想定外
俺たちはリーブルの街を訪れていた。実際に街に入っているのは俺とシェイラ。クライドと5人の部下は街の外で待機している。俺たちはとりあえず、ギルドに顔を出していた。もちろん、任務を受けるわけではなく、聞きたいことがあるためだ。
「1か月ぶりかしら。」
「少し聞きたいことがありまして。2人で農業と酪農をしようと思っています。」
「えらく違う方向に話が進んでいるわね。それで。」
「ギルドではそういったものを仲介してくれますか。」
「ええ、もちろん。簡単で仲介料が取れるからね。少し高いけど、質がいいものが手に入るわ。」
「今までの貯めたお金の3分の2ぐらいを使いたいのですが。」
「…ジル金貨100枚を使うの。相当な量よ。2人にしては多すぎるけど。」
「種なども含めて酪農もですから。」
「こちらとしても手配はするけど時間がかかるかもしれないわね。」
「そういえばモニクの方の動物が非常に良い品質と聞いていたのですが。」
「よく聞いていたわね。それも手配できるけど、一週間は見てくれないといけないわ。あと、量的には3分の2ぐらいになるわよ。それでもいいの。」
「大丈夫です。じゃあ、手配しておくわ。」
「一週間後にまた来ますので。そして依頼は入っていますか。今のうちに受けておきます。」
「じゃあ、渡しておくわ。」
カツナリはその紙の多さに驚いた。全部で100枚以上ありそうだ。
「こんなに。」
「今までが異常だったのよ。薬草ってあんまり手に入らないものだったから。医療関係は特に欲しがっている。乾燥したものでも一定の効果があるから買いだめをするみたい。」
「…わかりました。」
俺たちは以前の宿に向かっていた。しかし、心なしか少し雰囲気が暗いと思っている。それは兵隊たちにあった。足がない兵隊や腕がない兵隊が思っている以上に多いのだ。俺たちがいたときにはそんなことはなかったと思うが。
その上、路地には多くの子供たちがいる。彼らは戦争孤児の可能性が高い。それほどまでに大きな戦争があったとは思えないが。
「一部がない人が多いね。」
「ああ、いくら何でも多すぎる。今まではそんなことはなかった。それに戦争も起きてないからおかしな様子ではある。」
俺たちはそんな様子を見ながら宿に行った。
「久しぶりだな。カツナリ。」
「親父さんも元気そうで。」
「働いていくか。」
「いや、今回は1週間から2週間ぐらいだ。それにこの量の依頼があるからさすがに2人でいかないと終わらないよ。」
「…、そうか。残念だ。俺も少し休めるかと思ったのに。」
「すみません。しかし、ここ最近何かありましたか。戦争孤児や四肢が欠損した人をよく見るのですが。」
「いや、戦争ではないのだが、反乱軍が蜂起してな。コパンが陥落したんだ。」
コパンは第2の首都だったはず。それが落とされたのであれば随分と大きな出来事だ。それでこのリーブルの街に人が流れたのか。しかし、コパンは結構離れた位置にあると聞いていたが。
「陥落したのが第2の首都であったのは意外だったが、思った以上に反乱軍も慎重で街に危害を加えることなく軍人のみを徹底的に叩いたらしい。さすがにその家族はそこでは生活ができないからな。反乱軍も全てを掌握しているわけではないから、末路は見えている。それでこちらにもそういった人が来ているということだ。」
「しかし、そう簡単に仕事はないだろう。」
「だからこうなっているのさ。コネがあれば違うのだが、軍人のほとんどはコネを持たない。だから、そういったところに入り自殺した人や奴隷になった人も多くいる。間接的な戦争被害者だな。」
そうか。この世界でもこういったことは起こりうるのだな。すこし残念だが、どこまでも人間であるということだろう。しかし、これほどまでに大きな戦であるのにリーブルの中に軍人が少ないのが奇妙だ。
「シェイラはこの街を探ってくれ。マイルズの動向も含めてだ。」
「分かった。」
シェイラはすぐに姿を消した。先にギルドへ行っている。
「とりあえず1週間、ここに泊ります。準備をお願いいたします。」
