ギルドマスター
すべての魔物から魔石を取り出し、魔物を焼いたが魔物が同じように出てくることはなかった。全部で魔物は25体。通常の出現では多くて4体が最高であるという記録が残っているらしい。どちらにしても今回の大量発生は見事に記録が更新されたということだ。嘆かわしいのかそれとも運が悪かったのか、どちらだろうか。
出現が決まっていない以上、今回の出現もありうるということであれば多くの人間に影響を与えるだろう。特に商人などは危険な職業になりうる。この国の証人は馬車での移動を主としているため、魔物が出現すれば馬は怯えて使い物にならないだろう。それこそ、軍用場を使用しない限りは逃げることも難しくなる。
「グリンは峠を越えたな。すぐに気絶したのが良かった。動いていないから出血量が少なかった。しかし、時間が経ちすぎているから何らかの障害が残る場合もある。」
俺とシェイラは少し黙っていた。冒険者と言えど、自分たちのように前線に出ていれば同じようになることを理解したからだ。戦場でも同じことであることは知っている。でも、戦場とは違い少数精鋭であたる冒険者では知人が死ぬのは精神的に堪える。先程、知り合った人間であるとはいえ、情が移ってしまうのは仕方のないことだった。しかし、俺の頭の中ではそれを割り切っている思考もある。以前の俺であれば、そんなことできなかったはずであった。戦場を経験した、冒険者を経験した、そのことで変わっていったのだろうか。
「少し早いが引き返す。キャンプで一夜を明かすつもりだったが、この大量発生をギルドに伝えるとともにグリンを病院に連れて行こう。どちらも早い方がいいからね。」
少しずつピンナの口調が戻ってきた。男のようなしゃべり方だったけどそれが素なのだろう。ピンナは擦り傷程度の怪我はしているが大きな怪我はしていない。俺とシェイラは動く分には問題ないが、魔物に引っかかれている傷が多くある。魔物の量が多すぎて避けることができなかった。
「その前に2人の治療が優先。今のところ魔物の気配はないからね。傷をほっておくと悪化する可能性もあるし、魔物が出てくる可能性もある。」
俺たちは包帯や真水を出して傷の治療を始めた。俺はグリンの様子を少し見ていたが、今は寝ているようだ。少し額に汗が滲んでいるものの呼吸が乱れていることはないし大丈夫そうだ。
「今日はすまなかったね。」
「なぜ。」
「最初の魔物退治がこんな感じになったからね。君たちは大丈夫そうだけど、人の生き死にがかかわると多くの者が精神的に崩れることがある。中には冒険者を辞める者もいるから少し不安だった。」
ピンナは少しうつむきながら話をしていた。昔、何かあったのだろうか。いや、あまり立ち入った話をするのもよくないな。ピンナを見ていると笑顔を見せた。彼女なりに思うところがあるのだろう。
「さて、帰ろうか。2人はグリンを守ることに重きを置いて。魔物が出てきたらすぐに逃げるようにして。」
「「分かりました。」」
こうして帰還することになったが、魔物に襲われることはなかった。
「それは本当なのか。」
現在、髭もじゃの人間と話をしている。長い髭に惑わされるが、服の中にあるはずの筋肉はあまりにも分厚いため服がはちきれそうである。それにこの男はギルドマスターである。見た目から想像はできないけど。
名前はヌーク。人間の中でも上位に位置するほど力の持ち主であるとのこと。これはピンナから聞いたことである。彼女が指導を受けていたのが彼である。そして、今は50を超えていることから前線を退いている。
ピンナは袋の中に入っている魔石をすべて出した。
「この短時間でこの魔石の量であれば本当だろう。しかし、ややこしいことになった。ギルド内でも情報共有も難しい。国に伝えるには情報が少なすぎる。そしてこの街の人間には伝えられない。やれやれ。」
今の情報だけではなかなか伝えられないだろう。他にも発生していないのであれば情報規制をしなければ混乱が続いてそれだけで終わってしまう。
「この件は俺に一任してくれ。少なくとも混乱を避けるためにあらゆることを講じなくては。さて、今回の報酬だが、任務の6倍の金額にする。」
「その中には口止め料も含まれているということですね。」
「そういうことだ、カツナリ。このことは今のところごく少数の人間が知るべきことであり、皆が知るには早すぎる。」
俺はその話を聞いてこのギルドマスターは思ったよりも頭を使っているとわかった。情報を与えるのは良いことだが、今回の特殊な例がどの程度あるか不明な状態で相手側に伝えるのは双方にとって危険となりうる。この異世界で安全が保障されている場所がない以上、今は出すべきではない。
「もちろん、こちらも調査を行う。何かあったら言うが…。そう簡単にはいかないだろうな。」
そうして俺たちはお金を頂きギルドを後にした。




