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はじめての街とマイルズの名声

「あれが城門だ。」

「大きいな。」

「大きい。」

「ああ、ここら辺は魔物がたくさん出るからな。人間と同じように考えてはいけないんだ。少しでも大きくしておかないと大型の魔物が出てきたときに防ぐことができなくなる。」


 それこそ元の世界と同じぐらいの城門の大きさだ。ここの世界にそれほどの技術力があるのだろうか。いや、俺はここの技術を元の世界よりも下に見ている。ここの世界を標準に合わせる必要がある。もう一度認識を改めなくては。


「どうやって侵入するのだ。」

「そのままだ。門から行く。こんなところで下手に入ろうとすれば捕まってしまうからな。」


 あくまでも冒険者として俺たちを登録するために来たことにする。このような登録の仕方や冒険者に憧れる若者というのは多いらしい。俺が若者かどうかは置いておく。しかし、この世界は俺が思っている以上に冒険者のような職業が盛んなのか。

 いや、そんな風には思えないがな。この門番の格好を見るには。


「次、早く来い。」


 彼はラフな格好をしている。元の世界の印象で近いと言えば、ジャージに近いが、ジャージとは生地が違う。この世界では麻か。今まではお洒落で来ているような服だが、ここではそれが普通なのだろう。この男の服装は何か下に下着を着てその上にこの麻の服を羽織っている。

 ちなみに俺の服も彼と同じである。元の世界の服は森に置いてきている。この場にはマイルズはおらず、すでに門をくぐっている。マイルズは目立つため、一緒に入ることをしなかった。あくまでも俺とシェイラは潜入だから。


「さて、名前は。」

「カツナリ。」

「そうか。カツナリ、珍しい名前だな。ここには何をしに来たのだ。」

「冒険者登録をしに来た。」

「その体でか。」


 彼は俺の体をじろじろと見ていた。確かに彼ほど鍛えているわけではないが、俺も戦争に参加した身であるから、全く鍛えていないわけではない。


「まあ、命だけは落とさないようにしろよ。じゃあ、次。」


 俺は大きく息を吸った。別に悪いことをしているわけではないが緊張した。シェイラも無事通ったようだ。


「大丈夫だったか。」

「うん。なんか簡単だった。」


 話を聞いただけではそこまで厳しくないのだろう。本当に調べようすれば何時間もかかる上に戸籍台帳との照合も必要になる。この国で戸籍の登録をやっているようには思えない。もしやっているのであれば、マイルズもこの国に入れようとはしなかっただろう。俺たちが別の国の人間かどうかはすぐにばれる。

 しかし、この国の入る人数は多いな。この門だけで数百人はいる。街道沿いには村1つしかなかったのにどうしてこの数の人間がいるのだろう。


「カツナリ、こっちだ。」

「どうして服を俺たちと一緒の服に。」

「馬鹿野郎。ばれるからだろうが。」


 マイルズは俺とシェイラを路地に隠す。


「ここら辺にマイルズさんらしき人がいたと聞いたが。」

「はっ。門番も確認をしております。間違いはないかと。」

「どうして姿を隠しておられたのだろうか。あの戦い以後、何かあったわけでもなく、作戦が開始された様子もない。少なくとも俺たちには報告が来るはず。となれば何か事情があってとのことだろう。」

「しかし、その情報がないのであればどうもできません。今一度陛下に聞いてみますか。」

「聞きたいが今陛下は病床にいる。おいそれとはうかがうわけにもいかぬ。しかも、あそこはあの宰相が守っている。いかに俺たちも立ち入れない。」

「とりあえず、移動しましょう。ここでは目立ちすぎる。」

「そうだな。もう一度門番に見かけたら風貌を教えてくれ。どんな事情かは本人に聞いた方が早いからな。」

「はっ。」


 彼らはシルクハットに赤いマントを着ていた。俺たちの世界ではペテン師で話が通るようだがこの国では違うのだろう。マイルズの額からは汗が止まっていない。しかも、挙動がおかしい。普段のマイルズではこんなことはないはずだが。


