捕虜との会話
なぜヴァルガが来たのかわからないが、今回は都合がよい。それにここに俺がいると言っていただろうか。動物の勘だろうか。
「まあ、いいところに来てくれた。みんなを一旦、集めてくれ。森の中に何かいる可能性がある。以前、話を聞いた動物がいる可能性がある。」
ヴァルガは少し顔を変化させていた。以前に何かあったのだろうか。
「そうか。じゃあ、呼び戻すか。しかし、どうして他の動物がいる可能性があると言えるのだ。」
「人間の死体がないからだ。我々の動物も侵入者が居たら、排除するはず。それがあの森でも言える。いくら定住しない動物とは行動範囲があるはず。それを侵されるほどの人間が来たのにも関わらず、動物が出てこなかった。」
「だったらいないのではないか。」
「人間を怖がっている可能性がある。」
昔、人間に痛い目に遭った可能性がある。人間は個人では弱いが、集団で攻めると驚くほどの力を発揮することがある。人間を恐れているということであれば今回の戦いには出てこないだろう。しかし、今は人間がいなくなったので、動物たちを襲う可能性がある。
ただ、このような性格の動物を思い浮かべることができない。肉食系の動物ではあると思うが、体が大きい動物をも倒す動物と言えば何がいるだろうか。今すぐには思いつけないが、何かいたように思う。彼らを倒す動物がいるのであればぜひとも仲間になってほしいものではある。
「無事に帰って来れそうだ。何もなかっただろうな。それにしてはみんな疲れているな。」
それは当たり前だ。あの戦争が一日で終わったと言え、疲労は抜けていない。それに傷の手当てをしただけで休みをせずに捜索に出ているのだ。疲れないほうがおかしい。
それにしてもヴァルガの目の良さには驚く。ここからでも相手の顔が見ているのだろうか。俺には全く見えない。そろそろ森の探索は無事に終わるのだろう。だが、いずれこの先に行くのであれば本当の意味での探索と制圧が必要になる。こんなところに敵が居ては、遠征すらうまくできない。それに森の防衛に兵を割かなければならず、兵士を集めて攻めることすら困難になる。
「何もなくてよかった。しかし、この森は今後、探索をして制圧をする必要があるぞ。それに我々の生活圏を大きくするうえで必要になってくる。その時には大規模な探索と制圧を行う。」
「分かっている。俺たちも今のままで生活してきたが、そろそろ限界が来る。その時にはカツナリの作戦で制圧したいと思っていたが、この森では通用しない。動物には動物の戦い方がある。あくまでカツナリは人間側の作戦になっている。すべてを本能的に察する動物たちでは作戦が通らない可能性も出てくる。そこはよく覚えておけ。」
よく言われていることだが、本当にどういう戦いを行うのだろうか。俺には想像できないが、参加してみたいし実際に見てみたいとも思う。しかし、ヴァルガが言うのだから簡単ではないだろう。だからと言って人間の俺が相手にできないとも思えない。以前の戦いでも武力に頼り切っていたところがあった。数が少ないとは言え、運用を間違えなければもう少し何かできたのではないかと思ってしまう。
今でもあの光景が目に浮かぶ。出てきては消え、出てきては消え、彼らは俺を苦しめている。俺はそっと目を閉じた。
「大丈夫か。カツナリ。」
「…。大丈夫だ。では、一旦、帰ろう。見張りは立てる必要があるが、多くなくていい。そろそろ、ゆっくりしよう。」
「…。そうだな。あと、事後処理と対策が終わった後、話がある。本当に大切な話だ。」
「ああ。楽しみにしているぞ。」
俺たちは戦場を後にした。
俺はある小屋の前に立っていた。そこにはこちらが捕縛している相手の総大将マイルズがいる。俺はある首を持っていた。少し匂うが、そのままの状態で保存されている。本当にこの首で相手をこちら側に引き込めるかわからない。
