新たな仲間
シェイラはピンナと共にコパンの少し前のビエットに来ていた。ビエットはリゾート地として有名であり、各国から富裕層が来ている。ピンナもギルドの中では高給取りであるため、度々この地を訪れている。特にビエットではピンナのような有名な傭兵は考えされる。治安の悪化を防ぐには来ているというのを流布することで治安を良くしているのだ。
この街の領主は利を優先しており、国家よりではない。しかし、税金を多く収めているため国としても強い発言をできないでいる。また、各国の要人が来ることもあり、国が大規模な政策をビエットに強いることもない。同様に反乱軍もこの地を掌握できないのも事実である。
ピンナが情報収集するためにこの地を訪れるのは割と都合が良い。しかし、ピンナがいることもばれてしまうため、迅速に動くことが必要であった。
「シェイラはホテルで休んでいて。いざという時に動けないと困るから。」
「しかし、アオイを救うには私も手伝ったほうが早いと思うけど。」
「ここのビエットは差別が強い。特に富裕層は自分の地位が揺らぐ場合、本気で潰しにかかってくるから気をつけないといけないしね。シェイラは獣人であるからばれてはいけないの。私には知り合いも多いから情報収集してくる。」
シェイラはおとなしくピンナの言うことに従った。ピンナがアオイを助けたいだけであってシェイラは特に助けたいわけではない。しかし、カツナリの作戦に支障が出ているためアオイを助ける任務に参加しただけである。
シェイラは獣人という言葉に何か引っかかっていたが、ピンナがそこまで驚いていないところを見ると珍しい人種でもないのだろうか。シェイラは気持ちよさそうなベッドに横になる。獣であるとは言え、半分は人間のシェイラはベッドでも寝ることができる。横になってほどなくして眠るのだった。
気配を感じてシェイラは体を起こす。目をこすり、体を起こした。シュウコに鍛えられて起きたときの頭の重さを感じることはない。剣を抜きながら上体を前傾姿勢へと変えた。ドアが開くとピンナともう1人の男が入ってくる。ピンナが一緒にいるため、危険ではないと判断し剣を収める。男はシェイラの行動に驚いているようだ。
「驚いた。ピンナには聴いていたが、ここまでの人だとは思わなかった。だいぶ前から俺たちの存在に気が付いていたのか。」
「そうよ。将来は私を軽く超えた存在になる。特に斥候や間諜には良いでしょうね。今回の作戦に賛同したシェイラよ。シェイラ、この方はマイルズの元部下でエマーソンという方。今は千騎将の地位にいるわ。」
「なんとなく分かった。マイルズも助けるつもりだからちょうどいい。でも、先にアオイを助けるのが先。カツナリからもそのように言われている。」
マイルズの部下も頷いた。マイルズは首都の刑務所にいると話を聞いているから、そう簡単に助け出すことができるわけでもないのだろう。男は手を出して握手を求める。少し困惑しながらもシェイラは握手をした。シェイラは足と背中に体毛が出ているため隠していれば目立つことはない。しかし、顔は人間と異なっているためフードを取ることはできないが。
「こちらも承知している。カツナリという人物に興味があるが、今は会えないのは聴いている。頭がいい男と聞いているが。」
「私たちには必要な人物。彼が居なければどうなっていたかわからない。」
「なるほど。上層部が噂していた動物の国の人間か。」
シェイラはそれを聞いて身を構えた。カツナリの予定では情報が広まっていないはずと言っていたような気がする。しかし、目の前の男は遠征の話も聞いており、カツナリのことも知っているようだ。この男は危険なのだろうか。
「シェイラ、そこまで警戒をしないで。そもそも、大きな戦で死者も沢山出たのでしょう。庶民に伝わることはなくても、軍の人間や軍の近親者には伝えることもあるから、どうしても情報を規制することができないのよ。」
ピンナの言ったことは正しかった。数百人程度ならまだごまかすことができる。しかし、何万人という規模であれば隠すことは実質不可能である。戦争が起きているのは明白であるのに。知らぬ存ぜぬでは国民の不満を買ってしまう。しかも、反乱軍という組織が存在している中では特に国家にとってまずいことになる。
反乱軍が大きくなればなるほど財政はひっ迫し国民の不満も不安も大きくなるという悪循環である。
「そうね。悪かった。以後、気を付ける。」
「むしろ警戒するも頷ける。驚かせてすまなかった。それよりも今後の話を進めないか。時間がない中で作戦を進める必要がある。」
