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生活小屋

先の戦がどれほどのものだったかわからないが、そのことに関して人間を恨んでいる族しかいないのだろう。もしかして、シュウコは俺の護衛なのか。しかし、武闘派でない彼に護衛ができるのだろうか。


「それはどういう意味ですか。」

「まあ、そうですね。この問題ばかりは時間が解決してくれるのを待つほかありません。我々があなたの存在を認めたとしても時間はかかります。」

「いや、答えになっていないように思いますが。私がここにいることで…。」

「さて、場所に着いたようです。それにあなたにできることは何もありません。あなたのせいではありませんが、事態は割と深刻です。」


目の前に広がっていたのは廃屋だった。かなり前に使用していたように見える。造りは木造でしっかりとした柱が立っており、近くで見ると樹液が出ており、まだ木が生きているようだ。触ってみると柔らかい感触な上、色が灰色である。家としては小さく小屋と言ったほうがいいかもしれない。部屋は8畳ぐらいだろうか。手に埃もつかないことから状態をよく保っていたのだろうし、手入れもこまめにしていたようだ。


「少し小さいですが、以前より人が住んでいたところです。」

「人が住んでいたのですか。人間はあなた方と戦争をしたと聞きましたが。」

「ええ、彼は動物学者でしたから私たちとも少し交流がありました。動物時代と今の時代両方で。彼は長年、私たちの行動を間近で見ていたため、この摩訶不思議な現象に疑問を覚えて研究していました。結局は人間社会から隔離されたみたいでここに逃げてきたとも取れますが。貴重な情報も持っていましたので、お互いよい関係を築くことができました。亡くなったのは残念ですが。」

「彼1人だけですか。他の人たちの交流は。」

「あなたは気になるでしょうね。しかし、交流はその人1人です。彼のように理解のある方はいませんでしょうし、しかもこの姿を見て普通に話す人がいるとは思えません。」


 だとしたら、彼に聞いたら、この動物たちの歴史というか誕生の経緯が分かったかもしれないが、それは当てが外れたな。この状態では何もわからない。


 後ろの墓地が彼の墓か。今の世界の動物学者の立ち位置がわからないため判断ができない。ただ、人間の世界で恵まれた環境ではなかったのだろう。もちろん、単純に動物の生態が知りたいと森に潜る研究者はいるが、ずっと森にいる研究者はそういるものではない。彼の研究資料などは残っていないのか。文字が読めるとも限らないのに資料を探しても意味がないのかもしれない。


「族長や王の話であなたはここで住んでいただくのが一番だろうという結論に至りました。本来なら、我々の住居でもよいですが、どこの種族の住居が合うのか、また、うまく生活できるのが不明ですので、いったんこちらに住んでいただきます。中に王がいますので話をいたしましょう。」

 

 そもそも王がこんなところにいること自体に驚く。普通の王はここまでくるわけがない。これでは宰相も王の監視が大変だろうな。俺だったらやりたくはない。


 シュウコは扉を開いた。扉の取手はしっかりとしていて回すようにして扉を開く。ここら辺は異世界でも変わらない部分らしい。引き戸には慣れていないから安心した。

 そこには優雅に紅茶を飲むウァルガの姿があった。ちゃっかりシェイラも座っている。


「よう。2人ともご苦労。まあまあ、座りなよ。」


 シュウコが眉を寄せて、ウァルガに言う。


「王の家ではありませんよ。ここはあくまで彼の家でした。」

「不在なのだから一旦は我々が預かるのが普通だろ。ただ、これからは迷い人が管理するようになるのだが。この部屋の権利を渡す前にその前に迷い人に教えておかねばいけないことが多々ある。」


 シュウコの言葉には一切耳を貸そうとしないようだ。シュウコはやはり大変だな。ウァルガは俺のほうを見て、椅子を引き、隣に座るように合図をする。俺は彼の隣に座った。対面にはシュウコが座っているウァルガの対面にはシェイラが行儀よく紅茶を飲んでいる。シェイラはこの場に関係のないように思えるが…。いや、何か知っているのかもしれない。


「さて、ここからも私が話しましょう。まずは食料についてです。当たり前だと思いますが、我々も食べなければ生活ができません。人間に近くなったとはいえ、食の好みに変わりないのです。」


 食の好みは動物の状態を引き継ぐのか。となれば、肉食動物は大変だろうな。草食動物はまだしも。しかし、この森林で生きるためにはどのくらいの量がいるのか。


「お気づきになられましたか。植物を食べる草食動物は問題ありません。植物を育てて食べればいいのですから。しかし、問題は肉を食べる肉食動物、および雑食動物です。雑食動物も基本は植物を食べていますが、肉も食べなければ健康を害することになります。そこで、森の外、要するに外界へ出なくてはいけません。いずれは外界へ出る役目をあなたにはしていただきます。」


 外界か。どのような世界だろうか。人間がいることは間違いないが何か危険なにおいがする。それも当然か。戦争をしていた相手なのだから。どちらにせよ、俺にしかできない役割であるな。それよりもそんなことができるのだろうか。ここのことをどのように説明するのか。


