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武器の調達と生活基盤

「カツナリはこの宿で働くの。」

「ああ。いろんな人が止まるから知り合いになることもあるだろう。そうしたら、仲良くなることもある。」


 俺の考えはそこにある。所詮は他人であるから知り合える場所がない。以前の世界のようにSNSなどはない。掲示板などはあるが、信用できない人は片隅に追いやられるだろう。しかも掲示板などは人の目に触れる上に匿名性はない。

 それを考えると仲間を探すのは難しい。だったら、違うところで仲間を探すしかない。本当に簡単のはこのような不特定多数の人間が出入りするところがいい。今はマイルズのような武力に偏っている人がいいが、後のことを考えるとマイルズと俺だけではできないことがある。裏の立役者である文官も育てなくてはいけない。

 動物の場合、気性や性格から文官は難しい。シュウコのような動物は稀であるような気がしている。しかし、動物の中からも文官を出していないとうまく統制が取れなくなるのはわかっている。


「少しずつでもいいから知り合いを増やしていく必要もあるしな。それに体力を保つために初めての時は休みを入れたい。シェイラは大丈夫だろうけど。」

「その時は1人で受けられる任務を受ける。」

「無理はしないようにな。」

「ああ、兄ちゃん、今回の3か月分の宿代をもらっているけど、安くして半年分にするからな。さすがに従業員になるのであれば、その分値引きをしなくてはいけないから。」

「ありがとうございます。」

「で、出かけるのか。」

「はい。」

「そうか。冒険者の死亡率は結構高いからな。任務にもよるだろうが、はじめは近くにしておけよ。」

「ご忠告ありがとうございます。では、行ってきます。」


 俺たちは宿を出てアルエという店に向かった。その間にはいろいろな店があるが、今は行く必要はない。特に本屋に興味があった。いつかは行きたいと思うが、この世界では紙の値段が高い可能性もある。

 俺たちは食べ物屋を見ていた。売れるものがどんなものか。また値段はどのくらいに設定しているのか。俺はその状況を知る必要がある。


「ふむ。こんなものか。」

「カツナリ、印象が少なくない。」

「そうは言ってもな。以前の世界は新鮮な食べ物がいくらでもあったからな。」

「いい世界だったんだね。」

「今考えればな、でも住んでいた時にはそれが当たり前だったけどな。」


 この世界に来て思ったのは食べ物の少なさである。この世界では保存という概念は進んでいるが、大きくは進んでいないように思える。いくつか理由があるが、大きいのは香辛料や塩などであると思っている。海は近くにないため、保存に使うことはしない。香辛料は栽培をしていなくては難しい。あとは気候が分かっていないことも今後の見通しが立たない。


「まあ、なんとなく値段はわかった。武器屋に行こう。」

「そう。私は何となくほしいものがあるけど。」

「食べ物はまた後にするぞ。武器屋でどれくらい滞在をするかわからないから先に行くべきだろう。最悪、宿で食べればいい。」


 俺たちは武器屋に急いだ。



「それでどんな武器を欲しい。」

「まずは短剣が1つ。短剣は俺が使います。隣のシェイラは剣と弓を調整していただきたいです。」

「ふむ。短剣はすぐに準備できる。どんな冒険者も持っているから種類が豊富にある。だが、長剣はそこまで需要がない。ここの街は戦争を生業としている人間が少ない町だ。5種類しかないがその中から選んでくれ。数が出ない分、値段もそこまで高くはない。弓は正直お勧めしない。」

「どうしてです。」

「弓矢が必要だからだ。新人が使うには高価だと思う。とりあえずは剣を鍛えたらどうだ。」

「分かりました。」


 シェイラは長剣を見に行った。店内もそこまで大きくないから大丈夫だろう。


「あとはこれが必要だ。」

「それは短剣のようですが。」

「魔物の肉を剥ぐための剣だ。」

「魔物は消失するのでは。」


 話によると最近は魔物が消失しない個体が出てきているとのことだ。魔物は食べて成長するためできるだけ燃やすなり食べたりしないといけないが、荷物がそこまで持てない場合は魔石だけをとることもある。その時にはこの剣が役に立つとのことである。


