9話 南雲機動部隊にて
3/15 「5話 昭和16年12月7日その3」を加筆修正しましたので、よろしければご覧ください。
今話は作者の悪癖第二弾、台本形式をやってしまった…
会話は誰が誰とか考えてはいけない。感じるんだw
ハワイ近海北方 太平洋上 南雲機動部隊
「長官、軍令部から緊急電です」
「この後に及んで緊急電だと? もう直ぐ発艦の時間なんだぞ」
「開戦中止にしては、腑に落ちませんな」
「ああ、手順が違う。中止の場合はラジオ・トウキョウの番組の最後だ」
「しかし本音を言えば、分かり難い方法だよなぁ。齟齬が出そうで怖いよ」
「それは確かに言えてる」
「連合艦隊からではなくて、軍令部からというのも少し変だな」
「確かに作戦遂行中なのだから、妙といえば妙ですね」
「どれどれ…… 中止ではなさそうだね。しかし、いまさら現場に横槍を入れてくるのか!」
「横槍で、ありますか?」
「ほれ、君らも確認してごらん」
「拝見します。なになに…… 第三次攻撃隊を編成して、真珠湾の港湾設備と燃料タンクを破壊すべし?」
「第三次攻撃隊は第一次攻撃隊が帰艦してから編成するのだから危険では?」
「真珠湾とオアフ島の迎撃態勢が整っている可能性があるな」
「しかし、港湾設備と燃料タンクを見逃すのはもったいない」
「横槍とはいえ、命令でもあるしな」
「であるならば、第二次攻撃隊の水平爆撃隊の一部を燃料タンク等の攻撃に回すというのはどうだ?」
「その方法で行くしかないか」
「しかし、燃料タンクの場所は分かるのか?」
「地上に設置してある偽装タンクなら確認済みだが、本物になると……」
「どうやら、偽装タンクではないらしいぞ。ほれ、そう書いてある」
「なるほど、地上の燃料タンクを破壊すべし、でありますか」
「まあ、そういうのなら、例えそれが偽物であったとしても一応破壊してみるべきだな」
「もしかしたら、本物かも知れないしな」
「それに、戦艦ばかり狙わずに巡洋艦や駆逐艦も攻撃しろだと?」
「大物狙いに釘を刺してきたのか……」
「25番では戦艦には殆んど効果がないから、ある意味正しい選択ではあるのだが……」
「しかし、いまさら目標の変更などすれば、攻撃隊の連中の混乱は必至だぞ」
「ふむ。対空砲火が激しければ、手薄な艦に目標を変更するのを認めるというのはどうだ?」
「現場で臨機応変に対応してもらうしかないか」
「そうですね。その辺りが落としどころでしょう」
「それよりも、空母は真珠湾に不在だと?」
「それでは、真珠湾攻撃の意味が半減するぞ!」
「まあまあ諸君、落ち着きたまえ。空母が不在なのであれば、巡洋艦や駆逐艦を対象にしても構わないのでは?」
「長官がそうおっしゃるのであれば」
「戦艦に25番は効きませんから、その方針で行きましょう」
「それに、敵の空母はハワイ西方にいるらしいよ」
「なるほど、確かにそう打電してきていますな」
「ハワイとミッドウェー島の間と、ハワイ近海西方にいる可能性が大なり?」
「うーん、これでは索敵範囲が広すぎて見つけられるかどうか怪しいですね」
「ハワイ近海を索敵するのは厳しいだろうな」
「攻撃後に索敵をするにしても、どれだけ敵の戦闘機を地上撃破できているのかで難易度が変わってきますね」
「内地に帰還する時の航路の選定も問題になってきますよ」
「予定が変更になるということか」
「外洋にいるらしい敵空母を攻撃するとしたならばだな」
「最低でも一隻は沈めておきたいところですね」
「そうなると、北側のミッドウェー方面にいるらしい空母になるな」
「ミッドウェー方面の敵空母を探すとしても、西方に300海里。それ以上は危険だ」
「駆逐艦の燃料も心許ないです」
「今のうちに、比叡と霧島から燃料を移せないか?」
「その手しかありませんか」
「それにしても、何故、軍令部が敵空母の居場所を知っているのか疑問ですね」
「それは確かに謎だな。しかし、ホノノルの諜報員からの知らせなのでは?」
「しかし、諜報員では空母の不在だけしか確認できんだろう?」
「ああ、空母の行き先までは分からないだろう」
「空母が不在かどうかは、第一次攻撃隊が確認して打電してくれるだろうさ」
「それもそうでしたね」
「空母が不在の場合の索敵攻撃は、真珠湾攻撃の後で考えよう」
「艦載機の損失状況との兼ね合いということですか?」
「うん、被害が少なければいいのだが……」
「長官! 短波ラジオで東条首相が演説しています!」
「はぁ? 東条がラジオで演説だと!? 艦橋に流せるか?」
「いま繋ぎ替えさせます」
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「首相もアメリカの非道を世界に訴えるだなんて、なかなか上手いこと考えましたね」
