夏空の白球
「ほらっ、やっぱりいた。」
僕は教室に入ると芽衣と英都がいた。
なんか二人もケンカ中なのか英都は床に腕の関節技を決められて、犯罪者のようになっている。
僕を見つけた芽衣は、英都から飛び降りると僕の元に駆け寄り顔のキズを覗き込む。
「譲くん、大丈夫だった?このゴリラに殴られたんでしょ?バッチリお仕置きしといたからね。」
だから英都は芽衣にやられていたのか。まあ殴られたのは事実だけど、この顔の傷は英都より芹奈の・・まあいっか。真実を話すのは止めておこう。
「英都くんに殴られたの?」
後ろから芹奈が心配そうに見るので僕は笑ってVサインをする。
「全然平気だよ」
その10倍ぐらいやり返したからね。心の中で思うもそんなことは言わない。武闘派の英都にひ弱な僕という立ち位置があるからね。
「芹奈。来てたんだ。」
僕の後ろに隠れる芹奈を見つけた芽衣は少し驚いている。英都も芽衣の声に反応して起き上がる。
「二人とも昨日はごめんなさい」
頭を下げた芹奈を見る二人の顔は、既に許しているように思う。もしかしたら僕たちが来るまでに何か話していたのかもしれない。
「これでみんな揃ったね。料理をはじめよう。」
芽衣が手を叩くて芹奈も顔をあげる。
芽衣と英都がいろいろな意見を言い出すのに対して、顔を上げてからどうすればいいのか分からない芹奈は二人を交互に見渡していたが、時期に議論に参加した。議論が白熱仕出していつもの調子が出てきた所で、僕はみんなの話を止めた。
「料理のレシピはもうほぼ出来てるんだ」
僕の言葉に三人の視線が集まる。その顔からは期待ではなく・・
何ですぐに言わないんだよ 『英都』
今までの議論は何だったの 『芽衣』
大好き 『芹奈』
一人思ってることが違いそうだけど、話を続ける。
「昨日作ったんだけど、まだ全然ダメ。未完成なんだ。」
僕の言葉の意味を理解しかねている三人にまずは作ってみることにした。
「とりあえず作ってみるね。作れば分かると思うけど、昨日の段階だとこの料理には足りないものがある。」
レシピは頭の中に入ってる。僕は昨日の試作の時よりも手際よく作っていく。
そして、出来上がったものを三人に差し出した。
「これが僕一人の限界点。」
僕が出したら料理に三人は驚いていた。そして、確かな手応えをみんな感じていて、足りないものにもすぐに気づき、僕たちは再スタートをきった。この課題を解決し、店長を納得させてみせる。再び思いは一つとなった。
「夏空の白球」
僕たち渾身の一皿を店長の前に差し出した。作ったのはハンバーグではなく、野球のボールに見立てた焼きおにぎりだ。
「昨日の段階で足りなかったのは、デザインと想い。よう改善してきたな。」
昨日はレシピをある程度完成させるために、淡々と作り、そのまま完成した焼きおにぎりを置いていただけだが、今日は芹奈が居たので、デザインも完璧にこなした。
「今日ならその2つは解消するハズだと思いましたからね。。想いはみんなで作れば必ずクリア出来る。デザインは芹奈がいましたから。」
「ええ料理や。ハンバーグから焼きおにぎり、よお思い付いたな。」
「昨日みんなが熱くなって、喧嘩してバラバラになるので、閃きました。怪我の功名ってやつですかね。」
僕は笑いながら話すと三人は苦笑いしていた。
「価格も調理時間も昨日より改善出来ました。」
「ならもう言うことはないのぉ。頑張れや」
「ってことは店長、美味かったってことですか?」
「ああ。デザインもワクワク、ドキドキ、スマイルで美味かった。ごちそうさん。」
「「「「よっしゃぁーーー」」」」
店長が軽く笑ってまた奥へと消えて行くと、僕たちは四人でハイタッチを交わした。
やった。遂に店長から美味しいって言葉を貰えた。正直最後まで言ってくれないのかと思っていたから凄く嬉しい。
他の三人も同じ気持ちのようで、念願の夢が叶ったような喜びを見せる。