「分かっているわ。」
ピンナの話では内部で意見が割れており、上層部ではアオイの処刑は賛成が多いため可決されそうであることが分かっている。その中でも一番の発言権を持っている反乱軍の総帥ノリートが彼の処刑を進めている。元々、折り合いが良くなかったのも原因の1つである。しかし、その頃は兵数も多くなかったため、アオイの武力を利用するために反乱軍に引き入れたという話だ。
アオイは順調に活躍し、また、それに合わせてカリスマ性や統率力も多き伸びたため、ノリートの地位を危ぶませている。シェイラはこの話を聞いてうんざりしていたが、ピンナとエマーソンはそこまで気にしていない。人間ではこの手の話は普通にあるため、大したことない。人間の欲と動物の欲は少し異なっているのだ。
「戦力的には50名が限度。ギルドの傭兵も10人ほど使えるけど、これはマイルズの救出に使いたいと思っているわ。構成はマイルズの部下が20名。反乱軍が30名。それに私たちを加えると53名で救出を行う。」
「少し少なくないと思う。」
「シェイラが言っていることは正しいでもこれが限界なの。」
救出作戦といえ反乱軍には多くの仲間が存在するため、多くの人間が存在を認識する。その場合には敵がアオイを保護という名の警備をするため、直接の戦闘は避けられない。相手の人間がどれほどの兵士を用意するかだが、その中には手練れも多く存在するだろう。
今の53人という人数では少ない可能性があるとシェイラは思っていた。だが、本当に信頼できるという人数では53人というのは間違っていないと思う。信頼を置ける人間は少なく、命をともに捨ててくれるような人間はいないからだ。
「情報を漏らすことなく運用できる人間が50人ということ。」
「その通りよ。これ以上、増やせるけど裏切る可能性もある。」
「シェイラさんが言っていることも最もだが、私のほうでもこれ以上は動員できない。」
やはりこの人数が限界ということだ。
「とりあえず、コパンに入る。でも、他の街同様に検問は存在する。」
「ということは別ルートで侵入するということか。」
「そういうことになる。」
どうやら、検問はコパンでも行われているらしい。検問を無事に突破できるかどうかを判断する基準がない。反乱軍として認識されているがアオイ側の人間であると知られた場合には捕まる可能性がある。少なくともシェイラとエマーソンが捕まることはない。しかし、コパンに入る理由がないため監視をつけられるかもしれない。そこまで警戒されていると今回の作戦が失敗しかねない。
「地下道から入るけど、この街にある地下道を通って郊外に出る。その後、別の地下道からコパンに入る。」
「そこまでする必要があるのか。相手が俺たちのことを知らないのでは。」
「確かにその通りよ。でも、できる限りのことをやってから相手の隙をつきたい。現状、私には監視がいる。だから、用心に用心を重ねないと失敗する。」
ピンナに監視が付いているのは何となくわかる。ギルドの重要人物であり、反乱軍にも名を連ねている彼女がビエットに来ているのはギルドの仕事でなければアオイの救出の可能性が疑われる。
「分かった。じゃあ、そこまではその作戦で。でも、そこから先はどうするの。その牢屋かな、その場所さえもわからなかったら助けようがない。」
「それは大丈夫。コパンに侵入してから話す。アオイの位置はおおよそ把握できている。ただ、2人とも覚悟はしてほしい。相手もいずれは救出に来ることを前提に動いている。そうなればアオイの護衛にはかなりの手練れが配置している。こちらも無傷では帰れないと思う。」
「それは分かっている。しかし、マイルズさんを救出するということに変わりはないのだな。成功すればという話だが。」
「それは大丈夫。アオイは進んで参加するでしょう。」
「私も参加する。」
「こんなこと言うつもりはなかったが、やはり確約が欲しいものでな。すまない。」
「大丈夫よ。気持ちは分かる。でも、信じてほしい。」
「ああ、信じるよ。じゃあ、行った方がいいか。」
実際には予定に含まれていなかったけど、マイルズも救出できれば随分と任務の遂行が楽になるはず。カツナリもそれを望んでいるだろう。
「ええ、今から行くわよ。みんなを集めた後、この店に来て。時間は昼間の12時。パーティを開くことになっているから。」
その店は豪華なレストランで有名である。収容人数は2千人。たかだが53人が消えてもわからないということだ。2人は出ていき、シェイラは深呼吸をしながらその時間がくるのを待った。




