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模擬戦


「これから、新しく我が国に迎えたマイルズとヴァルガの模擬戦を行う。勝負の勝敗はどちらかが戦闘不能になったら終わりです。この戦いは殺し合いではないため、木の棒を使います。お互いよろしいですね。」

「「おう。」」


 彼らは奇しくも以前戦った場所で模擬戦を行っている。彼らは真剣に向き合っている。彼らにはいろいろな思いがあるだろう。実際に戦っており、お互い総大将として軍を率いている。其の上、捕虜になったマイルズ。


「まあ、こんなことになってしまったが。」

「お互いのためです。あなたを主として従うにも私に筋を通す意味でもこの模擬戦は良い機会です。それにあなたになら。」


 そう言ってマイルズは木の棒を見た。


「全力でやることができそうだ。」


 模擬戦は1時間以上続いた。戦いは常にマイルズの優勢で試合は推移していた。いずれはマイルズが勝つだろうと思っていたが、周りの印象は違っていた。そもそもヴァルガの能力を知らない俺が試合の戦況を計れるわけはなかった。少し時間が経つと俺もさすがに状況が分かった。すべての攻撃をヴァルガは簡単に避けていた。それが10分以上も続けばさすがにマイルズも焦るかと思っていた。しかし、彼は黙々と棒を振り続けてヴァルガの動きについていった。

 そのような動きがマイルズも続くわけもなく、汗を滴らせながら棒を振り続けていたが、最後にヴァルガの一振りで力尽きた。最初のほうは周りも冷やかしていたが、最後はただただ皆、マイルズを見ていた。人間の強さを改めて感じたのかもしれない。でも、こんなに強いのは彼だけだろう。こんな人間ばかりでは俺は即殺される。


「どうだ。マイルズと戦ってみて。」

「ああ、身体能力では勝つことができたな。技術では勝てないな。でも今回の模擬戦でいかに武器を使った戦いが有利かよくわかった。俺は力があるから少し重たい武器がいいだろう。武器の確認はマイルズが起きてからにしよう。」

「そうだな…。しかし、マイルズはかなり強かったのだな。」

「ああ、見た限り普通の強さではなかったな。」

「ヴァルガ王、お疲れ様でした。」


 シュウコがこちらに近づいてきた。シュウコも顔が少し赤い。彼も空気にあてられたのかもしないな。とは言っても彼が戦うことはないだろうが。しかし、彼も興奮することがあるのだな。


「ああ、シュウコも少しは戦士となりつつあるな。」

「やめてください。私は文官ですよ。」


 確かにそのとおりである。彼自身には武力がないとは思っていないが、戦うような性格ではないだろう。シュウコが力を発揮するのは後続部隊か補給部隊だろう。今の状態ではシュウコは森の守護部隊だろうけど。


「ヴァルガは強かったのだな。俺も初めて見たよ。」

「遠くから見ていただろう。」


 ヴァルガは空気を読むのも見るのも上手である。それに周りが見えている証明にもなっている。俺よりも周りが見えているかもしれないな。


「マイルズは少し休んでから、出立したほうがいいだろう。」

「しかし、思っている以上にマイルズも強かったな。」

「ああ、今まで一番強い人間だったな。」


 マイルズはクライドに肩を貸してもらって歩いている。あの試合を見た後では今の状態も頷ける。しかし、思った以上に傷は少ない。この体であれば休んだらすぐに出発できるだろう。


「ヴァルガ王、わざわざ稽古をつけていただいてありがとうございます。」

「いや、大丈夫だ。それよりも傷はそこまでないだろうが、体の調子はどうだ。」

「疲れは抜けておりませんが、任務に支障はないでしょう。少なくともここから5日ほどの距離になりますので、実際に任務を行うのはまだ先です。そのころには疲れは抜けております。」

「ふむ。では、正式に出発か。」

「はい。」


「行ってこい。」


ヴァルガはそれだけ言って俺たちを見送った。




「あんなに簡単な見送りよかったのか。」

「いいのさ。彼らは別のことで忙しくなる。俺たちが居たら邪魔になる。」

「カツナリの言う通り。もっと大変なことが起こる。」


 俺は動物たちに思いをはせていた。結局、1週間ほどしか滞在していないが、慣れていくのは人間の特性である。この瞬間から人間の世界に入っていく。異世界に来て一般人を見ていない。軍人はたくさん見たが。

 マイルズは俺の方をじっと見ていた。森の国のことを知りたいのだろう。彼はここにきて日が浅い。情報は喉から手が出るほど欲しいだろう。しかし、彼を完全に信用することはできない。マイルズはまだ間諜の疑いがないわけではない。


「そうか。詳しくは聴かん。俺もそこまで信用されていると思ってはいないからな。でも、いずれは俺を信用するようにしてやる。」

「もちろんだ。俺も疑いたくて疑っているわけではない。人間として対等の立場で歩んでいきたいと思っている。そして、この国を共に大きくしていきたい。」

「私もそこに乗っかる。人間が優位の世界を作らないことが我々の最大の目的。だから、私たちは今よりも前へ進む。」


 そうか。彼らは人間を迫害するわけではないのだな。俺も少し奇妙に感じていたしこりがようやく解けた。ヴァルガやシュウコを見ていればわかるように人間の俺にやさしくする理由もなければ、生かす理由もない。