「連中も去ったようだ。俺の宿に案内する。お前たちも少し後をつけてこい。俺の部屋は403だ。」


 マイルズは何度も周りを確認してから路地を出ていく。俺たちはマイルズの後に続いた。ちなみにシェイラの格好も俺と同じだが、尻尾の部分は多く布を当ててある。感情の機微によって動く尻尾は麻では透けることがある。それを防ぐためだがやはり動いてしまうらしい。尻尾の動きは訓練してできることではないのだろう。

 俺はこの街を注意深く見ていた。どの建物も木造である。俺が考えていたのはレンガ造りの家や建物だったが、あの皇宮の造りは一般的ではなかったのか。それに人々の表情にも暗いものが見え隠れしている。服装は俺たちと同じで麻のようだ。時々見える気品の高い人は綿を使っている。それでも前の世界よりも良いものではない。どの服もきれいでない。いや、古着感がある。お洒落の古着ではなく、使い古した古着だ。


「この建物か。」


 俺は宿を見上げた。5階建てではあるが、すべて木造で少し怖い。造りは丈夫なのだろうが、すべて木で作っている建物は見たことがない。技術的には作ることができないわけではないだろうが、耐久性に問題があるか、地震が来た時には倒れる危険性がある。


「どうしたの。入らないの。」


 …、元の世界の技術が高かったのだろうな。俺はそのほとんどを知らないが。


「いや、入るさ。ずっとここにいるのも目立つだろうからな。」


 俺は宿の中に入っていった。会談を登っても昔の家みたいに音がすることはない。

403の部屋の扉を叩いた。少し硬い気もするが柔らかい木を使っているようだ。もしかしたら、衝撃を吸収するように作られているのかもしれないな。


「入れ。」


 俺は扉を開けて入った。


「椅子はないが、座ってくれ。」


 俺とシェイラは床に座った。


「少し小声でしゃべるぞ。ここの街では3人で行動できるかと思っていたが俺が甘かった。この状況では3人で行動するのは危険だ。もし、敵に行動がばれた場合に逃げることも出来なくなってしまう。俺が考えているのは草という組織と共に動物の国に行ってくれる人間を探す予定だ。」

「草という組織が本当に存在するとは思わなかった。組織するにはかなりの時間がかかるはずだが。」

「そこは裏の手筋を使う。俺はもともと、この国の貴族ではなく生粋の軍部の人間だ。軍部にはいくつかの派閥がある中で俺が入っている派閥が一番少ない。理由はわかるか。」

「外国の人間が多いからだろう。」

「その通りだ。派閥の中にはこの国から出たいというやつもいる。彼らは残念ながら上に上がる道はないので、そのように考えてしまうわけだ。」

「待って。草という組織について教えてほしい。」


 草という組織は専門用語であるとされているがあまり良い表現ではない。草は相手の国に対する反抗勢力を組織させて、味方が攻め入るときに内通を行う組織である。それだけを聞けば寝返りと同じようにとらえられるが全く違う。草の場合、内通者には援助を行う。組織の段階から援助を行って様々なものを取り込むがその際に重要なのは思想である。相手の国を敵視させ、政権を打倒するように仕向けさせることも行う。あくまでも彼らは正義の行いをするわけであって、これが始末に負えないという有様になる。基本的に優秀な人間が組織することが多いので暴走することは稀であるが、暴走した際にはこちらが援助を申し出る形で攻め入ることがある。

 

「普通は草を組織するのに2・3年はかかる。組織から始めるのだからいかに軍資金があったとしてもそう簡単に作ることはできない。今回、マイルズはもともとの組織を別の目的意識を植えることによって草を創ろうとしているのだ。一から作るよりは簡単だが、手段を間違うとマイルズの立場は危うくなる。また、相手の密偵がいないことを確認しないといけないからな。こちらもすぐにはできないだろう。」