「でも、誰が脚本を書いたんだろ?」
「憲兵総理本人ではないことは確かだな」
「ははは、違いない」
「ですが、今までの政治家にはなかった斬新な切り口ではあります」
「東条は政治家ではなくて軍人だよ」
「それもどちらかというと事務屋だな」
「東条さんって軍務官僚だよね」
「官僚って答弁を代筆で書くの上手いんじゃないの?」
「筋書きを書くのは上手そうだけど、なにかが引っ掛かるな」
「情報戦ってヤツなんだろうな」
「プロパガンダか」
「案外、ドイツのゲッペかゲッベなんとかという宣伝相の直伝だったりして」
「小官はあの男は胡散臭く見えて苦手ですね」
「まあ、ナチス自体胡散臭い連中の集まりだからなぁ」
「しかし、その胡散臭い連中が同盟国なんですよ」
「なんでドイツとなんか手を組むのか、まったくもって理解できんわ」
「だいたい松岡の所為だな」
「そういえば、国際連盟の脱退も松岡がやらかしたんだな」
「アイツ政治センスなさすぎじゃね?」
「日本人の大部分は外交センスなんてないけどな」
「まあ、ずっと鎖国してきた民族だから、それは仕方ないと思うよ」
「しかし、この演説は宣戦布告の演説みたいですね……」
「どうやらそのようだな」
『……拠ってここに、大日本帝国はアメリカ合衆国及び大英帝国に宣戦を布告するものであります!』
「あ、本当に言いやがった……」
「宣戦布告が予定より早すぎるぞ!」
「それにラジオで宣戦布告するなんて聞いてませんよ」
「このままでは、奇襲じゃなくて強襲になります!」
「長官、発艦を急がせましょう!」
「うむ、攻撃隊に付ける戦闘機を一個中隊ほど増やしたほうが良さそうだな」
「それがよろしいでしょう。おそらくは、強襲になるはずですので」
「しかし、艦隊上空の守りが手薄になりはしませんかね?」
「情報が正しければ、敵の空母はハワイ西方だよ。ここはハワイ北方だから、それほど気にすることはないのでは?」
「確度の高い情報とは言えないので、鵜呑みにするのは危険ではありませんか?」
「どちらにせよ水偵以外は出払ってしまうのだから、こちらからは確認することはできんよ」
「それなら、二個小隊を増やすという折衷案はどうでしょうか?」
「そうだな…… 二個小隊にしておくか」
「それと、時間を短縮するためにも、二次攻撃隊は発艦次第全部で纏まらずに、順次送り込むのほうがよろしいのでは?」
「五月雨式か?」
「戦力の逐次投入になりはせんか?」
「一次攻撃隊によって現場は混乱しているはずですから、敵に立て直す時間を与えないほうが戦果を拡大できるかと愚考します」
「時間を与えてしまって敵が混乱から復帰するのは不味いぞ」
「確かに一時間後よりも三十分後のほうが、こちらの被害も少なくて済みそうだな」
「ふむ、そうだな…… では、それで行こう」
「了解しました!」
「しかし、緊急電とラジオ演説で泥縄になってしまいましたな」
「戦場では何が起こるのか分からんというのが、開戦劈頭に理解できて良かったじゃないか」
「臨機応変に対応せよということですね」
「戦場は常に流動的だよ。それを忘れたら、そのうち手痛い目に遭うだろうね」
「肝に銘じておきます」
※※※※※※
「長官! トラ・トラ・トラです! 奇襲成功です!」
「は? なんで奇襲に成功してんの? 宣戦布告から二時間近く経っているんだぞ?」
「アメリカは何をしていたのでしょうね?」
「真珠湾が攻撃されるはずはないと油断していたのか?」
「その可能性は否定できないな」
「なにはともあれ、奇襲に成功したのなら目出度いことじゃないか」
「そうでしたね。今回は敵の油断に助けられました」
「我々も奇襲を受けないように気を付けなければな」
「人の振り見て我が振り直せですね」
「我が国は貧乏だから、一度でも大敗すれば、建て直すのに時間が掛かるからなぁ」
「アメリカは時間が経てば、我が国の数倍の空母を送り出してくるであろう」
「だからこそ、山本長官が言う短期決戦ということだな」
「しかし、戦争を終わらせるにしても相手が参ったと言わなければ、終われないのが戦争だぞ?」
「ハワイを占領した程度では、ヤンキーは参ったと言わない気がするのだけど?」
「そうなると、西海岸まで行って占領することになるのか?」
「それ無理な注文だから」
「ああ、絶対に無理だよな……」
「そう考えると、アメリカと戦争するのを回避したほうが良かったのでは?」
「それは言わないお約束というヤツだよ」
イレギュラーが発生して一航艦の参謀たちが史実よりも柔軟な思考になったような?
金剛型から小型艦に燃料補給って出来たのかな?