「そうか。貴様が来たか。」
「ああ、動物よりは人間がいいだろう。」
「それはそうだな。ここで動物が出てきたら、さすがに死を覚悟しなくてはいけないからな。まあ、いい。要件は何だ。」
さすがに雑談などはないか。そもそも雑談するほどの知識も持ち合わせていないから都合はいいが、いきなり重い話を持ってくるも難しい。だが、この男には要件から話をした方がいいのかもしれない。
彼の顔は少しやつれているが、目はしっかりと生きている。肩を少し痛そうにしているが、落馬した時の傷だろう。それ以外に傷はないようだ。腕には何かがはめられている。マイルズを逃がさないようにするためだろうが、彼が逃げるように思わなかった。
「単刀直入に言うが、こちら側に来ないか。」
「本当に単刀直入だな。断るに決まっている。」
「どうして。」
「こちらにうまみが全くない。それにここの動物には仲間を殺されている。簡単にこの感情が消えることはない。」
それは当然のことである。俺自身も同じ立場であったら断るだろうから。こういった感情は簡単に消えることはない。
「それは分かっている。しかしながら、マイルズにその国を守る必要があるのか。」
「それはどういうことだ。」
「ここにある人物の首がある。」
彼に箱を手渡した。箱を開けると彼は表情を変えた。やはり彼に近い人の首であったか。あの感じを見たら、普通の爺さんでないことはよくわかっていた。それに首を飛ばした男もまた普通の男ではなかった。
「じい。」
彼はまっすぐと俺を見ていた。今にも俺を襲ってきそうな目をしている。威圧に俺は少し息をつまらせた。
「この首をとったのは誰だ。その動物を連れてこい。」
「…。それはできない。そこの人間の首を落としたのは別の人間だからだ。もちろん俺ではないぞ。」
「…。」
「心当たりがあるようだな。」
「…。確かにおかしいとは思っていた。この男は俺に幼少期から尽くしてくれた男で武力こそないが部隊の調整役や外交、もしくは今回の遠征の際の情報収集を行っている。情報収集とは言っても比較的安全な場所であることが前提だ。彼が捕まると大変なことになるからな。どちらにしても、別動隊がある程度見ていたところに彼が実際に行ってみたというだけなのに彼だけが死んでいたから、少し妙であったのは確かだ。それに死体もないというおかしなところだったしな。」
彼は箱を横に置くのを見ながら俺は話をつづけた。
「彼にとっては気の毒だったと思うが。」
「ああ、大丈夫だ。戦場では死が蔓延している。彼もその1人になっただけだ。だが、せめて戦場で死にたかったろうな。しかし、よくしてくれてすまなかった。ここまで丁寧に保存するのは大変だっただろう。」
「それは別にいい。本当は聞くべきでないのかもしれないが、彼がなぜ殺されたのか聞いてもいいか。」
「いや、話すべきだろう。おそらくではあるが、この戦争に反対していたからだろう。俺自身にも直訴してきたからな。さすがに俺も怒ったが、それでも彼は強硬に反対をしていた。今はなぜ彼が反対していたのかわからないが、それが原因であるのは確かだ。それに相手も俺の派閥の敵だろうな。」
「そうか、悪かった。」
「いや、戦場ではお互い様だ。」
俺は少しの間、黙った。あの爺さんが何を知っているのか。俺はそれが何か知りたかった。おそらく、俺が思っている以上に大変なことだろう。それに何かを勘違いをしているような気がしてならなかったのだ。この戦争はいったい何だったのかと。
「少し聞きたいのだがな。」
「ああ。」
「どうして、彼らの味方をする。こういっては悪いと思うが、ほとんどの動物が人間をよく思っていないだろう。そんな中で生活するのはかなり大変ではないか。」
「そうだな。あまりよくはない。」
「じゃあ、なぜ。」
「一部の動物ではあるが、親切にされたからだ。」
