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陰キャラな僕と陽キャラの彼女  作者: 赤白 青
16/21

崩壊と足りないもの

それから僕たちは毎日、休日も店の定休日も関係なく、その日の成果を店長に届け続けた。

何度かは自分たちとしては美味しいと思える皿が完成したのだが、結果として、一度も店長に美味しいとはいってもらえなかった。


「今日はどうする?」


「昨日のあれでダメだったんだよ。正直ショック大きくてヤバいかも。」


昨日は確実に今までの集大成と言えるような、最高の料理を提供した。

桃弾ハンバーグ。ハンバーグの種の中に適度なサイズに刻んだ桃を入れる事で、ハンバーグを割った際に、肉汁と共にフルーティーな香りがして食欲をそそる。そして、デザインも洋風の家でクリスマスプレゼントを開けるのを楽しみに待つ子供のような気持ちになれる、芹奈の最高作だった。

僕たちが考えていたコンセプトである、ドキドキ、ワクワク、スマイルのイメージ通りであった。

しかし、それも店長レベルになるとまだまだダメだったらしい。

正直僕もショックだった。アイデアが全然出てこない。しかし今日も店長の元に料理を届けないといけない。

現在ここには僕、芹奈、芽衣、英都がいるが空気は重い。

なにか案がないかと料理の動画を見始める。


「サボって動画見てないで、料理作りなよ。」


「サボってはないよ。参考になるのないかと思ってみてたんだ。」


芹奈は突然立ち上がると、僕からスマホを取り上げて、睨みつける。

なんかいつにも増して、怒ってる。なんでだ?


「料理が美味しくないのは、彼氏のせいなんだよ。もっと真剣になってよ。」


ぐうの音も出ない。反論出来ない。その通りだ。

僕がもっと上手く料理を作れればこんなに悩む事もなかっただろう。素人だから仕方ないじゃないかとも思う。だったらお前がやれよとかも思う。思うことはいっぱいある。しかし、声には出さない。言い訳しても、芹奈に言い返しても料理の腕は上達しない。


「芹奈、言い過ぎだよ。譲くんは一生懸命やってくれてるよ。」


「一生懸命やっても結果に結びついてないじゃん。そんなの意味ないよ。」


言い返そうとする芽衣を僕は手で制止させる。


「過程じゃなくて、結果を出してよ。」


教室に叫び、響き渡るように怒る芹奈の声はそれぞれの胸にどう刺さったのかは分からない。しかし、僕には怒っているというよりは苦しくてもがいてるような気がした。


「ごめん、今のお前には付いていけないわ。俺降りるよ。」


「おい、英都。」


突然立ち上がった英都は、僕が止めるのも無視して、教室から出て行った。


「ごめん、今の芹奈とは無理だわ。」


「ちょっと、芽衣さんまでなに言ってるんだよ。」


いろいろ思うところはあるだろうけどさ。

まさかこのタイミングで芽衣さんまで居なくなるなんて。

芹奈は二人を目で追っている。何を思っているのかはわからないが、二人が教室から出ていくと静寂が訪れる。

そして、その静寂を芹奈の叫び声が破る。


「もうーーー何なのよ。アタシが何したって言うのよ。全部彼氏のせいだよ。」


芹奈は叫びながら机を思いっきりたたくと、僕を睨みつける。その目からは殺意と怒りを感じる。こんな顔ははじめて見る。


「彼氏が全部悪いんだよ。」


芹奈のビンタはいつにも増して痛く、頬を何回も殴られた。


「料理は美味しくないし、英都くんは抜けるし、芽衣まで抜けて、もう大会にだって出られない。全部、全部彼氏のせいだよ。」


最後はグーパンチで頬を殴られると唇が切れてしまい、血が流れる。

それを見た芹奈は舌打ちすると、まだ怒りをどこにぶつけていいのか分からないようで、足をバタバタと動かすと教室から飛び出していった。

芹奈が出ていって僕も一息つく。椅子に座り、ハンカチで唇を抑える。

昨日まで活気のあった教室は嘘のように今は僕一人、寂しさがある。

英都が居なくなり、芽衣、芹奈まで居なくなった。あっさりチームは崩壊してしまった。

チームが崩壊?

チームが崩れる・・

チームを崩す・・

ハンバーグを・・


そうか。閃いた。そうだ、きっとそうだ。固定概念に縛られていた。そうだよ。崩せばいいんだ。

待ってろ、店長。みんなのことは心配だけど、早速試作だ。


3時間後

「出来た。これならいける。」


僕はイメージ通りの皿を作り上げることが出来た。これなら絶対店長も美味しいと言うハズだ。昨日のよりも別格に美味しくなってる。

あとはみんな次第だな。


試作をしていたので、みんなに会う時間がないまま、20時に店に行った。

やはりみんなは来ていなかった。

入ると、店長がいつものように座って待っていた。


「今日は一人なのか?」


いつもはみんなで来るのに不思議だったのだろうが、僕の頬をを見て察してくれたようだった。


「満足いくものが出せるのか?」


いつもより低く重い声から店長の思いが伝わってくる。

僕はこの言葉に返事をするのではなく、料理の準備をして、作り上げたものを店長の前に出す。


「ダメですね。だからこれはまだ未完成です。今日の所は見るだけで勘弁してもらえませんか?明日、必ず完成させてきます。」


店長はゆっくりと立ち上がる。僕の胸ぐらを掴み、睨みつけられた僕としては殺気だけで、意識を失いそくなる。しかし、ここで倒れるわけにはいかない。この料理に足りないものは分かってる。明日までに必ず完成させる。僕は怯むことなく、店長の目を見返す。


「今日だけやぞ。明日までに完成させて全員でこい。譲、一つだけアドバイスしたるわ。やれるのにやらないは通用せえへんぞ、やれることは全部やってこい。」


店長の背中を見送ると、ふぅーと肩から息を吐く。それと同時に全身の力が抜けていく。なんとか乗り越えた。

これが腰が抜けるとはこういうことなのか。体に力が入らなくて立てる気がしない。しかし今は助けてくれる仲間はいない。芹奈、芽衣、英都の顔が頭に浮かぶ。尻もちついて力が出ないけど、一人で立たないと。仲間なら立ち上がるのを手伝ってくれるんだろうな。

試作時間は辛かったけど、楽しい時間だった。そう思えるのはきっとみんなのおかげだ。

やれることを全力でやるしかない。僕は掌を開き、再び力強く握った。

必ず明日、3人を教室へと連れて行ってみせる。


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