「君が考えていることは分かるが、簡単なものではないぞ。要するに人間がいるところの森へ行って食料を調達するのさ。近くの森はしゃべることができる動物ばかりだから食べることはできない。かといって、植物ばかりも食えないやつもいる。そこまで遠くはないが狩猟を行う。もちろん、人間にはばれないように。」


 そうか。密漁で補っているのか。しかし、一部からしか盗ることはできないだろうな。その数では足りないはず。今は何とかできても、相手に対策を練られたら後手に回る。

密漁と言っても斥候隊隊長がどの程度かわからないが、毎回犠牲は出るのだろうか。いかに人間とは言え、気配に敏感なものもいる。ましてここに居る動物はまともではない動物である。見つからないことが難しい。俺1人で外界へ出るなら大丈夫かもしれないが。しかし、ここの動物たちが俺を手放すことはないと思われる。


「人間は肉に固執することはないが、野菜だけでは生活ができない。人間は雑食だから。」

「そうか、それはよくない情報だな。食い扶持が増えてしまった。ここにいる限りは価値を示してもらわないといけないな。」


 すぐに示せと言っても外交しか今はないだろう。相手に外交をする気があればだが。俺だったら交流も持たないかもしれない。もしくは協力者を得るか。どちらにせよ、簡単にはいかないだろう。


「難しいように感じるかもしれないが、実際には難しくはない。人間の国では俺たちの存在は表向きには伏せられている。以前、聞いたところでは情報統制をしているらしい。」


いったい、どういうことだろうか。国ぐるみで隠ぺいするとなれば、彼らが言語を習得したのは人間のせいだということになる。しかし、どうして彼らが動物たちと争うことになるのだろうか。この動物たちは何かをされてこの状態になったということか。


「それは妙ですね。本当なら情報統制をせずとも国主導で滅ぼしてしまうのが早いと思いますが。」

「確かにその通りだ。おそらく、国主導で実験をしていたのだと思われる。その過程で俺たちが生まれたということだ。それを考えれば私たちが滅ぼされなかったのも説明がつく。その上、あの人間爺さんが研究をしていたのも合わせて説明がつく。半分趣味だったような気もするが。ただ、我々としてもどうして戦争に発展するまでのことになったのかということだ。こちらも混乱していて正直、戦争を仕掛ける余裕はなかったのだ。」

「実験ということであれば、あなたがたを作ったのは人間であるということになりますが、真相もわかりませんし、目的すらわからない。人間が考えるならば、あなた方を利用しようと考えたはずです。そうでなければ意味がない。無駄な戦争を増やしてしまうだけだ。」

「迷い人の言うとおりだ。真相はわからぬ。どうして戦争が起きたかもわからぬ。とりあえず、そちらの問題はおいて、当面の問題をどうにかしないといけないのでな。任務は食料の調達だ。まず、迷い人には斥候隊隊長のシェイラとともに訓練を受けてもらう。そこから適性をみて現地に行くかどうかも含めて我々が決断する。本当ならば人間のところへ行き、情報収集と食料の調達を行ってほしいところだが、我々が君を迷い人とわかるように人間にもわかってしまう。そうなれば、君の身に危険が及ぶ可能性がある。」


「危険とはどのようなものがあるのですか。」

「それは後々にわかるだろう。今は我々にも迷い人の能力が分からぬのでな。」

「能力…。」

「迷い人にはなにか1つ以上の能力がついていると聞く。だからこそ、人間の国は有能な迷い人を囲もうとする。ただ、有能でない迷い人は実験に使用される。まあ、そこから類推すればわかると思うが。」

「そうだな。人間がすることは人間である僕が分かっている。」


 人間の国に行っても、有能な能力があるとわかってからじゃないと実験台になるだけだな。おそらくは種馬か、拷問や別のことを考えているだろう。人間の国行きはなしだな。

 訓練…。連携の練習だろうか。しかし、短期間でできることは限られている。種族や部族の名前を覚えるだけで終わりそうな気がする。シェイラが俺の顔を見て言う。


「私たちには共通の合図があります。それを覚えてもらう必要があるのとあとは身体的な訓練。あとは連携となります。あなたは人間ですからできないこともあるでしょうけど、その代わりあなたにしかできないこともあります。そこの確認も合わせて致します。」


 シェイラは先ほど変わって事務的な会話をしている。これが普段の彼女なのだろうか。いや仕事の時だけはこのような態度なのだろう。しかし、連携や合図と言っても彼らが思っているほど単純ではないはず。昔のモールス信号みたいに特有の合図や伝達方法を使うことがある。


「はい。かしこまりました。」


 その様子にウァルガは口を挟む。


「まずはここの生活に慣れてもらわなければならない。人間は食物も接種できるから当面は大丈夫だろう。シェイラ、植物の調達の仕方、各部族の縄張りをしっかりと教えてあげなさい。私からも各部族へ話を通してはいるが、全員の耳に入るまでは時間がかかる。特に君の隊員にはよく話をしておくように。」

「かしこまりました。」


 ウァルガは本当にわかっているのだろうか。ここの生活に慣れて、任務を行うのであれば最低3か月はかかるだろう。それを見越してあえて訓練をさせるつもりなのか。それとも、無理を承知の上で行うつもりなのか。



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