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反乱軍総帥


「さて、ではどうする。」

「今日はここで失礼します。」

「そうね。じゃあ、また縁があったら会いましょう。」


 俺たちは少し歩いていた。何か少し街が騒がしいような気がする。…、憲兵が多いな。何か賊でも出たか。


「おう、帰ってきたか。カツナリ。」

「はい。何か騒がしいのですが。」

「反乱軍の頭目が現れたということでな。この街の憲兵は大忙しだ。」

「この街にですか。」

「いや、別の街だ。普通は一斉に蜂起するからな。それでだろう。お前も任務で疲れているから休むといい。」


 俺は親父に頭を下げて部屋に戻った。もちろん、シェイラも一緒だ。ドアの前に立ったが、誰かがいる気配がする。


「カツナリ、少し下がっていて。」


 俺はすぐにドアから離れてシェイラからも離れた。2人が同時に奇襲を受けるのを防ぐためである。

 シェイラがドアを開けるとほっとした空気が流れた。


「カツナリ、マイルズよ。」


 俺はシェイラと共に部屋に入った。そこには見知らぬ男が一人。俺と同じ黒髪で雰囲気も日本人のような気がする。


「早く入れ。」


 俺は彼から目を離すことはなかった。彼も俺をずっと見ている。品定めではない。別の何かだ。


「ここにいるのは生見ヌクミ アオイ。反乱軍総司令部、第1軍統帥である。意味が分からんだろうが反乱軍の2番目に偉い方だ。」

「どうしてこんなところに。」

「シェイラは人間をわかっていないな。敵同士も時には仲良くする。それにこの男は君たちの味方になりうる。碧、カツナリとシェイラだ。」

「なるほど、人間のほうがカツナリですね。シェイラさんは少し近いにおいがしますね。」


 彼はこちらに歩いてきて一礼した。


「反乱軍の指揮を執っております生見碧と申します。今回の件は非公式ですのでご容赦いただきたいですが、今のところあなた方に全面的に協力とはいきません。」

「まあ、それはそうでしょう。すぐにというのは。」

「そうではなく、時期の問題です。反乱軍を分ける算段をつけておりますので。」


 それを聞いただけでは意味が分からない。反乱軍が何を目的に動いているのか不明なためだ。目的を明確にしていない場合、反乱軍が瓦解する可能性もある。


「すみませんが、話についていけません。いくつか質問をさせていただきたいのですが。」

「その時間は取れないな。簡単に説明をお願いします。」

「分かりました。では、少しお話を。」

 


拠点はシブランの第2の首都であるコパンにある。反乱軍の構成員はすべてで1万5千人。傭兵や兵士は5千人ほどで他の1万人は商人や貴族である。5年前に組織しているが少しずつ勢力を拡大したものの、3年前に存在がばれ多くの構成員を減らしている。指導者は変わっていないと言われているが実は3年前に死んでおり今の指導者は2代目になる。

このリーブルでは多くの人が行き来するため反乱軍が紛れ込みやすく、また物資を手に入れやすい。しかしながら、最近では魔物が横行しているため商人の数が激減している。その調査のため生見碧が選ばれた。当然ながら彼の立場ではスカウト及び寝返りも視野に入れて行動をしている。

現在では内政に携われるものが多くなってきたが、元々自由である冒険者や傭兵の数が少なく戦力もしくは調査能力が低下していた。今回は薬草を簡単に入手できる俺たちに任務を受けてもらうことと実際に会ってみたいということでこの席を設けているとのこと。


「私たちは今の政治に不満があってこの反乱軍を組織しています。シブランでは貴族社会があり、下の者は上に上がるためにはその貴族を排斥することでしか上に上がることができません。また、その調整をしていた王も最近では…。」

「なるほど。こちらも協力をいたしますが、2人ではそこまでの影響力があるかどうか。」


 彼はにこやかに言った。


「いや、物資を安定的に入手できる人材は稀です。ギルドの話でも優秀であるということはよくわかっています。謙遜する必要もありません。ただ、こちらとして要望をしたいのは私の名前を指名任務で見た場合には優先的に受けていただきたいというところ。それだけです。」


 今の話を聞いてすぐにこちらにというわけではないようだ。彼が言っているように薬草などの薬は大変重宝される。医者はこの国で高級なものであり庶民が手を出せるものではない。いざという時に必要なのは薬草から作られる薬となる。

 草のままであれば日持ちがするがすりつぶしたりすると格段に鮮度が下がり反対の効能になる場合もある。薬屋に薬草の備蓄があれば何かあった場合も簡単に対処できる。あとは手間だけの問題だ。


