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現状把握

「文官が武官に勝つことはほとんどなかろう。すまぬ、言い方が悪かった。戦いの場での話だ。文書を書かせれば文官に敵う者はいない。」


 熊が再度、振り返った。王はしきりに目を動かしている。何かが動いているのだろうか。


「どうやら、引いてもらいましたか。」

「ああ、引いてくれたな。もう少し経過を見るかと思っていたが、迷い人には戦う意思が見られぬ。だからこそ、危険はないと判断したのだろう。」


熊と王が話しているのがかすかに聞こえるが、すべての言葉は拾いきれない。ただ、自分が何者かに見張られていたことは分かった。自分では敵わないほどの強者だろう。


「迷い人よ、さすがにこの距離では話にくい。もう少し近くに寄ってくれ。」


 赤い絨毯を歩きながら王の近くによる。念のため、近くに着いたら片膝をついた。一応、王様であるだろうから。


「いや、片膝をつく必要はないぞ。君は今、どこにも忠誠を誓っていないのだからな。それよりも君はここにどうやって来たのだ?」


 俺は立って姿勢を伸ばし、答えた。王の眼も黄色く光っている。


「いえ、それは全く分かりません。」


頭を上げて王の姿を見た。王の印象としてはライオンを想像していたが、大きな兎である。普通の兎ではなく人型の兎というべきか。兎の王の耳は長く、聴覚がよいのもわかる。しかし、体は兎ではなく、熊よりも大きく足腰も筋肉の隆起が見え、かなり強そうに感じる。実際に強いのだろう。しかし、その強靭な肉体以上に王としての風格があるように感じる。


「ふむ、迷い人がここに来るとは珍しい。本来なら人間の国の近くに落ちるはずだが。あくまで、仮説でしかないが。」

「落ちる…。いや、人間の国があるのですか。迷い人が他にもいるのですか。」

「興味があるのか。」

「さすがにここでは疎外感があるので。」


兎の王は顎に手をやりながらこちらを見ている。その表情には笑みはない。それよりも俺を見ているのだろう。


「ふむ。それは仕方ないか。我々も人間のことを毛がない者と呼んでいるぐらいだからな。まあ、普通に考えればここでの生活は厳しいか。ただ、人間の国も今は迷い人には興味があるまい。戦いの最中に他人の心配をする王もいないであろう。まずは自国の者を助けてからだ。」


熊の執事が後ろから聞こえる。声の低さで機嫌がよくないのがわかる。人間と比べること自体がそもそも間違っている。


「主様、ここでの生活も悪くもないかと思います。人間の生活を詳しく知らないのでわかりませんが。」


兎の王の顔が破顔する。ただ、圧倒されるほど大きいので俺にとってはかなり怖い。


「そうだな。確かに主はここでの生活に慣れておる。ただ、彼がここの生活に順応できるかどうかは別の話だ。実は迷い人についての役割と今までの扱いを教えなくてはいけないと思っていた。しかし、どうも、我々のほうが過剰に反応しているみたいだな。先に我々の仲間に説明を行うことにさせてもらう。申しわけないが、今日はこちらで過ごしてくれ。それに人間の国に行くにしてもここからは随分遠く険しい道のりだ。さすがに迷い人であってもたどり着くには難しい。」


熊の執事が苦言を呈する。彼は俺のほうをみて、それから王のほうを見た。


「主殿、迷い人の話を今すぐに言わなくてはいいことかと思いますが。」

「わかっておらぬ。お主も。こんな時だからこそ彼には言っておかなくてはならぬ。迷い人の君にはつらいかもしれぬがの。」

「なんでしょうか。」

「我々は現在、人間の国と戦争をしているのだ。以前の戦いにて敗北し、そして、我々はこの森に逃げ込んだのだ。心苦しいが負けたものは仕方ない。とりあえず、お主はここに泊まっていくがよい。ああ、私の名前を言っていなかったな。ウァルガという。以後よろしくな。」


俺は人間の国に負けてしまっている兎の王の顔を直視することができなかった。だが、彼らの個体の強さから言えば、人間は敵ではないはずだ。何があって負けたのだろうか。逃げ込んだということは敗北でも壊滅に近い形で敗北したに違いない。そんなところに泊っても大丈夫なのか。


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