 シェイラは満足したのか頷く。


「では話を戻すか。上に上がることができないのはいくつかあって、生まれと派閥、現在の役職の3つがある。生まれと派閥はわかるだろうから除くとして、役職は重要だ。」

「そんなに重要ではないと思えるが。」

「そうでもない。今は戦争が起こる状態ではないから軍人が戦果を挙げることはない。役職では真面目に働いていても少し上に上がって終わりになる。戦果がないため、昔の戦果を持つ者が上に上がっていく。それが今の軍の状況だ。上がつっかえているがやめないからな。ここが簡単にいかないところだ。」


 ならば、今の軍人が役職を上げることはかなり難しいということか。しかし、この異世界でもこういった話はあるのだな。人間の本質を変わらないようだ。


「では、軍人を取り込むということか。」

「うまくいけばいいがな。そう簡単にはいかないだろうな。」


 そもそも打診ができるところがすごいとは思うが、どこまで期待していいのだろうか。国を変えるというのがこの世界で珍しいことでなければ大丈夫かと思うが。


「少し聞きたいのだけど。」

「どうした、シェイラ。」

「私たちの国のことをどこまで教えるの。」

「少ししか教えない。」

「それで来ると思うの。」


 確かに来る気配はなさそうな気がする。しかし、あまり教えるわけにもいかない。相手が敵である以上は。動物の国であることも教えないとなれば話が変わってくる可能性がある。


「だから、この国にとどまってもらうのが一番いいんじゃないかと思って。」

「あくまで寝返りを考えてということか。」


 もし、完全な寝返りということであればマイルズは戻ってくるべきではないということか。


「なるほど。俺があの国に帰らずにこの国で寝返りの形をとるということか。」

「…、そういったことは可能なのか。むしろ、気持ち的にはどうだ。」

「さすがに時間がかかりそうだ。しかし、それでは問題がある。」

「こちらが攻め込む時期か。」

「ああ、俺も戻ってしまったら別の場所にいれば駆けつけることができなくなる。」


 別の場所に人事異動させられる場合は動きが取れなくなるだろうから、自由が利かなくなる。また、指揮権を執れる立場にいれるかどうかもわからない。国としては大損害であるから戦犯として処刑される可能性もある。


「少し危険の度合いが高くないか。」

「今の段階ではな。もう少し情報を集めてからにしよう。すぐに接触するわけでないのだから、1週間後を目途に判断をしよう。長々と情報収集をしても意味がないからな。」

「では、俺たちは冒険者登録をするのか。」

「ああ、ギルドに行けばいいだけだ。試験はないから安心していい。2人とも本名だからばれても問題がない。」

「受付か何かで本名がばれるのか。」

「そういった魔道具がある。まあ、ばれても問題ないこともある。小さな子供なども働いているからな。あくまでも登録するだけのものだと考えてもらって大丈夫だ。」


 元の世界よりもこういったことは便利だな。しかし、これで戸籍登録なども出来そうだが。


「この世界では冒険者だけは管理されている。これは200年前の冒険者の反乱によるものが大きい。」


 話によると200年前に異世界から来た迷い人が暴れた事件があったようだ。すべての国と協力しその冒険者を討ったらしいが、彼の人望もあったらしく、20年間戦いが継続された。この戦いを踏まえて各国の中で共同の声明を発表し、ギルドの情報を管理することを示した。ギルドの内部からは猛烈な反発があったが冒険者全員が傍観していたこともあり、すべて国に情報を提供することになった。

 この事件をきっかけに冒険者という役職は様変わりした。冒険者の役割は文字通り魔物の討伐、傭兵の代行などであったが、そこに家事や農業の代行が加わった。本来は冒険者がやるべきではない仕事も冒険者がやることで冒険者の印象を少しでも好転させようとその時のギルドは考えた。


「そこから冒険者は肩身の狭い思いをしている。あれから200年を経て軟化はしてきているが、冒険者に対する風当たりはまだまだ続いている。少し気を付けろ。中には変な依頼者もいる。」

「分かった。俺たちは行くぞ。」

「一週間後にここに来てくれ。もし、俺が居なければ何かあったということでお前たちは仕事を続けろ。それから1か月して帰ってこなければ国に帰るんだ。」

「マイルズ、お前も気を付けろよ。」

「ああ。」


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