「分かった。お前にもいろいろあるだろうが、気をつけてな。」
俺は街へ出ていった。
深呼吸をして、俺は周りを見渡した。今まで見えなかった景色が見えてくる。角にいる兵士、普通の人に見えていた人も足運びから軍人のように見える。傭兵もちらほらいるようだ。決して手を抜いているわけではない。しかし、兵士の数が思ったより少ないのは変わらない。俺はギルドに足を運んだ。
シェイラは受付の人と話をしている。指名依頼の件もあるだろうがその話だけではないだろう。
「久しぶりね。」
以前の受付のお姉さんが俺に話かけた。先程、訪れたと話が伝わっているのだろう。
「久しぶりです。指名依頼はたまっていますか。」
「もちろん、そのことは今シェイラさんに話をしているわ。指名よりも戦争が近いのよ。今は戦争に対する指名もかかっているわ。あなたたち二人なら裏道を探すことは長けていそうだから。」
「はい、とりあえず指名依頼の内容を聞いてから判断します。」
俺はシェイラのほうに向かった。シェイラは少し気圧されているようだ。
「ギルドとしては戦争に参加していただきたく思います。あなた方が居れば撤退の際に適切な判断を下すことができるでしょう。それはギルドとしてもいいことであると思っています。良い人材を失うわけにはいけませんから。」
少し意味不明なことを言っているが、それだけ俺たちに戦争への参加を促している。しかし、俺たちが戦争に出るわけにはいかない。それこそマイルズと向き合うこともあるかもしれない。もし、マイルズと戦うのであれば俺たちが逃げるかマイルズが退却をするかどうかになるが、お互いにとって不利になってしまう。
「少し待ってくれ。俺たちはここまで来たが久々に来ている。この戦争を受けるかどうかはもう少し考えたい。俺たちは傭兵ではないから。」
「…わかりました。では、指名依頼の薬草の採取を受けますか。」
「ああ、それで頼む。」
俺たちはギルドを出ていったが、ギルドの幾人かは俺たちを見ているような気がした。
「しつこかった。」
「そうか。それだけ必死なのだろうな。どちらの陣営に誘われた。」
「もちろん、国の方だよ。でも、本当に危険みたいだよ。陣営はどうかわからないけど。」
国のほうが危険ということはあまりあり得ないと思っていたが、想定以上に反乱軍の取り込みがうまくいっていたのか。それとも国がまとまっていないのか。マイルズはどこにいるのだろうか。
「知っているか、将軍のマイルズが負傷したらしいぞ。」
「聞いた…。内部の犯行とも聞いているが本当なのか。」
俺は少し話を聞いていたが、それ以上のことは聞こえなかった。
「カツナリ。」
「分かっている。どちらにしてもマイルズに会う必要がある。作戦として情報が重きを占めるからな。マイルズと生見の情報を得られなければ1つの都市を落とすのは難しい。俺たちは占領したいだけで虐殺したいわけではないからな。戦うこと自体を避けたいのだから。」
しかし、そう簡単に物事は運ばない。俺は指名依頼を見ていた。名前は知らない人である。とりあえず、任務を受け続けてマイルズもしくは生見を待つことにしよう。俺とシェイラは任務へ行った。
それから一週間は何もなかったが、指名依頼は半分捌けていた。
「随分とお金がたまったわね。」
「ああ、思ったよりも高額な依頼が多かったからな。戦争では必要なものも多いから。しかし、マイルズも生見も来ないな。」
俺はすでに鳥を出している。その鳥ももう1週間だ。優秀な鳥を借りているのだから時間がかかりすぎているように思う。しかし、この国以外に知らない俺たちは待つしかない。
「親父さん、もう1週間頼んでよいか。」
「もちろんだ。お客もそこまで混んでいないからな。しかし、お前は誰を待っているんだ。」
「ああ、昔の知り合いなんだが、いなくてな。」
「そうか。死んでなければいいが。」
「そうだな。ありがとう。心配してくれて。」
俺は少し話をしながら和んだ。しかし、この街にも何か緊張感が出てきているような気がしているが、気のせいだろうか。
