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王宮の部屋

会議室を出て、俺は熊の執事に連れられている。王宮の廊下を歩く。ところどころに壁に穴が開いている。日が昇っているが人気は少ない。いや、生き物の気配というべきか。ふと、熊の執事を見るが彼に不安の色や哀愁の色は見えない。執事は俺を見ると笑顔になる。少し怖いけど。


「気にしなくてもいいですよ。迷い人殿。我々は自分の国を守るために戦ったのです。人間の人たちに負けはしておりますが、憎しみなどは持ち合わせていません。我々は常に必死に生きており、そこでたまたま弱肉強食の世界で負けてしまったということ。それだけです。それにここの王宮は戦いでの傷ではあるようですが、これは私どもよりも前の住人の際に傷がついたようです。戦いに関しては何も残っていないので調べようがありませんでした。」


 

ここで戦いがあったということは人間がここに住んでいたということだろうか。それにしても動物だからか弱肉強食の考えが徹底されている。ただ、彼らがここに住み始めたときにはその戦いの証拠もないのは不自然だ。少し考えれば、証拠隠滅ということになるが、この王宮丸々の証拠をなくすことになれば、かなりの労力がかかる。それに傷がきれいになっていない時点でうまくいっていない。

少し歩いていると部屋が見えてくる。少し部屋の中を見ればここにも草木が生えている。ただ、この草木の置き方はあらかじめ使うように置かれているものであった。今も彼らは人の生活をしているのではなく、動物としての生き方を全うしているのか。

こちらを見ていた熊の執事は俺の顔を見ながら話しかけてくる。


「あなたには生活しにくいかもしれませんが、我々にとってはこういった形が生活に合うのです。部屋には草木が生えていますが、蚊や虻などは住まない部屋ですので大丈夫かと思います。あくまでも我々が住みやすいようにしているだけですので、変な生き物は入れておりません。ただ、あくまでも動物の主観ですので、人間には害する場合もあります。あまりに見知らぬ物には触れないでください。もちろん、人間が食べる昆虫などに関してはそのまま食べてもらって大丈夫です。一応、今回泊っていただく部屋の虫や動物は私の部下に食べていただきましたので大丈夫ですよ。」


 この話の中で大部分に疑問点があるがここは聞いておいた方がいいのだろう。食べる動物や虫を部屋に置くというのは食べ物を部屋に置くのと同じことなのだろうか。全く判断ができない。その間にも彼の話は続いている。


「服装はそのままのほうがよいでしょうね。人間のあなたには直接触れるとよくない物もありそうです。特に草木で肌を傷つけないように注意してください。我々には罹らない病気でもあなたは罹る可能性がありますから。本来なら湯浴みでも案内をしておきたかったのですが、共同の湯浴みの場となっておりますので、今は入らないほうがいいでしょう。今日、夜に我が王より話をしますのでそのあとの案内いたします。それまではこの部屋にてお休みください。食事はそのあとにいたしますので、もう少々お待ちを。緊急時の場合に備えて部屋の前には1人従者をつけておきますので何かあればお呼びください。では、ごゆっくり。」


すぐに扉を閉められた。こちらの質問は一切受け付けないようなしゃべり方だったが、敵意はなかった。人間という種族を見極めている段階なのだろうか。それとも別の理由があるのか。

部屋を見ればやはり草木は満ちている。しかし、不思議と生を実感することができる。ここまでの作られた自然はもとの世界にはないだろう。今までの人生でここまで自分に生を与えてくれる部屋があっただろうか。近くにあった花を見つめる。確かに生きている。俺は草を見ていた。それは前の世界にもあったヨモギである。手で触れていると草から汁が出てくる。感触や肌触りからこれが現実であることが分かる。少し手狭な動物園のゲージの中に入れられているようだ。


「これは幻想などではないだろう。しかし、俺はどうしてこんなにも落ち着ているのだろうか。絶対に信じてはいけないはずの世界に…。」


 草の中に埋もれているようなベッドを見る。手で感触を確かめるが、家のベッドのようにふかふかではない。地面に草を置いただけの物のようだ。ここで寝るしかないだろう。俺はふと、外を見てみた。ガラス越しに見える世界は少し暗く見えた。俺の意識はそこで途切れてしまった。


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