「こちらに利点が多い話ですね。もちろん、要請には応じます。今まで変わらない任務ですし。」


 生見碧はこちらを見て何かを思ったのか。少し黙った。


「カツナリ。彼には国のことを話している。そこまで、慎重にならなくてもいい。」

「申し訳ございません。少し試させていただきました。」


 マイルズの感触では話して大丈夫ということか。


「不安そうですので私の話をしましょう。」


 生見碧は元々モニクという小国の出身。ちなみにモニクはリーブルからわずか20キロぐらいにあるらしい。シブランとしては小国を潰すよりも従属させた方が良いと考え、同盟を結んでいる。モニクもシブランと同じく絶対王政である。


「モニクは良くも悪くも自給自足が成り立っています。私はそんな国が好きではなかったため、出ていきました。孤児ではありますが、元々貴族の生まれらしいです。あったこともないのでわかりませんが。」

「モニクでは一般的なのですか。その貴族が孤児としてというのは。」

「説明が悪かったですね。私の親は私が生まれた頃に流行り病にかかりなくなったと聞いています。もちろん、嘘の可能性はありますが、本当だと思っています。私も色々調べたので。」


 貴族が死んで孤児になることは書物を読んで知っているが実際にそのようになった人にはあったことがない。孤児というのも日本ではそこまでの数がいないため馴染みが少ない。

貴族社会も日本では崩壊をしているため、今では貴族という者はいない。既得権益の政治家などがいるが、それはあくまでも一部だ。


「そこについては大丈夫です。問題は動物の国に仕えるというのが大丈夫かということです。私は迷い人としてアージニアという国を興そうとしていますが、実際のところ時間がかかります。まずは食料の完全自給自足を行ってというところから始まります。人間と生活の形態や食糧事情も異なるので人間の国とつながりがあるのは正直にいうと助かります。」

「そこまで話をしてもいいのですか。」

「あなた方は戦力が足りないでしょう。1万人が非戦闘員であれば戦いになった時に守る人間のほうが多く戦いどころではない。でしたら私たちの国を当てにしなくてはいけないでしょう。少なくともモニクやユノオスなどに頼るよりは占領した後の話が簡単になる。」


 戦後に待っているのは戦後処理。反乱軍は短期決戦でなければ戦力が低下していく。正規軍ではないため民衆の支持も得るのが難しいし、食料などにも気を遣う。そんな中で戦うのは危険を伴う。


「おっしゃる通りです。我々は占領したいわけではなく、現政権が嫌なだけなのです。民衆も今は従っていますが、今後は変わってきます。この街にもその被害は出ています。」

「それは何ですか。」

「物資の配給ですよ。商人の往来が少なくなったのはそこから始まっています。特に軍事関係の物資が届いていません。中央の人間は3か月に一回保存がきく食料を配給すれば問題ないと思っているようです。確かにそれでも問題はありませんが、兵士の士気は格段に落ちます。」

「その上に魔物の発生ですか。それではあまり辺鄙には商人は来ないでしょう。旨味が少ない。」


 しかし、そこまでの指示を出すのは何か原因があるのか。確かに軍事費は格段に落とせるだろうが、今後のことを考えれば利点が少なくやる意味もあまりない。それほどまでに財政がひっ迫しているのだろうか。


「中央も何を考えているのか。財政が悪くなっているという話を聞いたことがないし、軍事による防衛力は国の要。費用を削りすぎるのは良くないのだがな。」

「それは王も認識していると思いますが、本当にどうしたのか疑いたくなりました。私も反乱軍をしていますが、前は議会に陳情を出す程度。3年前ぐらいからおかしくなってしまった完全なる反乱軍になっています。」


 マイルズが言った通り、以前は思ったほどでもなかったのだな。そう考えれば中央の人たちが王に何かを行っているもしくは体調がずっと悪いか。


「少しいい。」

「はい。あなたがシェイラさんですね。」


 シェイラはフードを外した。


「やはり、獣人でしたか。道理で前に会った獣人と気配が似ていたわけだ。」

「その獣人は。」

「死にました。私も彼に助けていただいているので違和感はありません。むしろあくどい人間よりはよっぽどましです。」

「名前はわかる。」

「ソルと名乗っていました。」


 シェイラは少し黙って、何かをつぶやいた。


「よく聞こえなかったのですか。」

「どうやって死んだ。」

「私たち反乱軍の人間をすべて逃がし、特攻していきました。私は逃げていたのでその後はわかりませんでしたが、仲間に話を聞いたところ敵兵千人を討ち取って最後は弓矢兵に射られたと聞いています。」


