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初任務といくつかの出会い

 マイルズの話では1か月が一つの目安になる。現状ではマイルズがこちらの国に勧誘をすることが主な手段となっている。俺たちはどこにも手を伸ばすことができないので、まずは任務を通じて知り合いを増やすところから始めることにしたが、そんなに簡単にいくのか不安である。元の世界でこういった場合には情報を元にデータ化し、データを元に確率が大きなところ目掛けて行動を起こす形であった。

 この世界ではそのようなデータはまず存在しない。存在していたとしても国の最高機関にしかないだろう。戸籍もないような状態でどのようにデータ化するのかはわからないが、1つの目標に絞ればできると思われる。


「まずは任務を受けてみよう。」

「そうね。」

「受けてみないことには何もわからない。」


 明日は初めての任務か。少し緊張する。


「何か心配があるの。」

「さすがにな。今回の尾行の件やマイルズのこともあるから。」


 とりあえず明日に備えるか。


「寝るか。」

「うん。」


 俺たちには眠りについた。



 翌朝、目が覚めるとシェイラはすでに起きていて、外を見ていた。


「もう起きたのか。」

「朝は早い。今までもそうだった。」

「そうか。着替えてからご飯にしよう。」


 俺はすぐに着替えを準備した。


「よお。よく眠れたか。」

「はい。」

「朝食は準備してある。昼食はどうする。」

「持っていきます。」

「分かった。リュックを準備している。帰してくれれば問題ない。」


 俺とシェイラは朝食をもらってご飯を食べていた。


「シェイラ、食べることはできそうか。」


 この朝食に入っているのはレタスやキュウリみたいな作物と果物、何の肉かが入っている。俺はシェイラが肉食であるとは聞いていない。もしかしたら肉自体を食べることができないのではないかと思っていた。

 前に聞いた話では子供頃に嫌いなもの、生来に何かあったものは将来食べることができないというのを聞いたことがある。今の動物たちは特に動物になる前の記憶を覚えている。その記憶に引きずられるのであれば、シェイラは食べることはできないと思っていた。


「しかし、食べているな。」

「うん。おいしい。」

「そうか。」

「うん。」


 どうやら関係ないのだろうな。普通の進化の仕方ではなかっただろうから。しかし、本当にどういう原理で人間化したのだろうか。俺はシェイラを見ていたが、無理している様子は見えなかった。


「これを食べたらギルドにいくぞ。」

「うん。」

「弁当は持っていくから安心して大丈夫だ。」

「弁当。」

「食料のことだ。」


 彼女はそれを聞いて納得したようだ。朝食に夢中になっている。俺はため息をつきながらも周りを見ていたが、今朝ご飯を食べる人は少ないようだ。マイルズもここにはいない。いつかは普通に話せるようになれば、時間が経たなければ難しいだろう。

 というよりもこの宿に泊まっている人間はいるのだろうか。今までもあまり人を見たことがないが。


「どうかしたか。」

「いえ、人が少ないなと思って。」

「お前、本当に泊まったことがないんだな。宿っていうのは普通は止まるだけだぞ。飯を食うのが変わっているし、ここの宿も飯を出すのが変わっている。そういう宿だからな。普通の宿よりも少し大変かもしれないぞ。」

「そうか、普通が分かってよかった。」


 この世界での宿は泊まるだけの宿だが、例外として食事を出す宿も貴重ではあるがあるといったところだろうな。しかし、いい宿の泊れたな。本当に良かった。もしかしたら、マイルズが準備してくれたのかもしれないな。


「さて、行くか。」

「おいしかった。また、食べたい。」

「大丈夫だ。半年は食べることができる。」

「やった。」


 こんなに喜んだシェイラは初めてみるな。それだけでもこの町に来たのは良かった。俺たちはリュックを背負ってギルドに向かった。



「任務は掲示板に書いてあります。任務の階級は銅、銀、金、白金になっています。階級はギルドの受付でわかります。あなた方はもちろん、銅になります。大丈夫ですか。」

「任務は何個でも受けることができますか。」

「最高で3つまでです。しかし、薬草の個数や討伐の魔石を持ってくれば任務完了となるためギルドの受付員が判断します。ですので、たくさんの任務を受ける必要はありませんね。」