「カツナリ。ギルドで噂になっている。」
「何が。」
どうやらギルドで噂になっているのは正規軍の1万人がこの街の近くに駐留するらしい。合わせて反乱軍がリーブルに来ているとも噂がたっている。そもそも軍が動くのであれば簡単にわかるはずだ。よほどの情報規制をしている上に住民に見られてはいけない。日中は隠れての行動。さすがに無理だろう。
リーブル郊外で戦いが起こるのであれば俺たちも無関係ではない。俺たちの作戦にも支障が出る。俺は少し考えていた。この戦いに参加することを。
いや、あり得ないな。死ぬ可能性が高い上に俺たちの国には全く関係ない。しかし、乱入するのはありである。それはあくまでもマイルズを助けるため。もしくは生見を助ける。
考えてはみたもののそこまでの良いところはないように思える。しかも、どちらかが参加、お互いが参加していなければならず確率も低い。マイルズの怪我の状況によっては戦場に参加できるかもわからない。
「どちらにしてもマイルズか生見に会う必要があるな。」
「うん。でも情報がない。」
「とりあえず、根気よく探してみよう。そして依頼を受けていればどちらかから反応があるはずだ。この依頼だって生見が出している物だからな。」
俺は依頼の紙を出した。依頼書には薬草の名前が書いていたが、気になる点があった。この依頼には何かあるのだろうと郊外の森へ向かうことにした。
俺とシェイラは森を歩いていた。街から出て一時間。それほど大きくない森であるが、魔物もいるとあって訪れる人間は少ない。動物の姿は一向に見えない。この様子から見ると何かがいるのだがほとんどの場合が人間である。
「シェイラ、どうだ。」
「少し匂いがする。でも何かで匂いを消している。香水か何かかな。少し柑橘系の匂いも残っている。」
どう考えても人間だが、相手は何を狙っているのだろうか。シェイラの特性を知っていることから俺たちがあったことのある人物で間違いない。その人たちは俺たちと敵対をしているわけではない。では、この対応はどうなっているのだろうか。
「考えられるのは腕試しか。しかし、この時期に腕試しをする余裕はないと思っていたが。」
「敵対するなら倒すしかないけど、どうするの。」
「それはもちろん対話から始めるさ。しかし、相手が敵対するのであれば仕方ない。今回は逃げないといけないだろうが。」
「どうして。」
「俺はそんなに強くないのを知っているだろう。シェイラ1人なら何とか逃げることができるだろうが、俺がいるとそうもいかないな。」
俺は徐々に周りを見ていた。2人で逃げるために退路を考える必要がある。
「どうやら情報は本当だな。」
「誰だ。」
「生見の使者と言ったらわかるか。」
どうして本人が来ない。生見はそういった印象から遠いと思っていたが、緊急事態だろうか。いや、それにしては大げさすぎるような気がする。
「考えているところ悪いが、俺たちも時間があるわけじゃない。伝えることは2つ。」
「2つ。」
「そうだ。1つ目。決行は予定通り行え。2つ目はマイルズと生見は囚われている。当てにするな。」
「それはどういう。」
「本当は話してはいけないのだが、生見は仲間だからな。お前もそうだろう。反乱軍にもいろいろある。利権が絡む。役職も絡む。この反乱軍の中で生見のカリスマ性がしっかりと認識されたが上の人間は彼が怖くなった。それだけだ。」
「しかし、そんな状況で。」
「分かっていないのさ。上の人間は。まあ、お前がどうするかは知らないが、伝えはしたぞ。」
俺はずっとそこに立っていた。今後の展開が大きく変わってくる。そんな気がしていた。それはシェイラも同じように思っているだろう。作戦も決行したとしても成功するかどうかわからない。生見とマイルズの応援があるから勝てるのだと思ってもいた。
「カツナリ。ここであなたは旗を上げるべき。」
「シェイラ、急に何を言っている。俺はお前たちを裏切ることはしないぞ。」