 彼らは別に人間のことを嫌いなわけではなく、なんとなく嫌な人間がいるだけだ。その感情を本能的に感じているだけだ。好きな人間の感情を芽生えさせれば問題ない。彼らも許容するようになる。


「分かった。まずは仲間を探そう。動物が好きな人間をな。」

「もしくは人間を憎んでいる人間だな。」

「憎んでいる人間は後回しだ。憎んだ人間はゆがんでいることが多い。ゆがんだ感情を動物たちが見たときに人間を信用できるかどうか考えるようになってしまう。人間が無害な動物であることを印象付けるのが大事だ。」


 俺は人間の黒い部分をしている。時には何をやってもやり遂げるやつがいる。この人間が良いことに命を懸ければいいが、別の感情で動いているとき、凶器に変わる可能性がある。しかも、自分は正しいと思っているから手に負えない。


「そうか。ただ、それではなかなかいい人材は手に入らないぞ。」

「分かっている。だから、性格を確認しなければならない。どういった思考や趣味、興味や交友関係、また生まれなどもわかればいい。それらを総合的に判断すればどんな人間か推し量れる。」

「そんな情報まで調べる必要があるのか。」

「俺は今のところ暇なんだ。ゆっくりやるさ。シェイラも手伝ってくれ。」

「もちろん。でも、そんなにうまくいく。」

「うまくいくさ。マイルズって名前はそれなりに有名だぞ。新興の貴族なら挙って俺を取り込もうと必死だ。」


 そこまで貴族に取り込まれるほど人気であれば今の国とはあまりうまくいっていなかったということか。それを考えれば、彼はかなり高位の軍人ということになる。そこまでの人間がわざわざこちらの国に来るだろうかという懸念はある。しかし、彼にも考えがあるのだろう。おそらくは誰かの命が狙われているとか、家族がいるとか、そういったことだろうか。


「俺には家族がいないうえに軍人としてもどこかの派閥に入っていたわけではないからな。軍人は基本、軍人を辞めれば、その国の政治での軍部のところに参入することになる。貴族にとっても軍人の影響力は計り知れないことがあるからな。政治家にとっては俺のような異質なものが切り札になる場合もある。政治家よりも英雄のほうが国民に好かれやすいから、それもあるのだろう。」


 少し意外に思っていた。一部の人間は政治家になる道を用意されているということか。では、あの男はその派閥に属している可能性がある。


「どちらにせよ、国に行けばわかることだ。思った以上に大事になる可能性もある。その場合には完全に別行動になる。俺もすべての人間をだますことができるとは思っていない。しかし、内通していると思わせないような行動をとるつもりだ。」

「しかし、具体的にはどうやる。お前がそこまでの影響力を持っているとするならば、こちらに寝返る意味も分からないし、わざわざ俺たちを選ぶ必要もないのではないか。」

「寂しいことを言うなと言いたいが、それは事実だな。話をするならば、俺は一度国を追われて国に入っているから、正直、よく思っていない連中は多いはずだ。其の上、自国の兵士よりもかなり強く、人望も厚いということであれば誰もいい顔はしないだろう。だが、兵士には好かれているからな。俺の戦いを実際に見ているし、話をしたこともあるから。」


 相手の国がどういう形でマイルズに接触をしてくるのか楽しみだ。今回の戦争の責任を押し付ける可能性もある。

 あとはどれほどの兵士がこちらに寝返る可能性があるのかどうか。


「俺の支持の強さによるが、正直、どんな奴が付いてくるかわからない。俺も元の国を出たときはじい以外誰も連れてこなかったからな。」

「そうか。少し意外だった。俺は何人か連れてきたと思っていたよ。」


 爺さんがいるとは言え、たった一人を国に迎えるというのは普通ない。それを考えれば彼はかなりの実力を見て取れたということか。それほどの兵士であるということか。


「どちらにしても面白いみたいね。人間の国に行くのが楽しみになってきた。」


 シェイラの服はすべての体を隠している。それは小さな産毛が見えないようにするためだ。人間の女性は産毛がない。俺が思っている以上に毛深いのはわかってしまう。彼女がばれないようにするには隠すしかない。


「本当に楽しみだな。でも、気を付けなければ俺たちも捕まってしまう。」

「心配しなくてもいい。そこらへんは考えている。うまくいくかどうかは運もある。あとは流れに任せよう。」


 結構、適当だと思ったが、それぐらいの気持ちでやってもいいはずである。俺たちの目的は侵入し、相手を困らせるわけではない。あくまで、能力の高い人間の登用である。だから、国に侵入するのは入る時であり、それからは聞き込みなどをするだけだ。


「では、行くぞ。時間は少しある。そこまでには気持ちを入れ替えろ。」


 俺たちは人間の国に出発した。


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