 なるほど。確かに多く受ける利点はない。では任務を選ぶか。今あるのは木の実の採集と薬草の採集、動物の討伐、大工のお手伝い。家事の手伝いもあるな。本当に何でも屋の印象がついているのだろうな。よく見たら、言葉で表せないような卑猥なものまでもある。


「すまないが、少しどいてもらえるか。」

「すみません。」

「新人か。ここでは見ない顔だな。」

「昨日、登録しました。」

「そうか。ならば、知るはずもないな。」


 彼女は長身で180センチ以上はあるだろう。彼女の背中には大きな大剣がある。


「すまない。挨拶が遅れたな、ピンナという。階級は金だ。ここ最近でようやくなれた。」


 この出会いが後の戦いを左右するなどこの時は両者ともに思ってもみなかった。


「今はソロでギルドにお世話になっているんだ。」

「そうですか。初めはどういった任務を受けるのがいいのですか。」

「はじめは薬草の任務がいいだろうな。もらえるお金は少ないが、どの薬草でもいいというものもあるからな。内容はこれだ。」


 俺はピンナから紙を受け取った。内容を見ると絵は描いておらず、すべて文字で書いてあった。これでは学のない者は読めないだろうな。


「そうか、君は文字が分からないのか。」

「いえ、読めます。文字で書いているのが驚いただけで。」

「ふむ。君は思ったよりもしっかりとしているようだ。」


 彼女はこちらを見ていた。俺は彼女を見たが袖をつかむシェイラが俺を見ていた。首を振っているようだがどうしたのだろうか。


「さて、いつまでもギルドに居ても仕方ないな。失礼するよ。」

「分かりました。また、会えることを願っています。」

「生きて戻れよ。」


 ピンナの言うことは正しい。彼女が言うように冒険者の死亡率は高い。最初の任務の死亡率は30%であるとギルドの集計で明らかになっているとマイルズから聞いた。薬草の任務を受けなくてもいいのだが、いきなりの町の人の接触をするのは危険だと判断したのだ。マイルズとの会話が一般常識である俺にとって町の人との会話が成り立つとは思えない。

 できるだけ目立たないように任務をする必要がある。薬草任務であればそこまで目立つことはあるまい。


「カツナリ、彼女から変な匂いがした。」

「それは香水の匂いではないのか。」

「香水ってなに。」

「匂いをつける液体だ。」

「う~ん、そうだったのかな。」


 シェイラは少し迷っているけど、俺は任務を受けることにしようと思っている。


「薬草の任務を受けるの。」

「ああ、その方がいいかと思っている。」

「でも、私は剣を使ってみたいのだけど。」

「それは次の任務にしよう。いきなりは難しいぞ。練習もしていないし。」

「昨日の夜にしたけど。」


 なかなか勤勉じゃないか。しかし、危険だ。仲間が少ない中、シェイラまでも危険にさらすわけにはいかない。


「今回は遠慮してくれ。魔物の存在も確認している以上、動物の討伐も危険である可能性が高い。だから今は危険だ。情報を集めてからでも悪くない。次回の任務で動物の討伐任務をやろう。」

「…、分かった。」


 しぶしぶであったけど、シェイラは頷いてくれた。


「では、こちらの任務を受けますか。」

「大丈夫です。しかし、なぜここに。」

「受付の人間は情報収集もやっておりますので。」


 では、ギルドの情報はすべて筒抜けか。少し気を付けたほうがいいな。何が障害となるかわからない。ギルド長にはあったことがないが長にも報告が言っているだろう。


「ふふ、頭の良い人は大変ですね。そこまでの深読みはしませんよ。」

「お手柔らかに。それよりも任務のほうを。」

「分かりました。期限は1週間です。この任務では薬草の取り決めはないため、たくさん集めてきてもらったらいいですが、薬草は時価になるため受け取り価格が下がることもあります。」

