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———————そんなこと思っても意味のないことなんて知ってるけど……でも俺は願い続ける。


                  ×          


裾野 修平


 「やぁ。今日は早起きだな~修平」


比較的キレイな白を基調とした寮にももう見慣れてきた気がする。

 ロッカーからローファーを取り出し置くと、無機質に「カンッ」っと鳴り響いていった。


 「やぁ岡根ってうるさいな。今日は普通に登校してるだけじゃないか」

 「それが珍しいんだろ。この前クラスの女子が毎日ダッシュで登校してくる寮のバカがいるって噂してたぐらいにな」


確かに……。っとぐうの音も出ない正論をかましてくるのが羽豆海のいいところではあるのだがな。知らぬが仏っという言葉があるぐらいだから少しは気を使ってほしい。ほしい。マジでほしい。


 「ってまぁいいや。修平、昨日の配信見たか?あの美少女ゲームの奴」

 「あれめっちゃ面白かったよね!」


オタクというのは趣味の話になると気分が高揚してしまうから大変。

 周りからの視線が痛辣。やめて!


 「おう。いきなりハイテンションだな。やっぱりこれだからオタクは……」


大変なので高校では隠してはいるのだが。幼馴染の海には隠すことができない。というか親越しでばれてしまう。はぁアマゾンギフトで俺名義で買った筈なのに……。なんで親というものもは勝手に人の荷物を開けたがるのだろうな。しかもそれを言いたがるのか。


 「まぁ面白かったから修平がテンション上がる理由も分かるけどなぁ~。あの沼感といえ声量といえ何もかも最高だったし~。クライマックスは泣いてしまったし、最後のウサギと亀の話で号泣してしまった。かたじけない」

 「まぁ自分の感情に素直な奴はいいんじゃないか?俺も泣いたし」

 「おっと。それの言い訳のために俺を肯定したと。お主も頭が良いな~」

 「同じクラスだろ」

 「おっとそれだったら修平同様、俺も頭がいいことになってしまうな。かたじけない」

 「なにそれかたじけない」

 「流行ってるのかよ……」

 「お前だろ!」


俺らももう10年の付き合いになるわけだがあまり変わっていない気がする。同じ趣味で、同じ学校で、どっちとも恋にほど遠くて。って何言ってるんだ。

 ふと、昨日の配信を見終わった後の虚無感が急に胸の中を蔓延った。はぁ、甘いハッピーエンドか。マジで死にたい。

 ほんと、この世界もあの美少女ゲームみたいになればいいのだがな。


 「修平も分かるよなこの気持ち。ほんとあんな世界いいよな……」


やっぱり10年の付き合い、変わっていない。

 海が明後日の方向を向いて眩しそうに太陽を見つめた。

 俺は靴を履き終わると、視線をなぞるようにに立ち上がり歩き出しす。


 「だよな……」

 「おっ。これは二次元の女の子に恋をしてしまった模様ですな。お主~」

 「そのまま網膜を焼けばいいのに」

 「おっとこれは本心だな。怖い怖い……。そういえばさ、修平。授業後、久しぶりに出かけね?」

 「どこになぜか答えよ」

 「なぜ入試特有の上から……じゃなくてさっ。この前、駅前のポケットファミリーランドにあの美少女ゲームを売ってるのを見たんだよ」

 「ほんと!でも土日以外寮、外出禁止じゃなかったけ?」

 「そんなものいいってものよ!修平、割り勘な~」


海の眉毛がピキッと上がる。むかつく。


 「なにがいいってものかわからないがわかったよ、部活後な」


渋々、を装っているがそんな訳がない。ラッキースケベより全然ラッキーだ。

 噛みしめるアスファルトな通学路は、俺の足に噛みついて次第に歩幅を広げていく。

 そして、あまり寮から星の城高校までは遠くないので学校が見えてくる、


 「あーあでも虚しいな。俺と海。二人でニヤニヤ美少女ゲーなんて」

 「ほんとあんな世界になればいいのにな」


俺はふざけ半分で問いかけたのだが、その返答はぽつりと漏れる息だけ。あーあ。虚しいな⁈


 そんな一昨日から2年生になった男二人、春のボヤキであった。


 ×        


如月 綾乃


―――—数年という歳月が経った今でも、目を瞑れば昨日のように焼き付いている。

 やっぱり……。


               ×        


 私が入寮してきてもう1年。

 木目を基調に造られた女子寮の石田館は、昨日も、一昨日も、昨年も変わらず可憐に佇んでいた。

 桜舞う春。散る季節の変わり目。

 石田館の中庭に植えられた、樹齢数百年っと売り文句にされていた大樹の桜も、もう葉桜に姿を変えてゆく。


 「おやほう~」


同級生の咲良小春が口に手をやらず大あくびして挨拶してくる。

 そんな可愛らしい彼女に目をやると、私はそっと微笑む。


 「おやよう咲良さん」

 「もー綾ちゃんったら重苦しい!小春だからこはるんでいいんだよ!ね」

折れずもう一度微笑む。

 「おやよう咲良さん」

 「もうっ綾ちゃんの八方美人!」

ん?ん?ん?

 「それ、意味わかって使っているのかな?」

 「うん!」


確かに私の本質はそこにあるのだから反論できない。 

 彼女は無邪気にニコッと笑みを作ると、私の手を華奢で柔らかい手で包み先走る。


 「早くいこっ!遅れちゃうとダッシュ登校のバカって噂されちゃうよ!」

 「あーいたようないなかったような」

 「いたよはやく!しかも級長(クラス長)なんだから新学期早々まずいしね!」


ピカッ☆彡とウインクからの坂ダッシュ。

 星の城高校までの道のりは寮から近いものの坂が多い。

 その中でも一本目の坂は取り分け急なのだが……。こはるん、いや彼女を見ていると足が次第に前へと進んでく。この笑顔がもしマネージャとして見れるなら男の子の気持ちも分かった気がした。


 「カッカッカッカ」


颯爽と重ね合わさる足音二つ。けれど私は音をずらした。

 ?っと彼女は首をかしげる。私はその瞳を見ると首を振った。

 足を動かしながら見上げると青空のカンバス上にせわしなく純白の雲が動いていた。私は目を見開いたまま彼女の艶やかな髪を見る。閉じれば、


―――また人を信じれなくなってしまうから………。

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