「本来なら進めるのはおかしいのだが、現在の状況では持っておいた方がいいと思う。」

「疑ってはいませんが、どうしてかは気になりますね。」

「ああ。でも、何も被害が出ていないからな。そこまでは神経質になっていないけど、ギルドは注意喚起を行っている。魔物が強くなっていくのはさすがに困るからな。」


 確かにそのとおりである。弱い魔物は人間に近づくことはないかもしれないが、その魔物が魔物を食べ続ければ非常に脅威だ。進化の形態を考える必要もあるが、進化よりも後処理をしっかりとすれば問題ない。


「ほう。あの嬢ちゃんはすごいな。この町で長剣をあんなに触れる筋力の人間はいないぞ。」

「そうですか。彼女は個人で修行していたみたいですから。どうやら、あの長剣でいいようですね。」


 俺はとりあえず短剣を1つ、長剣を1つ、魔物の肉を裂く用に短剣を2つ買った。その値段が金貨1枚である。これが高いのか安いのかわからないが、必要経費なので後悔はしていない。


「カツナリ、後ろに兵士がいる。」

「俺たちをつけているのか。」

「分からない。でも、ここまでの道のりは複数あるし、10分以上歩いている。これが偶然。」

「ふむ。とりあえず、路地に入るぞ。少し足を速めろ。」


 俺たちはすぐに左に曲がり兵士を待った。

 兵士はすぐに来た。少し焦った表情が見える。髭を生やしていないのでそこまで年はとっていないのだろう。


「何か用ですか。」

「なぜ、そんなことを聞くのかな。」

「当たり前でしょう。10分以上、つけられたら普通の人は気持ち悪がりますよ。」

「ばれていたのか。それでは隠しても意味はないな。あくまでも尾行をできたらしてくれということだったしね。マイルズのことを知っているかな。」


 なぜ、その名前が出る。マイルズとは接触をしているが、そこまで多くの時間を会っていたわけではない。しかも、マイルズの様子ではここの町に来てからばれていたようには思えなかった。消去法にすれば日本でいうところ公安に近い存在が動いていたことになるが、そこまでのことなのか。


「知っています。彼にはこの町まで送ってもらいました。」

「ほう。」


 彼は俺の方を注意深く観察している。俺は嘘をついていない。マイルズは俺とシェイラをここまで送り届けてくれて冒険者登録を教えてくれた。


「あのマイルズがね…。少し気にはなるが情報と一致するな。どうやって知り合いになったのか。」

「彼が街道沿いを歩いているところを見かけて声を掛けました。」


 これは嘘だ。街道は一緒に行動していたからでたらめでしかない。


「街道というとこの町の先か。」

「はい。」

「彼は怪我をしていたか。」

「分かりませんが、特に怪我をしているように見えませんでした。」

「…。」


 彼は黙り込んでしまった。しかし、彼の顔を見たことあるような気がする。彼の頬には十字の傷がついている。それは不格好ではなくきれいに切れている。ただの傷ではないのだろうか。髪型は短髪。背は170センチぐらい。傷以外は特徴のない顔である。しかし、何か引っかかる。


