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マイルズの提案

 俺は目が覚めた。小屋の周りには資料が散乱している。読むことができない紙を丸めて油に少し浸す。この紙に火をつける。そうすると簡単な蝋燭ができなかったので、俺は薪に火をつけていたので、火に気を付けながら書類を読んでいた。マイルズのじいの友人である研究者の男。彼が本当に調べたいことは何だったのだろうかと思ってのことだった。

 書類は哲学や人文学、化学、物理などもあった。しかし、これらの書類を抜いて多かったのが、生物学である。生物学とは言っても多岐にわたっている。動物の生態や動物の骨格、器官なども見える。彼は思っている以上に生物学を専攻しているようだ。動物の中でも資料として多いのは草食系の動物である。しかし、顕微鏡などは発達していないのだろう。彼の文献には細胞の単位での記述は見られない。


「…。これはいったいなんだ。」



  「動物にはいくつかの進化がある。その進化にはいくつかの過程があり、進化に魔法が作用することがある。これは人間にも当てはまる。魔法を使う人間は老化が遅くなり、その分成長も遅くなるが寿命が3倍ほど伸びる例もある。魔法学の権威であるラール教授はいい例だろう。彼は351歳まで生きていた。どういったことが作用して寿命が延びたのかはわからないが、老化が遅れているとは思っていない。今までは一般的な考え方として老化が遅れるということだったが、そうではなく新たな細胞が作られているのではないかと考えるようになった。理由はいくつかあるが、魔法により肉体の活性化ができる例が良くわかる。この強化魔法と言われる魔法は傷の治りも早くなり、場合によっては昔の古傷も治る可能性がある。その例を考えれば寿命が延びる理由は細胞が作られている可能性があるのは否めない。ただ、この程度の魔法を扱う者でさえ、10万人に1人の割合である。昔は1千人に1人の割合であったから、何かしらの作用によって遺伝が薄まってきていることが分かる。」


 人間を動物としてとらえているのはともかく、魔法が使える人間がいたとは驚いた。俺が読んできたファンタジーのような魔法が使えるのであれば、我々が負けるが、強化程度であれば動物は戦うことができるかもしれない。ただ、どのような人物が強化できるのか、男女比なども調べなくてはいけない。

 それ以上に寿命が延びるというのは良いような悪いようなわからない感じだ。今回のように戦争で死んでしまったらわからないだろうが、あくまでも生きていたらここまでの年齢まで生きることができるということだ。しかし、このような文章が残っているというのはこの話はある程度広まっているのかもしれない。

 10万人に1人とは言え、この話が本当であれば非常に危険だ。


 扉の向こうから扉を叩く音が聞こえた。


「カツナリ、話がある。」

「分かった。」


 扉を開けるとヴァルガは不機嫌な顔をしていた。


「2つ話がある。」

「俺は1つだけだが。では、そちらから話すか。」


ヴァルガはすぐにこちらを見ていた。


「まずはマイルズがこちらに寝返ることを決めたと言っていた。」

「そうか。」

「驚かないな。まあ、こちらに寝返ると言っていたものな。そのあとの話は聞いているか。」

「ああ、あちらから打診があった。俺はその件で話があった。」

「いや、マイルズからは話を聞いていないぞ。何かあったのか。」

「その話ではないのか。俺はその話だと思ったが。」

「違うな。後で話を聞く。別の話だ。人間を食っている動物が出た。数は200ほどだ。虫、鷲族、蛇族、犬馬族の4種族と思われる。彼らをどうするか決めかねているが、マイルズの付近で不穏な雰囲気が流れている。」


 ついに出てしまったか。人間を食べてしまった後を考えればよくないことは確かであったが、実際に表面化するほどのことになるとは思わなかった。人間の肉は雑食であるため独特の味があるかもしれなかった。人間の独特の味を覚えてしまえばすぐに人間を食べたくなってしまうし、人間をそういう目で見るようになってしまう。そうなれば、もう人間と対峙するのは危険になる。


「そうか。本当に人間を食べるとは思っていなかったが、人間の肉には一種の中毒性があるかもしれないというのが当たっていたな。これは対策を練らないといけないことにはなったが、そもそもの話として彼らは人間を食べなくなることはあり得るのか。」

「いや、それはないだろう。」

「では、やることは決まっているな。今後を考えれば、全員を殺す必要がある。」

「そうだな。」


 …王としては迷うところだろう。今回の人間を食べた件は動物として悪いことをしたわけではない。今後、人間を支配することも考えて規律を守れない動物を殺すということになるだろう。規律を守るためには必要なことである。