「集める薬草はこちらにあります。」

「これは…。」


 すぐにはわからん。草原に生えている草を探すのは非常に難しいだろう。俺は素人だ。いかに簡単だと言ってもわかるとは思えなかった。


「あの、草はありますか。」

「本物の薬草ですか。」

「はい。準備できますが。」

「持ってきてください。」


 受付の人はどこかに走っていった。シェイラはいったい何をするのだろうか。


「どうしたんだ、シェイラ。何か考えがあるのか。」

「カツナリが見ていたように見た目では判断できない薬草が多いのが分かった。人間の鼻では判断できない匂いがあるのかと思った。特に薬草は匂いが強いものが多いと聞いたことがある。」


 一体どこで聞いてきたのだろうか。シェイラには人間と会う機会もそんなになかったはずだが。


「おそらく、おじいさんに聞いたのだろうと思う。」


 研究者か。本当に会ってみたかった。


「少しいいかな。」

「誰だ。」

「僕はグリンという。実は最近、父が死んだと聞いていたのだが、それがかなり遠くなんだ。どうやら西の方と聞いていてね。それも動物の多い地域だと聞いたんだ。」


 オーブリーと話し方がよく似ている。しかし、俺にはその父親がこのグリンということか。一体どんな人間でどうして冒険者をしているのか。背は大きくない。160センチぐらいの身長である。筋肉はそれほどついていない。

 しかし、鍛えていないわけではないだろう。体が薄いだけで筋肉が付きにくいだけである。


「ふーん、なんとなく似ていないけどね。」

「そのあなたは人間臭くありませんね。女性の匂いがしないな。」


 シェイラは少しグリンと距離をとる。ギルドの中でシェイラの存在がばれるのはまずい。しかもこの国の人間が異種生物に関してどのように感じるかもわかっていない。


「距離はとらなくてもいいよ。僕はあなたたちを責めることはないから。親父が動物の国には行ったのがこの国から飛ばされた。しかも、護衛もつけずに行ったもんだから僕たちも驚いてね。」

「それはよくわかったが、俺たちに近づいたのは何かあるのか。彼には会ったことないが、皆は感謝をしていた。それで十分ではないか。」


 彼は俺を見た。彼の感情に何があるのかわからない。復讐をするつもりなのか、それとも俺たちを恨んでいるのか。どちらにしても不用意に近づくのは危険だ。しかし、こうも簡単に声を掛けられるものなのか。

 俺は受付の人が戻ってくるのを見ていた。彼女はずいぶんと急いでくるように見える。


「シェイラさん、持ってきましたよ。」

「ありがとうございます。」

「グリンさん、あなた、また新人に絡んでいるんですか。前も注意しましたよね。」

「これで最後にするよ。では、カツナリとシェイラ、また後でな。」


 また後でだと。会う気はない。シェイラはしっかりと草の匂いを嗅いでいる。彼女が少しだけ葉をちぎっているのは見逃したとしても。


「どうだ。」

「大丈夫。」


 シェイラの鼻では嗅ぎ分けができている。これなら草の見分けはシェイラに任せた方がいいだろう。しかし、シェイラは草を千切るのはやめたい方がいいと思うぞ。


「でも、囲まれたのかな。」

「そうなのか。俺には見えないが。」

「様子を伺っているように見えるけど、何をしているのかな。」


 シェイラは何かを話している。俺はその言葉が何語かわからなかった。しかし、魔物か動物か彼らはこちらを見ているようだ。襲うことはないのだろう。動物にしては角があったり、大きな牙が生えていたりと様々な種がいる。兎のような動物はシェイラの言葉に反応して何かをしている。彼らは少し後ろを向いて去っていった。


「どうしたんだ。」

「最近、仲間がおかしいと言っていた。動物の中にへんてこなものが生まれていると。それが何かわからなくて相談に来た。でも、私たちもわからないと言った。」

「彼らは動物か。」

「なんとなく違うように感じた。私たちとは何かが違う。うまくは言えないけど。」


シェイラがこのように思っているのであれば、彼らは魔物である。しかし、魔物と動物が同一語を話すことが信じられない。魔物は動物のように生を受けるのではなく、出現するものであるという認識であった。理由は死体の有無が関係している。死体が出ないということは元々実体がないものとして生まれた可能性が強く、彼らは魔物の体内にある魔石という鉱物で成長するのではないかと仮定していた。

