【コント】だから違うって言ってんだろ!
先輩〈ツッコミ=ツ〉
後輩〈ボケ=ボ〉
どちらも男子大学生風
夕方 橋の上
暗い顔の先輩登場。舞台中央で立ち止まり欄干に手をかけ下をのぞく。
ツ「今日はやけに川の流れが早いな……ここから落ちたら、痛いだろうな……水も冷たいだろうな……」
呼び出された後輩が走ってくる
ボ「ハア、ハア、先輩どうしたんですか、こんな時間に突然呼び出したりして」
ツ「ぁ、来てくれたのか、悪いな……一人でいるとなんだか、……俺、ヤバいことしそうで……」
ボ「ヤバいことって?」
ツ「……どっか、……高いところから飛び降りるとか……」
また欄干に手をかけ下をのぞく先輩。
ボ「えっ! せ、先輩、そんな!! じゃぁ僕は足を持ち上げればいいですか?」
いきなり右足を持ち上げる後輩。欄干にしがみつく先輩。
ツ「わっ、バカ、ちがうだろ」
ボ「違うんですか、こっちですか」
右足を放し左足を持ち上げる後輩。
ツ「だから違うって!放せっ」
後輩は足から手を放し先輩の手を掴む。
ボケ「とにかく、一旦ここから離れましょうよ、ね、ね、あっち行きましょ。あっちの方にね、欄干が低〜くなってるところがあるから、そこなら先輩の短い足でもまたげる──」
ツ「(後輩の手を振り払って)だから違うんだって、止めて欲しいんだよ」
ボ「あ、……とめてほしいのか」
ツ「そうだよっ」
ボ「……。泊めて欲しい、……えっと、でも僕、彼氏いるし」
ツ「彼氏っ」
ボ「でも先輩がそこまで思い詰めてるなら──今夜は最後までしないって約束してくれる?」
ツ「いや泊める違いだから」
ボ「実は、彼にはまだそこまで許してなくて」
ツ「違うって」
ボ「ハッ! もしかして僕がする方でいいんですかっ?!」
ツ「うれしそうだなおい、違うっつってんだろ」
ボ「いやー、実はそっちも全く経験無いんすけどぉ」
ツ「チェリーかよ……もう、どうでもいいや。はぁ〜ふぅ……取りあえず冷静になったよ。いきなり呼び出して悪かったな」
ボ「でも先輩、いったい何かあったんですか」
ツ「……。彼女に、浮気された……」
ボ「あ……そうだったんですか……」
ツ「あいつ、俺じゃない男の写真を、大事そうに財布にいれて持ち歩いてんだぜ。俺思わずカッとなって、その写真を取り上げたんだ! そしたら彼女が叫んだ、『返してよ、返さないと警察に通報してやる〜』」
ボ「うっわー、そこまで言いますかね」
ツ「だろ? それで、思わず写真を握ったまま、彼女の部屋を飛び出して、気がついたらこの橋の上にいたんだ。ちょっと、見てくれよこれ」
ポケットをごそごそする先輩。取り出して後輩に見せる。
ツ「こいつだ」
ボ「あっ、僕、この男知ってる」
ツ「えっ!」
ボ「名前もわかりますよ」
ツ「ほんとかっ?」
ボ「だって、名前書いてありますもん」
ツ「へっ? あほんとだ──ブブッ、古くせー名前! 今どきユキチだって、ってこれ一万円札じゃねえかっ! だから大事そうに財布にしまってたのかっ。はあ〜、浮気じゃなかったのか〜」
ホッとする先輩。
ボ「ね、先輩、僕も大事な人の写真をサイフにしまってあるんですよ。実は俺、最近彼女もできたんです。ちょっと古風な女性で、カズハっていうんですけど」
ツ「カズハ? どこかで聞いたことあるな」
ボ「ちょっと写真見てくれます?」
サイフを取り出す後輩。
ツ「はっはーん、わかったぞ、どうせ5000円札を出して、『樋口一葉』をカズハでーすっていうんだろ」
ボ「違いますよ」
サイフから写真(紙)を二枚出す後輩。一枚を先輩に渡す。
ボ「ほら」
ツ「(後輩に聞こえないように)こ、これ俺の彼女じゃねえか!カズハ〜やっぱり浮気してたのか」
ボ「(もう一枚をみせる)で、先輩、こっちは僕の彼氏の写真でーす」
ツ「あーっ!、ヒデヨ兄さん!! ぁ」
くらっ、とフラついた先輩をしっかりと愛おしげに抱き止める後輩。
ボ「あっ先輩、大丈夫ですかっ、しっかりしてください! やっぱり僕がやる方でいいですか」
ツ「だから違うつってんだろ、もういいよ」
二人、退場。
〈 終わり 〉