「分かった。一応、カツナリの意見も聞いておきたかったのだ。これで決まったな。苦渋の決断になるだろうな。カテーナも200の中に含まれている。カテーナはそれなりの力を持っているから殺すのは惜しいが仕方ない。後もちらほらいるな。」

「そうか。でも、ここでやらなければ、もう人間を支配することはできない。」

「もちろん、分かっている。では、カツナリの話を聞こうか。」


 俺はヴァルガを見ていた。


「人間の国に行くことを提案された。そこで、諜報と寝返り工作を行わないかと言われている。」


 ヴァルガはこちらを見て、口を開けていた。その顔はどこか馬鹿みたいで笑いそうになるが、彼はあきれているのだろう。この話を受けるのは理由があった。

 人間がいないこの国から人間を支配することは可能である。しかし、それでは支配をするための準備が難しい。人間から話を受けるのと動物から話を受けるのでは印象が違う。支配を動物たちがすることが仮定すると支配を教えてもらう人間が居なければうまくいかない。

 その上、今は俺がすべて指示を出して戦術を行っていたが、今後の展開や戦術の形ではせめて自分で考えられる副官が欲しい。マイルズがこちらに寝返ることを前提としても、森の守護者がいる。また、相手の国に攻めることを考えれば、圧倒的に人数が足りない。


「ヴァルガが思うところもあると思うが、今回の戦いで限界を感じていた。俺が1人で指示を出すのには限界がある。奇襲部隊も今回はうまくいったが、本来は奇襲を感じた時点で引かなくてはならなかった。その上で、情報を照らし合わせたら、最初の兵站は囮であったことが分かったはずだった。確かにもしもの話ではあるが、その間に多くの兵士が死んでしまっては意味がない。」

「カツナリが言っていることはわかるが今からでないといけないのか。さすがにカツナリがここを離れるのは考えていなかったからな。しかし、この時期というのは。」

「…、何かあったのか。」


 俺はヴァルガの表情を見て、何かあったのだと感じた。大体のことは動物たちで片付けられるはずだ。もし、問題を解決できない話であれば、俺が何かできるとも思えない。


「うむ。カツナリは戦争が終了した後、人間を食べることがないように厳命したと思うが、複数の族の者が実際に食べてしまったそうだ。」

「そうか。完璧に統制するのは無理だろうとは思っていたが。どのくらいの数だ。」

「200を超えている。中にはカテーナみたいな副長のような位の者もいる。」

「…。」


 ついに人間を食べて事態が悪化してしまった。人間には独特の匂いや味がする可能性があった。これは雑食ならではの話だったが、実際に人間を食べる動物が増えてしまっては人間の世界へ侵攻する意味合いが変わってしまう。相手の事情に合わせるわけではないので、相手の国にとっては似たようなものだろうが、俺たちにとっては全く異なる。


「すまない。少し話を聞いてしまった。」

「オーブリー。」

「ヴァルガよ。今回は俺たちで解決する問題だ。人間のカツナリやマイルズが入ってしまっては碌なことにならないと思われる。カツナリの戦術には目を見張るものがあったのは事実だが、今回の動物だけの戦いで発揮できるかはわからない。だから、カツナリは人間の国に侵入させるべきだ。そうして、同志を集めてもらった方がいいだろう。このままではカツナリも動物の中で生きることが難しくなる。一定数の人間は必要だ。いずれは対立するとわかっていても必要だ。」

「しかしだな、今回の戦いは動物内で遺恨の可能性がある以上、カツナリには参加してほしかったのだがな。」

「今後の話もある。まずは動物だけでやるべきだ。ここで勝てなければ、動物に未来はないだろう。」


 オーブリーはそういったものの不安そうな顔をしているのがよくわかる。昆虫とはいえ、表情を見るのが様になってしまった。動物と動物の戦いがどのようなものかわからないが、思っている以上に熾烈なぶつかりあいになるだろう。

 その戦いに俺は必要ない。観戦することは俺にとって経験になるだろう。しかし、それ以上に大切なことは仲間を増やすことである。


「…、オーブリー、あとは頼んだ。俺は人間の国に行ってくる。その中でこの戦いを勝ち抜ける男を選んでくる。」

「ああ、そうしてくれ。俺たちはこのごたごたと食糧難の方法を考える。」

「それは考えているから安心していい。」

「では、正式な日程の調整に入ってくれ。」


 ヴァルガはあきらめたように俺に言った。



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