ギルドで聞いた死体が残るという事実が判明したことで俺の考えは違う可能性が出てくる。今回の魔物と動物が会話できるという点も気になる。


「大丈夫、カツナリ。」

「ああ、すまない。少し考えていた。とりあえず戻ろう。籠2つ分取れていればそれなりの収入にはなるだろう。」

「…、そうだね。」

「…。」


 シェイラは遠くの森を見ていた。彼女は元々動物であるため先程の魔物の件が気になるのだろう。しかし、もう少し情報を集めた後に魔物との接触を試みたほうがいいと思われる。人間の俺にとっては危ないことは変わらないのだが。

 俺たちはすぐに帰路についた。


 ギルドに入ると、昨日受付をした女の人がいた。


「すごい量の薬草ね。普通の人間はここまで取ることはできないのだけど。」

「そうですか。シェイラが見つけてくれたので。」

「よかったわね。量が多いから換金までに時間がかかるわ。少しの間、どこかを散策していたら。」

「そうはいってもな。」

「行こう、カツナリ。何かが呼んでいる。」


 何が呼んでいるのだろうか。俺は何かが頭に流れ込んでくるのを感じた。そこに映っていたのはヴァルガの姿だった。


「この姿は。」

「見たのね、カツナリ。」

「では、すぐに。」

「間に合わないよ。私たちは何もできない。だからここで頑張るしかない。」


 ヴァルガの姿は何かと戦っている状況だった。その状況を見て助けに行っても間に合うわけがない。シェイラもそのことに気が付いたのだろう。


「こんな状態では何も集中できない。」

「そうだな。わかった。少し外に出よう。」


俺たちが外に出るとそこには妙な男たちがいた。彼らはいかにも少し良くない筋の人たちのように見えた。俺にとっては初めての体験だ。よくテレビとか漫画で見たことはあったが。実際に見てみると割と怖いものだ。

 その男たちは大きな剣を持っており、いかにも体が大きく筋肉が隆々である。やっぱりその手の人間は異世界でもいるのだと実感してしまった。


「貴様、多くの薬草を持っていたな。」

「それほどありませんが。」

「まあ、そう言わずに話をしようか。」

「行くか。最近は物騒だしな。」

「分かった。」

「おいおい、それはないだろう。」


 シェイラは咄嗟にフードを深くかぶった。主格の男がシェイラの肩を持つ。その手を払いのけたが。


「少し手を怪我したな。薬師にかかるからお金をくれ。」

「…。」


 はあ。ここであったのが運の尽きか。そんなことを考えていたらシェイラは男を投げ捨てていた。よほど、頭に来たのだろうか。予備動作も含めて全く見ることができなかった。


「シェイラ。」

「因縁をつけるこの人たちが悪い。」

「さすがに頭がこうなっては引くことはできんぜ。」


 周りの男4人が剣を抜く。俺ではかなわないがシェイラは簡単に倒すだろう。しかし、ギルドの前での血統は良くないだろうな。この男たちはシェイラの動きが見えたのだろうか。もし、見えていたのであれば喧嘩を買うのもわかるが。


「妙な魔法を使いやがって。」


 やはり三下であったか。間違いなくシェイラに勝つことはできない。屑が集まったところでシェイラには遠く及ばないだろう。俺を標的にすれば違うだろうが。相手は慣れた動きで周りを囲んだ。この作戦は悪手。

 シェイラが囲んだ男たちを1人1人倒していく。


「やるなー。」


 俺は自然と拳を出していた。その拳は相手に止められる。


「君はそうでもないねー。でも、頭も勘もよさそうだね。」


 シェイラは俺の方を見て叫んでいた。


「カツナリ。」


 男は俺と同じように165センチほど、体も細いことから戦士ではないだろう。


「見つかったか。さて、また今度正式に会いに来るよ。」


 その男は路地に消えていった。


「大丈夫。」


 シェイラは俺の体を触っていた。


「大丈夫だが、少しややこしくなりそうだな。」


 俺は大したことではないと思っていたが、本当に大変なことになってしまった。



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