 シェイラは俯いた。


「シェイラ、もしかしてソルという獣人は。」

「うん。婚約した相手。」

「シェイラは少し横なるか。」

「いや、大丈夫。」


 生見碧は少し考えた後、話を始めた。


「シェイラさん、申し訳ありません。気を遣えばよかった。」

「わからないだろうし、別にいい。」


 捕まった彼は生きていたのか。死んだのは仕方のないことだが、千人も討ち取った彼のことを覚えている人間はアージニアに兵を進めてもおかしくない。その恐怖を覚えている以上、兵も進めたくもなる。


「俺はそんな話を聞いていないが、何か情報操作がされていたのか。」

「その可能性は否定できませんが、そもそも不適際ですからね。逃げられたことも含めてですけど、私と彼は牢獄を脱出したので中央の人間は失態を隠そうとしただけだと思います。」

 

 この男は想像以上に壮絶な人生を送っているな。牢獄に送り込まれることなど人生であることではない。


「話は大体わかりました。動物の国に帰って検討しましょう。あなた方が蜂起するのはどれくらいですか。」

「正直わかりませんが、来年には蜂起するでしょう。あまりにも反乱軍に入ってくる人数が多すぎて把握ができていませんから。」


 大丈夫なのだろうか。中には密偵もいるだろうに。


「マイルズはこちらに残ってください。彼との連絡係が必要です。それとどのように体制を整えるのか。協力体制をどのようにするのか。よく吟味する必要があります。」

「それはこちらも同じです。国を1つと協力するということであれば私もここで話すだけでは足りません。ただ、お聞きしたいことがあります。」

「なんでしょうか。」

「動物の国の軍事力はどの程度が教えていただきたい。マイルズには聞いていましたが把握ができていません。」


 それはこちらも答えにくい。俺がそもそもすべてを把握しておらず、対人間に関しては簡単に数値化できるわけではない。この質問自体には当然と思うが。


「あまり嘘を申し上げても意味がないので言いますが、人間の兵力としての数値化が非常に難しい。生見さんが言っておられる懸念はわかるが、計ることができないのが実情です。しかし、先程ソルの話をしておられましたが、そのソルよりも強い獣人が1名います。それが王になります。」

「なるほど。」

「そして数か月前に人間の軍隊を退けています。ここにいるマイルズが率いた軍ですが、総勢何人でしたか。我々は2千ぐらいでしたが。」

「端数を省いて2万五千人だ。もちろん、完全に負けたが。」


 彼は驚いていた。


「これは驚いた。随分強い兵たちを持っていますね。それであれば簡単にモニクは落とせるでしょう。」


 この言葉には驚いた。いかに小国とは言っても国を落とすのであれば話が変わる。兵たち、王族なども必死になって戦うため定石の兵の消耗を考えていては痛い目を見る。しかし、彼はモニクで育っている。その彼が言うのであればそこまで荒唐無稽な話ではないのだろう。


「モニクは徴兵制をとっているため、民兵たちもある程度武器を使用できます。反対に考えれば民兵が守っているということはそこまで軍隊の人数は多くありません。また、士気も高くない。常備の兵は各都市で5百程度、首都の軍隊などを合計しても5千行くかどうか。強さから言えばあなた方の勝ちは揺るぎません。」


 彼が言っていることが本当であればモニクは倒すことができる。ただ、これには他の国からの援軍や支援が来ないことが前提になる。籠城戦になった場合、我々には活路が武力しかなくなる。その武力が通じない場合は消耗戦になるため人数が少ない我々は破れるしかない。


「その時には反乱軍を当てにしてください。中央の人間はこの様子を見ていれば援軍など送ることすらしません。でしたら、あとは反乱軍が蜂起でもすれば援軍を送るまでもないでしょう。反対に援軍を送った場合にはあなた方との挟撃も可能です。どちらにしても勝機があります。反乱軍としてもいざという時に逃げることができるのであれば心強い。もちろん、上層部だけで一般の兵士には黙っておくつもりですが。」


 逃げ場を知っているのは各部隊の隊長で大丈夫だろう。細部までは伝えずそういった場所があるというだけでいい。あまり追いつめてしまうと脱走や投降する可能性が出てくる。


「よし、大体このくらいでいいだろう。時間だ。あとは手紙のやり取りになる。最後の大詰めになるときにはカツナリと反乱軍の大総帥を呼んでいただけるということでいいか。」

「もちろん、大丈夫です。」

「では、俺たちは行く。」

「お前たちはどうする。」

「俺とシェイラは一旦、国へ戻る。各族長へと話をつける必要もある上、方針を再度検討する余地も残している。マイルズはこのままシブランに残り諜報活動をお願いします。報告はいつもと同じ方法で。しかし、重要なものになるので手配の者を変える可能性がある。」

「分かった。本国への説得は任せたぞ。」


 俺たちはこうして会談を終えた。この時が後の統一王と呼ばれる生見碧との出会いであった。


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