開き、その先に居た女子生徒が僕を指差す。
「みーつけた。」
あ然としてしまった。僕の予測を遥かに超えていた。なんと指を指している生徒は芹奈だったのだ。ってことは僕の席に座ってみんなと話していたのは芹奈だったのか。
彼女は何も気にせずに、満面の笑みで僕を見ている。
なんで?なんで僕のクラスが・・なんで僕の席がわかったんだ。いや、校内放送までする子だぞ。考えれば時間の問題だったのかも知れない。見つかってしまったことは諦めよう。
むしろ今問題なのは見つかったということより、クラスで付き合ってるとか適当なことを言われないようにするにはどうすればいいということだ。知り合いだけならまだ穏やかに過ごせる。
昨日の様子からして芹奈は本気で僕を探していたんだ。考えが甘かった。昨日の時点でこうなることを予測しておくべきだった。芹奈に驚いている場合ではない。ここでどうにかしないと僕の今後の学校生活が悲惨なものに成りかねない。思考しろ。頭をフル回転させて絞り出せ。この状況をどうにかして笑って誤魔化すんだ。
脳裏にもうダメだと思いが少しチラつくが強引にねじ伏せて思考をする。
僕は平穏な学園生活を送ってみせる。
「彼と知り合いなの?」
「知り合いというかアタシの彼氏です。えへへ。」
平穏な学校生活が終わったー
フル回転していた僕の頭は脳内で盛大に爆破して活動を停止した。
そして、全ての終わりを告げるチーンというベルの音が鳴り響き、脳内を反響して何度も響く。
「ホントなの?」
「冗談でしょ?」
クラス中がざわめきながら、クラスメートが確認するように尋ねる。
この時再び僕の脳はフル回転する。
先ほどのベルが鳴り響き伝える。
第2ラウンド
さっきのベルは終了の音じゃない。まだみんなが信じていない。今ならまだ巻き返せる。エイプリルフールでしたみたいな感じで笑って誤魔化してみせる。
思考しろ。僕の脳よ、限界を超えろ。ここを切り抜けるんだ。
「ホントだよ。」
再び終わったー
さらば俺の平穏な学校生活。
カンカンカーン
芹奈の秒速返答により、第2ラウンド開始2秒でKO負け
これはもう無理だわ。僕は心の中で燃え尽き地面に倒れ込んだ。そして僕は全てを諦めてことの顛末を流れに任せることにした。
僕の脳内の火が燃え尽きるのとは反対にクラスは大きなどよめきが起きた。
それはそうだろう。芹奈のよう小さな妖精とまで言われる可愛い子がよりにもよって僕みたいな冴えない陰キャラを自ら彼氏と言っているのだから。月とスッポンとはよく言ったものだ。
僕が第三者でも驚くと思う。というより当事者である僕が一番驚いているのかもしれない。
ここまで来ると受け入れるしかないのかな。僕が芹奈の彼氏になったということを。
芹奈にこの場で別れてくれなんて言えるだろうか?いや、無理だ。それはそれで角が立つだろうし、そもそもそんな勇気はない。
「彼氏ってば、この間連絡先交換せずに別れちゃったからわざわざ聞きに来たんだよ。スマホ出して。」
芹奈はスマホを出しながらこちらへ向かってくる。
確かに告白はされたけど、連絡先は交換してなかったな。もしかしたら電車降りる時に何か言ってたのは連絡先のことだったのかもしれない。
まああの時はこんなことになるとは思ってなかったからな。こうなるならあの時に、詐欺とか気にせずに連絡先を交換して、関係を内緒にしといて貰えば良かった。
いや、昨日の放課後にでも会いに行って、話しておけば良かったんだ。
いろいろとタラレバを言っても仕方ないのだが、僕には関係ないと対応が後手に回ったことを後悔してしまう。
「俺も一緒に交換していいかな?俺コイツの友達なんだ。」
諦めてスマホを出した僕の横からクラスメートが同じようにスマホを出して僕よりやや前のめりで芹奈に近づく。
友達じゃないと言ったら失礼だけど、このクラスメートとはあまり話したことはない。友達の定義を広くしてもどっちかと言うと友達より、ただのクラスメートと言った感じだが、本人たちかそう言うならそういうことにしておこう。もう僕は考えるのに疲れてしまった。
