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第2話:神界図書館を読破したら凄すぎた

「本当に読破してしまうなんて信じられません……前代未聞ですよ!」


「ありがとう。でも、ユリアの協力があったからできたことだよ」


「そんな……私は本を運んでいただけで……」


「運んでくれたことだけじゃない。ユリアが側にいてくれたから、俺は最後まで頑張ることが出来たんだ。一人なら諦めていたかもしれない」


 【速読】スキルを使って本を塊とみなす場合は、本が固まっている必要がある。この図書館の本棚は当然だが一段ごとに仕切りが設けられているので、本棚一つ読破するのにも十秒くらいの時間がかかってしまう。


 でも、この問題がなかったとしても一緒に目標のために頑張ってくれる人がいるおかげで励まされた。努力なんてしたことのない俺が、大きなことを成し遂げることができた。

 これは本心だ。


「そう言ってもらえると、私も頑張った甲斐がありますね」


 ユリアは照れ臭そうに笑った。


「……と、それはともかくもうそろそろ時間なんだよな?」


 俺がこの図書館にいられる時間は残り十分と言ったところだ。


「そうですね。……いつでも転生できるように準備は整っています」


「そうか。じゃあ、そろそろ行くよ。今日まで、本当にありがとう。異世界に行っても、ユリアのことは忘れないよ」


 俺は静かに別れを告げた。

 ユリアは無言で転生のための魔法陣を発動させる。俺の足元が煌めき、身体がどんどん薄くなっていく。


「あなたが異世界で活躍する様子を、ここからずっと見守っています。では、良き異世界ライフを!」


 そう言って、ユリアは俺の頬に唇を近づける。

 転生の直前、彼女の柔らかい口づけを感じた。


「えっと……?」


「三十日間頑張ったご褒美ですっ!」


 そこで意識が途切れた。


 ◇


「えっと……ここは?」


 気が付くと、俺は平原で横になっていた。

 草木が太陽の光に反射して、ファンタジーゲームのような幻想的な景色が見える。


 服装はトラックに跳ねられた時のジャージのまま。動きやすくて良いのだが、なんだか異世界感がないなぁと思う。


 立ち上がり、辺りの様子を確認する。

 神界図書館で覚えた【索敵(サーチ)】を使って、周りに危険がないかを調べた。


 どうやら、近くに危険はないらしい。少し離れた場所に魔物がいるみたいだが、ここまで襲ってくることはないだろう。

 正確には害が無さそうな低級の魔物――例えばスライム――は近くにも潜んでいるのだが、無視してよさそうだ。


 安全な場所で転生させてくれたのは、ユリアのささやかな計らいなのかもしれない。


 遠くに村のような大きな壁で囲まれた人工物が見えた。サバイバルの知識もあるので野宿するという手もあるのだが、できれば腰が痛くなりそうなので宿に泊まりたい。

 俺は遠くの建物に向かって歩き始めた。


 それから十分ほど歩みを進めたところだった。

 常時【索敵】を使って辺りを警戒しながら進んでいたのだが、少し様子がおかしいことに気が付いた。


「……なんか、魔物がこっちに向かってる気がする」


 さっきよりも捉えた魔物の距離が縮んでいた。

 方向を変えながら進んでも、なぜかこの魔物は俺に近づいてきている。感覚からすると、スライムとは比べ物にならないくらい強い魔物だ。何かの間違いならいいんだがな。


 ――それから約五分。

 俺の目の前に大きなドラゴンが現れた。翼をワサワサと揺らし、口から炎を吐いている。漫画やラノベで見たイメージ通りではあるが、実際に目にするとその迫力はとてつもない。


「マジかよ……異世界に来てすぐにこれとか不運すぎね?」


 ドラゴンが着地し、ドオオオオオオンッと地面を揺らす。

 見逃しては……くれなさそうだな。


 ドラゴンが俺に炎を吐く。


「うおっとっ!」


 俺は左に逸れて、ブレスを回避する。

 ……あれ? やっぱり身体が軽いな。それに、力もみなぎっているような。

 どちらにせよ、こんなところで死ぬわけにはいかない。


 俺は神界図書館で覚えた魔法【空中浮遊(レヴィテイション)】を使って空を飛び、ドラゴンを上から見下ろす。


「よし」


 それから、重力に任せて落下を回避した。

 ドラゴンの背中にみるみるうちに接近する。衝突の直前で再度【空中浮遊】を使って、軽やかに着地する。さすがにあの高さから落ちたら骨が折れるかもしれないからだ。


「よし、とりあえずボコるか」


 俺はドラゴンの背中に軽めのパンチを一発放った。

 ドオオオオオオンッと地響きがして、ドラゴンがウオオオオォォォォンっと喘ぐ。


 ……あれ? もしかして効いてる?

 ドラゴンはジタバタと暴れて、俺を振り落とそうとする。

 どうにか振り落とされないように姿勢を維持して、今度は本気で一発パンチを浴びせる。


 ドゴゴゴゴオオオオォォォォン!


 さっきよりも大きな地響きが鳴ると同時に、ドラゴンは脱力した。巨体が崩れる。

 慌てて飛び降りて、様子を確認する。


「……死んでる」


 スライムとは比較にならないほど強いドラゴンは俺の本気のパンチで倒せたってことなのか……?

 そういえば本を読むたびにお腹が温かくなって、強くなったような気がしていたのだが……もしかして俺って本当にめちゃくちゃ強くなってるんじゃね?


 ドラゴンを素手で倒せるなんて、規格外なんじゃね?


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