「すまなかったな。マイルズはこの国では最重要人物だからな。こちらも少し警戒をしていた。君たちは関係ないようだ。もう尾行はしない。許してくれ。」


 彼はそういって俺に袋を投げた。音から考えるとお金だろう。俺たちに対しての謝礼か。謝礼にしてはかなり奮発しているな。


「迷惑をかけた謝礼としてとっておいてくれ。」

「遠慮なくもらいますよ。」

「構わない。」


 俺が袋をとっている間に彼はいなくなっていた。俺には感じなかったが、シェイラは感じただろう。


「彼は素早く身を翻していった。」

「普通の兵士ではないな。」

「彼のような人間に尾行されると人間は気が付かないかもしれない。私でも注意してやっとというところだった。王なら確実に気が付くけどどこにいるのかわからないと思う。」


 実力者相手にも引けを取らないほどの隠密の精度か。しかも、相手は動物だ。並大抵の人間ではない。

 動物ならではの何かで彼が引っかかったのだろう。しかし、困った金になったな。この金をもらうといった以上、受け取らないと相手が勘繰る可能性がある。俺が相手の立場ならばお金に何か細工をする。使わなかったら何か勘づかれるかもしれない。

 冒険者である以上は出費が必要だ。ここでお金を使わないのはおかしいだろう。いや、おかしくないのか。冒険者とてすべての有り金を使うとは限らない。


「どうするの。」

「とりあえず、宿に戻ろう。マイルズに会うのはやめた方がいいだろうな。」

「分かった。でも、少し厄介ね。」

「ああ、本当に厄介だ。普通の兵士だったらよかった。今はやるべきことやろう。とりあえず、任務を受けて様子を見よう。仲間を探すのはゆっくりとしよう。マイルズのこともそうだが、あの男が接触した以上、俺たちを尾行しないというのは嘘だ。監視もつくかもしれない。」

「そこまで暇なの。この町は。」

「違うぞ。マイルズを探している中で俺たちが知っていそうだから監視するんだ。」

「よくわからない。」


 シェイラは元来動物である。動物も監視することはあるだろう。組織で動く動物もいる。しかし、今回のように関係のないかもしれない人の監視や尾行は行わない。俺たち人間の行動にはわからないことが多いだろうな。


「その話も含めて後にしよう。」


 俺たちは宿に戻ることにした。



「おう、随分早かったな。嬢ちゃんは長剣を買ったのか。似合っているが、この町では珍しいな。」

「ええ、思ったよりも早く決まったので。先程、武器屋で聞いたのですが、魔物の話は本当ですか。」

「ああ、俺は今でこそ宿をやっているが、昔は冒険者だったからな。その時に魔物の討伐もやっている。その時にはしっかりと消えていたからな。今がおかしいのか、昔がおかしいのか。魔物の研究している人も答えが出せていないらしい。簡単にわかりそうなことだけどな。」

「そうですか。」


 魔物の死体が残るようになったのは魔物の存在意義に何か変化があったのでないかと思っていた。読んできた小説の中にはそのような記述があった。あくまでも作り物だからあまり気にしないほうがいいのかもしれない。


「だが、魔物は魔物を食べて強くなっていくからな。死体は素早く燃やないといけないだろうな。火で燃やすとは言っても火で魔物が寄ってくることもあるからなかなか難しいとは思う。」


 そうか。動物と違って魔物は火でも逃げないのか。少し厄介だな。


「そんな状況だから魔物討伐はしばらく受けないほうがいいぞ。気が付いたら魔物に囲まれていましたというのじゃ話にならないからな。」

「そうですね。できるだけ受けないようにします。」

「ああ、そうしろ。それでこれからどうするんだ。」

「今日は休みますし、彼女とも話すことがありますので。」

「分かった。そういえば、夜と朝の飯はいるのか。」

「はい。お願いします。」

「金額はいくらになりますか。」

「半年分ということか。」

「はい。」

「じゃあ、金貨8枚でどうだ。必要な時には週3回までなら弁当を出してやれる。カツナリは賄を食べることもあるから1週間は全部ここの食事にすれば半年間は生きていけるぞ。」


 正直助かった。金銭面での不安がある中で勧誘活動を行うのは心身共に疲れる可能性が高い。まずは1か月生活をしてみるところと任務の状況、そしてマイルズの状況によるだろう。俺は2人分の金貨20枚を支払った。あと4枚はシェイラの補填分である。

 俺は宿の部屋に戻り、今までの情報を整理することにした。


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