4
裾野修平
あれから少し経ったもう4月も終わり。
「今日は文化祭の会議があるけど――大丈夫?」
放課後、如月さんは心配そうな趣で伺ってくれている。勿論睡眠不足で大丈夫ではないのだが大丈夫な気がしてきた。よし!
「ああ大丈夫だよ。それじゃあ会議室にいこっか」
「そうだね。一緒に行こ」
一緒ね……。
そんな不健全なことは耳から受け流し一歩足を踏み出す。
中庭をふと見ると、写真部が広報用の写真を撮影していた。……あっ、部活休むって言ってなかった。
「そういえば裾野君って何の部活入ってるんだっけ?私裾野君と同じクラスになるの初めてだから」
朗らかなトーンで包まれる。ふと安心してしまった。
「イラスト部だよ。部員3人しかいないから知らないかもだけどね」
「いいえ、もちろん知ってるよ。私も絵描くの好きだから、入部するの検討してたぐらいだけどね♪」
カッカッというただの歩行音が心地よく聞こえる。俊敏なそよ風も同様。
「そうなんだ。如月さんにそう言われるとなんか関係ないはずなのにうれしいな」
「別にそんなことないよ。ただ検討しただけだしね」
軽く話しただけなのだがもう会議室周辺だ。ともいえど早すぎたのか誰もいない。
「ついちゃったね……」
ちゃったね⁈
即座振り向きそうな顔面を抑え、前に額とられている絵の理事長の瞳を見つめる。
気まずい。特におっさん。不敬罪。退学……。
「まだ空いていていないね。あと15分ぐらいあるし……。そういえばイラスト見せてほしいな」
「え、大したことないですよ……」
俺はスマホを開き自分のピクシブ(イラスト投稿サイト)の中のギャラリーをあさる。うむ。
自分でいうのもなんだけど見せれるものじゃない。エロいとかそんなのではない。
ライトノベル作家の気持ちが分かった気がした。相手両親への挨拶どうしてるんだろう?
「ん?自信作でいいよ?」
如月さんは首を傾げた。俺はその重圧に首を落とす。
自信作か……。そうか。あの時「桜の下」で見た……。
「私も先輩の自信作みたいです」
ショートヘヤ―の少女が俺と如月さんの間にひょこりと顔を出した。西尾?
「うわぁ⁈んーと。んーと。裾野君の彼女さん?」
「べっ別に違いますよ!」
典型的だ。これはまずい。
「別に私は先輩の願い叶えて上げてもいいですよ」
相変わらず事務的な低いトーン。こいつ男を嗜んでやがる。
「あのね!」
初めて各タイプの汗がしたたる。まずい。
「あのッ。とりあえず紹介しておきますね。イラスト部に新しく入部してくれた西尾凪さん。この子も絵がうまいんだよ。はは」
「(先輩。ごまかすのへたです。私が手本を見せますね)」
西尾は背伸びし、耳元でささやく。へこむんだけど……。
「こんにちは。如月先輩。おなかはいっぱいでしょうか?」
「それはチャイーズ!チャイニーズの挨拶!」
「え、なに急にどうしたの?」
『いやすみません』
共にぺこり。
西尾とそろった。別に特段仲がよいというわけではないが。
「ふーん。仲いいわね」
「別にそうゆうわけじゃ……」
^^
ニコ⁈……ニコ⁈如月さんは満面の笑みを浮かべる。妙な威圧も感じる。
「まぁいいけど……西尾さんはなんでここに?]
その笑みのまま。
「私も級長です。……一様ですが」
ウサギのように西尾は少しうずくまった。おびえているよう。
「そうだったのね。改めてよろしくね。西尾さん」
「お願いします……」
明らかな落胆具合。俺でもわかる。
「そういえば開始5分前になっても誰も来ないなんてあるかな?……裾野君。ちょっと先生探しに行こう」
話の違和感。ズレ。お願いしますからのそういえば。
「いいですが―――西尾は?」
「ん?」
違和感。笑顔に圧倒されてしまう。
瞬間。間から息を吸う音が荒く聞こえた。
「そういえば聞き忘れてました。先輩たちは……えっと、どんな関係なのですか?その、あの……」
声は揺れふためいていた。
「そんなの級長どう……」
その後戦慄する。
「付き合ってる――――ってところね」
「は?」
俺。
「え?」
西尾。
「は?」
如月さん。
場面が凍り付く。刹那の間に何があったのだろうか。
俺の脳内も凍り付いた。
「先輩はとんだ浮気者ですね」
どこかからそんな声が俺の耳から耳へと通っていった。
『………』
自分で西尾に彼女さん?っと聞いておいて何の矛盾だ。めちゃくちゃだ。ただ喜びよりも驚きの方がでかい。いや。……違和感。
あの笑顔の圧倒。そんなことではわからなかったが―――やっぱりわからない。
ただあるのは違和感だけ。
因みに文化祭の会議は図書室だったらしい。