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五分で読める恋愛短編小説集  作者: 氷室 隼人
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2つ目 必ず追いつくから!

「うへぇ……なんでこんなことやんないといけないんだろ……時間の無駄なのにさ……委員長なんてせんかったらよかった……」


 ちょいまち……キャラ崩壊してまっせ。とは、言わず、黙って寝たフリを続ける。


「予習くらいやってこいよ……だからずっとゴミはゴミのままなんだよ……」

 

 声がいつもよりずっと低い。あんたそんなキャラやないやろ。とは、言わず寝たフリを続ける。


 状況を整理しよう。俺は昼休憩で寝ようとしていた。やることがなかったとも言う。が、机に伏せてしばらくすると、隣の住人が帰ってきたのだった。俺の隣の住人……委員長こと、桃山 白愛は帰って来るなり愚痴りはじめたのだった。普段とだいぶ違う言動にかなりビビっている。故に、動けなくなってしまったのだった。起きてることバレたら殺される……


「ぁぁうざいわ……猿どもはうるさいし、ギャルどもはピーピーピーピーうざいし、ろくに休憩できんわ」


 だんだん、エスカレートしてきたのだが……そして、トイレ行きたいのだが……バレたら死にそう……


 そうして、俺はこの休憩時間を乗りきったのだった。が、しかし、桃山さんの方をチラチラと見てしまう。仕方ないのだ。だってあまりにも完璧に優等生になっているから。って、今、目があった……しかも、目があった瞬間にあっ、って顔してノートの端にすごい勢いでなにか書き始めた。


「……はい」


 ノートの端をちぎり丸めてポーンっと投げられた。なになに?


『聞いてたでしょ』

「(ビクッ)」


 怖!なんでわかったんだよ!いや、これはカマかけているだけだ。落ち着け俺。聞いてないよって書くだけだ。


 聞いてないと書いて投げた。それを広げて桃山さんが読む。眉をひそめ、なにか書きこちらに投げ返す。


『やっぱり、聞いてたんだ。後で話があります。放課後、屋上に来なさい』


 解せぬ!え〜……だるっ。嫌や。


 そしてやってきた約束の時。俺は屋上で寝ていた。寝るなって言われてないもん。なのに桃山さんといったら、ぶーこらぶーこら文句言うもんだからうざいってったらありゃしない。


「さっさと要件」

「そうだね。えーっと、昼休憩聞いたことは忘れて!お願い!何でもするから!」


 え?そんなこと?別にいいのに何も言われなくても黙っとくのに……


「ダメ……かな……?」

「そうだなぁ……」

「そこをなんとか!」


 さぁ、どうしようか。何も願わなかった場合、多分、貸しを作ったみたいで嫌だろう。かと言って、適度なお願いなんですぐ思いつかない……いや、そんなことないぞ!


「なにかできることがあったら俺に言ってくれ。後、俺の前で取り繕う必要は無い」

「それがお願い……?」

「そうなるな」

「ふふっ……ありがと」

「なんの事だ?」


 必殺!とぼけたふり!流石、クラスの人気者、笑顔の破壊力が抜群だ。


「あのさ、連絡先交換しない?すぐ、連絡できるようにさ」

「俺に出来ることなんてたかが知れてるぞ」

「それでもいいんだよ」

「あっそ。物好きなんだな」


 そうして、俺は死なずに済んだ。勝ったな……


 

 夜、俺が風呂から上がるとスマホに通知が来ていた。滅多なことがない限り通知なんて来ないのにどうしたんだ?


『お昼ご飯、これから一緒に食べようよ』

「What do you mean?(どういう意味?)」


 っと、思わず英語になってしまった。しかし何故だ?うーん……わからん。とりあえず、了解っと……既読はっや!暇なのか?


『じゃあ、屋上で待ってるから〜』

『了解』


 その日、俺はぐっすり寝た。



 翌日、昼休憩。


「遅い……」


 四時限目が終わってすぐ来たので俺が早すぎるのは分かるが、それにしても遅い。まぁ、寝て待っていたらいっか……


「ごめーん!クソ先公にまた仕事頼まれとったんよ〜ごめんね〜」

「なるほど……大変なんだな」

「そうなんよ!くそハゲがよー」

「わかった。とりあえず落ち着いて、ご飯食べよう」


 おぉ……なんで呼ばれたかは何となく察したわ。愚痴りたかったのだろう。まぁ、みんなに好かれるってことはそれ相応にストレスが溜まるのだろう。


 桃山さんが弁当をあけ、食べ始める。とりあえず、俺も食べることにする。腹が減ってはなんとやらだ。


「でさ、あの先公がさ……」

「食べるの早くない?」

「そう?普通じゃない?」


 蓋開けて五分かよ……やべぇわ。こいつすげぇ。


「何となくわかっているけど、なんで呼んだんだ?」

「わかってるならいいけど、愚痴りたいからだよ」

「ん。まぁ、そうだろうな」

「へぇ……意外と素直に聞いてくれるんだ」

「有言実行してるだけだ」


 そう、それだけなのだ。嬉しい訳が無い。人との関わりはできる限り少なくしたいからな。


 俺はゆっくりと食いながら話を聞き、桃山さんが愚痴る。たまに相槌を打てば十分だ。そのまま、三十分が過ぎ去りそろそろ帰ろうかと思ってベンチをたつと、


「またあしたもよろしくねー」


 って、言われた。とりあえず頷いたが、正直、めんどくさかった。まぁ、死なないための保険ってことでいいんでしょう。知らんけど。


 そんな日が続いていたある日、あることに気づいてしまった。俺は桃山さんの愚痴を聞くのが楽しみになっている。いや、愚痴を聞くのが楽しいのか、それとも……


「来たよー!!」


 桃山さんが来た。ふっ、意識してしまったら負けだ。ご飯の方に意識を持っていく。うん、今日も美味いぞ。


「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるから近づくな」


 ほんとにやめて欲しい。近い近い。服をつまむな体を寄せるな!


