12話 昭和16年12月8日その3
夜中にちょっと時間が空いたので、私の身体であるピコマシンボディの性能を確認していたら、なんとこの身体には私をサポートする、アシスタントAIが搭載されていることが判明しました!
それで、アシスタントAIの設定をオンにして、名前を付けてあげることにしました。
その名もピコちゃんです。安易な名前ですね。
私にネーミングセンスを期待してはいけない。
『ピコちゃん、ちょっといいかな?』
『はい、マスターお呼びでしょうか?』
私が呼び掛けると、脳内のディスプレイにちゃんと可愛らしい少女が姿を見せるのですよね。
だから私の脳内に、ピコちゃんという幼い少女が住んでいる感じでしょうか?
ほぼ永遠に等しい寿命になってしまった私とって、ピコちゃんはとても頼もしい相棒ということになります。
実体化できれば、なおのこと良しなんだけどなぁ。
今度、時間がある時に聞いてみましょう。
『ここからハワイって確認できるかな?』
『ハワイまで三時間掛かるけど、飛んでいけるよー!』
人工衛星で真珠湾を偵察できたら便利だよなぁ。とか思って冗談で聞いてみただけなのに、本当に可能だったとは! 戯れでも聞いてみるもんですね。
でも、ピコマシンボディが万能すぎてちょっと怖いぐらいですよ。
それにしても、飛んで行くんだ。さすがに人工衛星とまではいかなかったみたいなので、そこだけは少しは安心してもいいのかな?
東京からホノノルまで6000kmちょっとだったはずだから、速度はマッハ2ぐらいでしょうか?
極小のドローンを飛ばすような感じになるのかな?
しかし、マッハ2で飛行するなら、それはもうドローンとは呼ばない気がするぞ。
『じゃあ、真珠湾攻撃の戦果を確認してきてもらえるかな?』
『了解しました。三時間後ぐらいにピコドローンから報告が入りますので、それまでお待ちください』
『おっけー、頼んだよ』
それと、駐日大使館にも宣戦布告文書は手渡されたと聞き及んで、ほっと一息といったところでしょうか。
まあ、宣戦布告の通達は気休めですけどね。
緊急の暗号無線も一航艦に向けて打電したとのことです。
そう、第三次攻撃隊を編成して、港湾設備と燃料タンクを重点的に爆撃させるのと、索敵して空母を発見しだい攻撃するのだ。
南雲機動部隊が受信していることを祈りましょう。
この時間では、もう既にハワイの真珠湾は火の海となっているでしょうね。
でも、仕方ないよね? これって戦争なんだもん。
先ほど陛下はようやくお休みになられました。でもたぶん、興奮して寝付けないのでしょうね。
しかし、横になって身体を休めているだけでも多少は楽になるはずだし、今日の疲れもあるから明日以降は普通に寝られると思っておきましょう。
私はといいますと、皇居内に与えられた客間でくつろいでいます。
まあ、くつろいでいるとは言っても、あれやこれやと色々と考えてはいるのですがね。
どうやら私の身体は、睡眠を必要としない身体だったみたいでした。ピコマシンの身体は凄すぎます。
私も寝ようと思えば寝られるみたいだけど、まさか食事に続いて人間の三大欲求の一つである睡眠も趣味のうちに入ってしまうとは。
完全に人間を止めていますね、この身体は。
この調子ならば、最後の一つである性欲もなさそうな気がします。
あ? でも、女神様が出してくれた鏡の前で自分の全裸姿を見た時に、私はナニを思った?
それと、この身体って排泄も必要としないのですよ。
水タンクの容量である24リットル以上の水分を余分に摂取すれば、尿意を覚えて排泄をできるとは書いてありましたけど、普段の生活では必要ないみたいなのです。
そのついでに調べたら、なぜか穴はちゃんと開いているんですよね……
まさかとは思うけど、この身体って元々は愛玩用のアンドロイドがベースになっているとかないよね?
……深く考えるのは止めにしておきましょう。
それよりも、戦争対策が最優先課題であります。
まず簡単に行えそうなのは、ゴムシートを使った航空機の防弾や潜水艦の防音対策とかでしょうか?
だけど、未来から取り寄せるゴムシートの値段、これがまた結構いい値を張るのが頭の痛い問題ですね。
幅1メートル×長さ10メートル、厚さ10ミリで補強用の合成繊維入りのゴムシートで、16万円とかするんですよ? ちなみに、重さは14kgみたいです。
二十円金貨が二枚では足らないということです。しかし、将兵の命には代えられません。
防弾や防音対策をするだけで、航空機や潜水艦の生存率が上がるはずですしね。航空機搭乗員や潜水艦乗りというのは技術者なのだから、育成には時間が掛かるのですよ。
だから、専門職の将兵は歩兵みたいにそう簡単にホイホイと死なせるわけにはいかないのだ。
航空機の燃料タンクを防弾ゴムで覆う場合は、このシートを一機につき一枚では足りなさそうな気がしますね。
潜水艦ならば、もっと大量のゴムシートが必要になります。
一枚16万円ということは、純金で32グラム。一万枚用意するとなれば、純金で320kgですね。320kgで未来の商品を16億円分のお買い物ですか?
この時代の日本の金保有量ってどれぐらいあったんだろう?