「そういう意味ではない。あなたが私たちの国である程度の地位を手に入れるために必要なこと。上層部はあなたを認めつつあるけど、他の動物たちはそこまで信用してない。あくまで上層部が言うから従っているだけ。それを変えるべき。あなたが居れば変わるということを印象づける。」
シェイラにしては変わったことを考える。本当にシェイラかと思ってしまった。シェイラは地位とかに興味はない。自分がどう思うか、どう動いたらいいか、それを考えるのだ。本能で動いているが間違いは少ない。それは経験を大事にしているからである。
シェイラは俺の方を見ていた。
「提案としては魅力的だが、そう簡単にはいかないぞ。」
「それは私たちも協力するわ。」
「まあ、それはうれしいが。」
とりあえず任務を完了してからだ。
「その話はあとにしよう。先に任務を行ってからだ。」
「分かった。薬草の場所はわかっているから早く行こう。」
少しシェイラの機嫌がよくないな。しかし、俺はよく考えて行動するようにしている。特に大きな案件、もしくは人命がかかる場面では。俺は少し重たい頭を抱えながらもシェイラについていった。
任務を終えた俺たちは宿に戻り今後の話をした。まず、クライドに自分たちの任務の延期を言うこと。最悪の展開として街を落とすのは自分たちになること。今決まっているのはその2つ。俺が心配しているのは2人の安否だ。街を落とすにしても生見とマイルズの協力が必須である。動物たちを引き連れるのは問題ないが、街がどんな状態かわかる手段がない。密偵が居ればいいが、シェイラには斥候をやってもらう方がいい。
クライドに話をするのはシェイラに任せて、俺は反乱軍と正規軍の話を聞くことにした。どのような展開になるとしても大きく計画を変えることはない。俺とシェイラは宿を出た。
「助かったわ。依頼任務が溜まっていたら、他の支部に白い目で見られるから。」
「そうなのですか。そこまで別の支部の人がいるようには見えませんが。」
「確かに来る回数は少ないわね。でも、ギルドの人は定期的に来ているのよ。ギルドにも人数の配置もあるし、それ以上に冒険者の配置もあるから。」
「冒険者の配置。」
どうやらギルドにも最低限の配置があるらしい。任務の達成率や溜まり具合、その地域の任務平均数など様々な情報を加味して決まるらしい。本当に移動するのはごくわずからしいが。ギルドはそもそも地域密着型であるから、移動するまでのギルドの意思を反映することは少ないのだろう。あまり言うと冒険者も嫌になってしまうだろうし。
「しかし、今回の戦争は大掛かりですね。ここまでギルドが介入するとは思っていませんでした。」
「それはギルドも同じよ。上の意向だからね。私たちは国の、いや、上官には逆らないから。」
「そうですか。何か情報は入っていませんか。戦争に参加しようにも何を元に判断すればおいいかわからないので。」
「それもそうか。でも、ギルドに入っているのは国の情報だからね。」
まず、コパンが落とされたこと。そして、反乱軍に加担している街が4つあること。大きな戦争で反乱軍が勝ったが、反乱軍の消耗も大きく一旦コパンを占拠していること。その後の進路でリーブルを落とそうとするモニク軍が向かっており、政府はこの街に軍を派遣しておりその軍が1週間後に来るらしい。
「それでギルドも募集をかけていたということですか。」
「そう、反乱軍はともかくモニク軍は共通の敵であることには変わりないから。」
このモニク軍を利用したいところだ。モニク軍がリーブルを攻めるつもりがあるのなら良いが、もし反乱軍と裏で繋がっている場合には軍が駐留することになり、作戦に支障が出る。そこら辺をうまくやるのが生見なのだろうが、囚われている以上任務はうまくいかないだろう。
「そうですか。分かりました。ありがとうございました。」
「それで参加はしてくれるの。」
「僕は1人ではないため、シェイラと相談して決めます。すみません。」
こういう時には話をごまかせるからよい。1人だとあの場で答えを求められるから苦しい。
「早く決めてね。ギルド側も政府に戦力の話をするから。」
俺は外に出た。さて、どうするかな。