ちょっと待てよ。この二人って昨日泣いてたクラスメートたちじゃん。彼氏に慣れなかったからまずは友達から的な感じかな。昨日あんなに傷ついたのに凄い。なんてガッツだ。
「アタシは彼氏と交換しにきたの。よく友達の目の前で、友達の彼女にそんなこと言えるよね。信じられない。アタシそう言うこと言う人大嫌い。邪魔よ。」
ズバッ。お見事です。
芹奈がまさかこんな名刀を持っていたとは。刀に芹奈の殺気が込められて二人を両断した。あまりに剣閃が見事だったので、周りから小さな拍手が起きる。
両断された二人はよろよろと後ろに後退していく。その目には血ではなく涙が溜まっている。高校生になって2日連続で失恋の涙を流すとはこの二人も思っていなかっただろうな。
しかし、芹奈の行動は女子たちから同意の頷きが多数見られる。やはり今のはあまりよくないようだ。
芹奈はそのまま僕に歩み寄り、連絡先を交換すると嬉しそうに自分のクラスへと帰っていった。
その後すぐにチャイムがなったので、クラスメートからの質問攻めに合うことはなかったが視線が痛かった。今までこんなに注目されたことない僕としては居心地が悪いが逃げ場もないので、ただ耐えるしかない。
休み時間も直接話に来る人は居ないが、ひそひそと僕を見て話してたり、他のクラスの生徒がわざわざ僕を見に来ていた。
改めて彼女の人気が凄まじいことを理解した。
そして、昼休み。僕は人気のない教室へと連れて来られていた。
事の発端は当然朝の芹奈のことである。一刀両断された二人から無理やり連れてこられたのだ。
「お前さ、七瀬さんのどんな弱みを握ってんだよ。」
「いや、弱みなんて知らないよ」
本当のことである。芹奈のことなら、むしろ貴方のほうが知ってると思う。僕が知ってるのは名前と顔ぐらいだ。こう思うと知り合いレベルの情報しかないな。
「弱みでもなきゃ、お前みたいなやつと、付き合うわけねぇだろ。」
それについては僕も同感だな。
怒鳴るように叫ぶ彼をみながら冷静に思う。
僕みたいな陰キャラがあんな可愛い子と付き合えるなんて、普通に考えれば事情があると思うだろうな。
なんで僕なのだろうか?それは僕も知らない。
そして、何も話さない僕に苛ついたのか単なる八つ当たりなのか突然お腹を殴られる。
腹部に痛みが走り、床に片膝をつく。
喧嘩なんかしたことのない僕からすれば久しぶりの痛みだ。みぞおち付近に入った為、身体に刺さるように痛い。
立ち上がれないで居ると、もう一人の彼に胸ぐらを捕まれ、強制的に立たされる。
「お前ストーカーとかしてんじゃねぇのか?」
彼の大きな声がお腹の痛みに響く。ここは黙ってよう。僕は大人しく事が過ぎるのを待つことにした。
例え今抗っても追い追い面倒なことになるなら、今いっそやられてしまおう。
どうせ彼らも気が済んだら帰るだろう。
「それで無理やり付き合ったんだろ?違うか?」
違うよ。コイツは何言ってんだろうか?
首を大きく揺さぶられながら、僕は思ったのだが、口には出さない。
「図星だろ。お前人として最低だぞ。」
影でこんなことしてるお前も最低だろ。
心のなかでツッコミを入れる。
「お前には制裁を加えてやらねぇとな。七瀬さんは俺が守る。」
言ってることがヤバいな。悪役と正義の味方が混ざってるじゃん。
そう言うと胸ぐらを勢いよく離され、後ろに蹌踉めくと、二人は教室から出て行った。
後ろ姿を見ながら少しだけ申し訳ない気がした。
人気のないところに呼び出してこんなことをするのは良くないと思うけど、彼らは2日連続で大好きな人にアタックして玉砕したんだよな。改めてなんで僕なんだろか。正直顔もルックスもあの二人の方がいいと思う。
芹奈のタイプと言われてしまえばそれまでなのだが、こんなに芹奈のことが好きな二人が玉砕してて、可愛いなって思ってる程度の僕がヒョンなことから彼氏になったなんてなんか変だよね。
今日のことは怖かったし、痛かったけど、彼らの受けた心の傷を思えば充分に目を瞑れる。