想い
放課後
「どこ行くの?」
「はっ?どこだっていいでしょ?あんた使えないからもう彼氏じゃないから。ってことで彼氏面しないで。」
酷い言われようだな。放課後の芹奈は荒れている。
ってか彼氏面なんかしたことないんだけどな。これ言ったら怒るかもだけど、彼氏だとあんまり思ったことないんだけどな。呼び名が彼氏だったとは思ってるけど。
足早に去ろうとする芹那の手を取る。
「そっちじゃなくて、今日も料理作るんだから。」
「はぁー?ホント使えなくてムカつく。こっち来て。」
深いため息をついた芹奈は僕の手を取ると力強く引っ張っていく。僕は流れに身を任せて引っ張られていく。人目のない教室に連れてこられた。
「料理作る?なんで?」
「店長に見せにいかないと。大会まで時間ないし」
「はぁ?大会?何言ってるの?もう無理でしょ。ってかあんたの料理じゃ無理でしょ」
「やってみないとわからないよ」
「分かるよ。今までだってずっとダメだったじゃん。だからこれからもずっとだめなんだよ。いい加減気付きなよ、自分の限界に。」
「僕の料理の腕が未熟なのは認めるよ。けど、諦めたくないじゃん。」
「なんで?あんたになんの得があるの?ないでしょ?アタシに無理やり付き合わされただけなんだから。さっさと諦めなよ。」
得か?損得について考えたことはなかったな。そう考えるとフッと心に一つの思いが鼓動する。そうか。だから僕はこんなに頑張ってるのか。
「諦めないよ。だって芹奈の夢なんでしょ?料理のデザインをするの。」
芹奈の夢を応援すること。それが僕の頑張ってる、諦められない理由なのかもしれない。
「その夢を壊したのはアンタでしょ!もういい加減にしてよ。」
教室中に響き渡る芹奈の叫び声は何かを恐れ、苦しんでるような、心の叫びに聞こえた。
「芹奈、君は何を恐れてるの?」
芹奈の目が僕から逸れて急に泳ぎだす。どうやら僕の感じていることは本当みたい。
僕が一歩近付くと、芹奈は一歩後ずさる。
「言いたくないなら聞かない。けど、不安なら不安といえる友達が君の近くにはいるハズだよ。」
また一歩近付くと、芹奈は後ずさる
「僕じゃなくてもいい。君には芽衣もいるじゃないか」
「もういないわ。絶交したもの」
「本当にそう思うの?」
「アンタに何がわかるのよ。」
「僕に分かるのは、君が夢の為に一生懸命だってことぐらいだよ。だから僕はやれることは全部手伝うよ。芽衣さんも同じ気持ちだと思う。」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
歩み寄る僕に芹奈は叫びながら殴りかかってくる。
芹奈の拳は僕の顔をめがけて繰り出され、僕の頬を何度も殴った。泣き叫びながら芹奈に殴られた。しかし、拳には力は無く悲しさしかない。
「アタ、アタシシのせいで・・アタシが悪いのは分かってる。うわぁぁ・・英都くんも芽衣も・・居なくなっちゃった・・」
芹奈は膝から崩れ落ち俯き泣いている。
「二人はもう教室で料理の準備してると思うよ。」
「そ、そんなわけないじゃん。だって昨日・・」
「きっと二人はいる。だから芹奈も行こう」
確認したわけではないけれど、きっといる。
僕は芹奈に手を差し伸べる。
「何で?何で彼氏はアタシに優しくするの?」
「君が好きだからだよ。」
思いがけない言葉が出てきた。言われた芹奈も驚いているけど、言った僕も驚いている。
自然と出てきた。これが僕の本心なのだろうか。まぁどっちでもいいか。
「君が立ち上がれないなら手を貸すし、君が不安なら寄り添い支える。それが僕が君にしてあげられることだから。行こう。僕と同じ、君を支えてくれる二人の元に。」
「けど、アタシ二人に・・」
「大丈夫、仲直り出来るよ。一度もケンカしたことがない人だけが友達だとは僕は思わない。ケンカしても仲直り出来るのも友達だと僕は思うよ。だから大丈夫。きっと仲直り出来るよ。」
芹奈は泣きながら僕の手を取った。
その手を僕は強く握りしめ、引っ張り芹奈を立ち上がらせるとそのまま抱きしめる。
「だからもう泣かないで。君は僕が守るから。ずっとそばにいるよ。」
芹奈も僕に腕を回して力強く抱きしめる。
そして、落ち着いた芹奈は上目遣いで僕を見つめる。芹奈の目に惹き付けられるように唇に優しくキスをした。