意外な職業
部屋を出ると先程の列の冒険者はすべていなくなっていた。判定に時間がかかっていたからか。すでに午前はこの登録だけで時間が終わってしまった。
「シェイラさんはもう少し時間がかかるでしょう。少しお待ちの間にパーティの名前を考えておいてください。」
「名前。」
「はい。名前がないままだと任務する際に手続きが多くなります。そのため、すぐにでもつけていただけると助かります。」
「分かりました。」
俺は近くの机に座った。他の冒険者も自由に座っているから大丈夫なのだろう。名前はそこまで思い入れなどもないし、どうしたものか。少しの間、目を閉じることにした。視覚から変な情報を入れてしまうと思考が遮断されてしまう。
数分後、俺は名前を決めた。しかし、1人の冒険者が俺を見ていた。女性のようだが俺に何か用事か。いや、たまたま俺を見ているだけだ。冒険者になりたての時に問題を起こしたくはない。様々な作品で最初に何か起こるのは必須だが、事件を起こしたいわけではない。俺は彼女と目を逸らしカウンターを見つめることにした。
数10分後、シェイラが出てきた。長いのか短いのか。
シェイラはそのままこちらに向かってきた。
「カツナリも終わったの。」
「ああ。しかし、思ったより時間がかかってしまったな。今日は装備を整えて終わるとするか。とりあえず名前の登録してくる。」
「名前。」
「パーティの名前だ。名前は動物の使者とすることにした。間違ってはいないしな。どうだ。」
「私は大丈夫だけど、素性がばれないかな。」
「ばれることはないと思う。ここにいること自体も知らないだろうからな。」
俺たちがここにいることも動物の国があることも知られていない自信があった。ここまでの情報規制をかけているのであれば簡単に情報が露呈することは国にとっては痛手になるはずだ。
「お互いの特性を話して今後の任務の受け方を考えよう。」
「分かった。」
このやり取りの間にも女性の視線が途切れることはなかった。俺たちはパーティの名前を告げてギルドを出た。
「さっきの人知り合い。」
「知り合いの訳がないだろう。この世界に来てまだ3週間ぐらいしかたっていないし、人間に会ったのはマイルズが最初だぞ。どうやって知り合える。」
「確かにそうだけど、彼女が見ていたのは私ではなくあなただった。」
シェイラが二の腕をつねる。
「痛いな。何をするんだ。」
「なんとなく。腹が立ったから。」
シェイラはそっぽを向いた。シェイラには会うわけがないと言ったが、本当にないかと言われれば否定をしなくてはいけない。迷い人が複数人である以上、同時期に迷い人が召喚されていてもおかしくない。ただ、それが日本人であることと俺が知っている人間であることを考えればそれこそかなり低確率だ。ほぼあり得ないが、あり得ないとは言い切れない。
髪型はともかく髪の色は金髪であり、日本人で金髪の人は非常に少ない。そもそも外国人が少ないので絶対数が少ないし、俺に知り合いはいない。
「前の世界でも金髪の知り合いはいないさ。」
いるわけがないのだ。俺の知り合いは。しかし、彼女の目は俺をしっかりと見ていた。何を考えているのかわからないが、この町を基盤にする以上、今は自重しなくてはいけない。間違っても目立つ行動がいいわけではない。
俺はそう自分に言い聞かせた。
俺たちは宿に戻り部屋に入った。
「では、今回の鑑定の結果をいうぞ。俺は謀略に適性があるとのことだった。」
「私は弓と剣だけど、弓のほうがより適性が高いと言われた。適性の説明は受けた。受付の人間がカツナリに話すのを忘れたと言っていたけど。」
忘れるなよ。結構、重要だぞ。ゲームなら流すけど。
シェイラに説明をしてもらったところ、適正というのはあくまで伸ばしたらかなり伸びるかもしれない能力とのことで、他の能力も伸びる可能性があるとのことだ。個人差があるため判別が難しいらしいが、少なくとも適性があると言われた能力に関してはその道で成功する可能性が高いとのこと。
「でも、適性が伸びるとも限らないとも言われた。完全じゃないと。」
本人の頑張りや外部的な要因によって伸びなくなることもあり得るからな。時に怪我は良い例だ。スポーツ選手などでも多いからな。この世界の修復可能な程度が不明だが、できるだけお世話にならないようにしなければならないな。
「俺は頭の方だからすぐに伸びることはないだろう。しかし、俺も任務では働く。それに合わせて装備を考えていくか。」
「分かった。では、今から行く。」
「そうしよう。」
俺たちは装備を見に行くことにしたが、場所が分からなかったので、店主に聞くことにした。
「装備か。ここの街には2つある。既製品を売っている武器屋と注文生産の武器屋だ。もちろん、後者が高く準備期間がかかる。とりあえずというのであれば既製品で大丈夫だろう。場所はここで、アルエという名前だ。」
「ありがとうございます。」
「兄ちゃんも冒険者になるのか、ひ弱そうなのにな。」
「ええ、さすがにすぐには職がないもので。」
「そうか。俺たちの宿も店番を募集していたのだがな。」
「やります。冒険者任務の合間でよければ。」
俺は即答した。シェイラも反応することはなかった。もしかしたら、俺の体力を気にしていたのかもしれない。今まで運動をしていないから体力には自信がない。
「まあ、週に2日程度だ。とりあえず、明後日は開けておいてくれ。しかし、いいのか。任務によっては数日帰ってくることはできないと思うのだが。」
「今の体力ではそこまで持たないでしょうから。」
足の傷は完治していたが、まだ動かすには微妙に違和感がある。完治はしてないのだろう。ひどい傷だったからな。
「都合が悪いときは言ってくれ。こちらも君を拘束するつもりはないからな。名前は。」
「カツナリです。」
「分かった。では明後日頼むぞ。」
「はい。」
案外、職ってあるもんだなあ。