「ふーん……まぁ、いっか……それでねー……」

「あぁ……うん……」


 こんな時間がずっと流れればいいのに……そう願っても叶わないことなんて知っている。だから願わないのだ。


 そんなことを考えながらここで過ごす残り少ない時間を過ごしていった。


 数日たったある日のこと、いつも通り過ごそうとしていたらいつもより緊張した面持ちで桃山さんが来た。


「あの、さ」

「なに?」

「放課後もここに来て欲しいんだけど……いいかな?」

「別にいいけど……どうかしたの?」

「それはまた放課後に」

「はぁ……それで?お弁当は?」

「……忘れちゃった……」

「教室?」

「うん」


 らしくないな。まぁ、そんな日もあるのだろう。今日は一人で食べるか……ってなんで隣に座んの?飯は?


「ちょっと寝かせて」

「り、了解……」


 ちくしょう……食べづれぇ……


 俺の肩に頭を乗っけて桃山さんは早くも寝始めた。理性を試されているみたいだ。とりあえず、どうしよう。ご飯食べると起こしてしまいそうなのでそっとしておこう。



 数分後、桃山さんは起きた。


「ありがと。じゃあまた」

「ん。また後で」


 桃山さんが去ったあと、しばらくぼーっとしていた。



 放課後、約束通り屋上に来た。生徒達がフラフラと下校しているのが見える。まだ、来ていないみたいなのでのんびりそいつらを見とく。


「待った?」

「ん?あぁ、待った」

「嘘でもそこは今来たとこって言えよ」

「そんなキャラじゃない」

「知ってる」


 茶番はこれくらいでいいだろう。そろそろ本題に入って欲しい。いや、ずっとこのままでもいい。まぁ、それは無理だからさっさと本題に。


「で?なんか用?」

「いや、えぇっと」


 夕日のせいか桃山さんの顔が赤かった。少し悩み、やがて意を決したように俺に向き直った。


「ここ数週間あなたと過ごして凄く楽しかった。味気ない学校がいつもより色付いていた。あなたのおかげ。ありがとう。それで……話があるんだけど……」

「うん」

「……あなたのことが好きです。私の特別になってください」


 あぁ、来てしまった。この時が。来て欲しくなかったんだけどなぁ。


「ごめん。それは出来ない」

「なんで」


 桃山さんの顔は驚愕と悲しみで染まっていた。


「俺はあと一週間後の金曜日に親父の仕事の都合で引っ越すんだよ。東京に」

「え?」

「だから、ごめん」

「そんなの……」


 桃山さんはぽつりと言ってその後、大きく息をすって、


「そんなの聞いてないよ!なんで……なんで言ってくれないの!なんで教えてくれなかったの!?ねぇ……なんで……」

「君に悲しませたくなかったんだ。少しでも長く楽しそうな君でいて欲しかった」

「そんなの嬉しいわけがない!嬉しいわけがないよぉ……」


 叩きつけるように泣き叫んだ。俺は胸によりかかってきた桃山さんを抱きしめることが出来なかった。



 一週間後の金曜日、あれから一度も桃山さんとあっていない。学校帰りに直で行くことはメールで伝えている。普段関わらないクラスメイトに聞いた。まぁ、来てくれるとは思わないがな。と思い校舎から出ると、校門前にいた。


「桃山さん、今までありがとね。俺も楽しかった」


 返事は、ない。俯いており顔がよく見えないが、涙のおかげで泣いていることはわかった。しばらく待っていると涙でぐちゃぐちゃの顔をあげた。とりあえず、ハンカチで拭ってあげる。


「ちょ、やめてよ……恥ずい」


 拭き終わったので離す。そして、一歩離れ、


「なんでいるんだ?」

「うざ!……じゃなくて、見送ってあげようと」

「そうか。ありがとう。じゃあ、そろそろ行かなきゃ」

「そう」


 俺が背を向けて歩き始めたら、


「待って!」


 と言われたので泊まって振り向いたら、唇に柔らかい感触がした。キスされたと気づくのに少し時間がかかった。そして、離れていき、

「いい?必ずあなたのところに行ってみせるから!必ず追いつくから!……待っていてね」

「あぁ、待ってる」

「じゃあ、二年後!またね!」


 と、言い満点の笑顔を咲かせ走っていった。車に乗った時親父なにか言われた気がしたが、頭に入ってこなかった。



 二年後、東京の大学に進学することが決まり、一人暮らしをすることに決まった。親父達は帰るらしいから。大家さんには隣も新しく入った人との事。挨拶でもいくか。


 ピンポーン


 ん?


「はーい……ってえ!?」

「隣に引っ越して来ま……え!?」


 そこにはあの頃よりも少し大人びた桃山さんがいた。


「やっと追いつけた……やったぁ!!」

「うわっ」


 いきなり抱きつかれてよろけてしまう。少しして離れると、


「これからよろしくね!」

「あぁ、こちらこそよろしく」


 大人びたが何も変わってない満点の笑顔がそこにはあった。

読んで頂きありがとうございます!

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