未来では765トンだったけど、あれはアメリカの圧力で抑えらて制限された数字だから、あまり当てにはできない数字だったはず。
それに、その765トンの金塊も日本にあるわけではないしね。
ということはだ、この時代のほうが日本の金保有量って実は多いんじゃね?
もしかしなくても、多い気がしてきたぞ。
それに、金の埋蔵量でいったら、黄金の国ジパングはこの時代でも健在なのだ。
それでも金の量には限りがあるのだから、この時代で生産可能な物は敢えて私が買う必要もないのでしたね。
金を使って未来から取り寄せるのブツは、この時代の日本で作れない物や工作機械のほうが良さげな感じでしょうか?
ゴムもオランダ領インドネシアを占領すれば、天然のゴムが手に入りますので、その繋ぎの間だけ足りない分を私が供給すればいいのかも知れない。
それはそうと、アメリカ軍の戦闘機が標準装備しているブローニングの12.7mm機銃を、厚さがたった10ミリのゴムシートで貫通を防げるのかといえば、甚だ心細いでしょうね。
機銃掃射試験をしてみて防御力が不足気味だったら、10ミリのゴムシートを二重か三重に重ねれば大丈夫なのかな?
オイル漏れを防ぐための、ゴムパッキンも重要でしたね。
それと、航空機エンジン用の高性能オイルも必要でしたか。
この時代で高性能オイルを作るのは難しそうですね。高性能オイルは未来から取り寄せたほうが良さそうな気がします。
何種類かのオイルをサンプルで取り寄せてみて、試験をしてもらえればエンジンに合うヤツがきっと見つかるでしょう。もっとも、値段とも相談しなければいけませんが。
航空機のエンジンといえば、点火プラグも重要ですね。
あと、オクタン価100のハイオクガソリンに、排気タービンとかも必要になってくるのか。
B-29を撃墜するには、排気タービンは必須ですしね。
あと、ジェットエンジンを作るのに、耐熱合金が必要でしたか。
耐熱合金といえば、ニッケル合金かな?
ニッケルといえば、ニューカレドニアが有名だけど、占領するのは難しそうですね。
日本が占領を予定している地域では、パラワン島の南部には低品位だけど大規模なニッケル鉱山があったな。まあ、この時代でも見つかっているのか、そこまでは知らないけど。
見つかっていたのであれば、極々少量しか採取できない大江山なんか掘り起こさないような気がするな。
あと重要な資源といえば、石油と鉄鉱石は当然として、ボーキサイトにすず、タングステンとかでしょうか?
ボーキサイトはシンガポールの近くにあるビンタン島にありましたね。
オーストラリアのヨーク岬半島の西側や、アーネム岬にも未開発のボーキサイト鉱山が眠っています。
アーネムランド半島といえば、ウラン鉱山も眠っているんだよなぁ。
ウラン、とっても欲しいです。
オーストラリア本土だけど、道などない未開の地域のはずだから、占領できないかな?
まあ、占領できたとしても維持が難しいとは思うけどさ。
あっ! 塩を忘れていた!
工業塩や化学肥料とかも大事だったんだ。
イギリスと戦争状態に突入したから、岩塩なんて殆んど輸入断絶のはずだよね?
工業塩が無いと、さまざまな工業製品の製造がストップしてしまうのですよ。
塩って馬鹿にできません。
だから、大量の塩を確保するには、流下式塩田の普及を急がせるしか方法はないのかな?
でも、イオン交換膜で塩を作れるのであれば、それがベストなんだよなぁ。
ちょっと調べてみましょう……
ほうほう? ほーう、なんとビックリ! イオン交換樹脂というのが、もう既にこの時代でも確立されているではありませんか!
それも、どうやら日本でも製造しているみたいです。やるじゃん!
もう既にこの時代でも原理は知っているはずだから、イオン交換膜で塩の増産を急がせましょう。
でもなんで、戦後に直接イオン交換膜方式で塩を作らなくて、流下式塩田なんて遠回りをしたのでしょうかね?
もしかしたら、まだ技術的な問題がクリアされていなかったのかも知れません。
それにしても、あー、もう、必要なモノが次から次へと頭に浮かんできて、これでは収拾がつかなくなるぞ。
ちっとも高性能なピコマシンを使いこなせてないや。
その他にも、食糧や綿花なども足りなくなるのでしょうね……
といいますか、日本って戦前から食糧輸入国だったんですよね。食糧すら足りてないのに戦争するなと言いたい。
綿花は火薬の原料の一つだから、戦時中は綿花を火薬製造に取られてしまって繊維産業が極端に落ち込んだと、統計ではっきりと表れています。
戦争末期なんて戦前の一割未満まで落ち込んでいるだなんて、新しく着る服がなくなってしまいますよ。
満州西部や華北は綿花の一大生産地でしたね。ケシを作るよりも綿花を大量に作らせたいところです。
あれもない! これもない! ないないずくしなのに、資源をアメリカとイギリスから輸入している分際なのに、よくもまあ日本は、輸入元と戦争なんてやる気になったモノだと思いますよ。
禁輸されたから、逆ギレして居直り強盗ということなのか? そうなのか?
しかし、連想ゲームって足りてない部分を気付かせるのには、よかったかも知れない。一つ勉強になったわ。
それにしても、発想が完全に強盗のソレと同じですよね。
太平洋戦争が資源獲得のための戦争だったと、実感できた瞬間であります。
とほほ……