俺はこの世界に来て助けられたのは人間ではなく動物であった。彼らに親切にされたためここまで来ることができたし、今回の戦いにも参加することができた。競争率が低かったとは言え、人間の世界ではここまでの出世はしていないだろう。人間の世界でも新人は疎まれるから。
しかし、少しは話を聞いてもらえるようにはなったみたいだな。さすがに幼少期から仕えてくれた部下をなくすのは精神的に衝撃が大きいのだろうか。俺はそのような経験がないから正直わからない。
「そうか。確かにそういったのは大事だな。でも、よく死ななかったな。」
「俺もそう思っている。落ちるところが悪かったらそのまま動物に襲われて死んでいた可能性があるからな。運が良かったと思っているよ。」
俺は本当にそう思っていた。本来であれば死んでいた可能性が高いのだ。いかに迷い人が重用されているとは言え、人間であることに変わりはない。
「それでどうする。マイルズの身は俺が今保証しているが、今後も保証できるとは思えない。敵軍の総大将だから強硬派であれば死刑を申し出るはずだ。それに関しては俺も防ぐことができない。むしろ、今が穏便になっているだけだからな。」
「分かっている。しかし、そう簡単に寝返ることもできないのをわかってくれ。」
「もちろんだ。猶予は2日にする。それ以上は待てない。」
「承知した。」
俺はその場を後にした。
ヴァルガとシュウコはこちらに来ていた。彼らとしても相手の寝返りは初めてだから興味があったのだろう。しかし、思っている以上に体力を使うし、相手の思うような待遇でないこともある。寝返り後の援助も大切である。特にこの国では
「どうだ、カツナリ。彼は俺たちに寝返りしそうか。」
「正直わからない。でも、あの首を見てから表情が変わった。どうやら、あちらの国も一枚岩ではないようだ。それにそこまでの忠誠心を感じられなかった。以前何かあったのかもしれないな。まあ、どちらにしても2日間は手出しをさせるなよ。下手に死なせたら相手の国が動くぞ。」
「そこまでのことですか。確かに相手の総大将は彼かもしれませんが、相手の国も見ていないので戦争をするまでのことにはならないと思いますが。」
そんなことはない。彼の派閥が大きかろうが小さかろうが、一定の人間は彼についていくはずだ。それを考えれば個人的な恨みでここに来る可能性はある。これはマイルズがこちらに下ったとしても同じことである。
「以前の国ではそのようなことがあったと聞いている。人間は理性を持っている分、理性を忘れれば非道に走る。それは動物が青ざめるほどだ。だから、今は相手を刺激しないほうがいい。」
俺は思っている以上に相手がこのマイルズを重用している場合には本当に戦争が起こると思っている。人間の感情は制御できる時とできない時がある。俺自身もいつも冷静でいられるわけでない。もう少し苦戦をしていれば俺も冷静ではいられなかった。
「分かった。そうはなりたくないから守ることにしよう。期限は。」
「2日だ。それ以上は待てないと言っている。」
「よし。では2日後にカツナリはマイルズから話を聞いておけ。もし、こちらに降らない場合にはそれ相応の対応をすることを伝えておけ。」
「ああ。それは覚悟の上だと思っているがな。まあ、最後の話に伝えておこう。」
シュウコは少し頭を下げながら、話を聞いていた。
「…。シュウコ、少し話があるのだが、大丈夫か。」
「…、はい。」
「あとでな、シュウコ。カツナリ、頼んだぞ。」
ヴァルガは手を振りながらそう言った。
シュウコはこちらを見ていた。その目には複数の感情が見えた。
「シュウコ、信じてほしいが、シェイラを死地に追い込もうとはしてない。むしろ、俺はあそこが予想外すぎた。戦争に敗れる危険もあった。俺は援軍があるときにシェイラを死地に送ったことを悟ったが、それでも彼女が道を開いてくれたと思っている。」
「…。わかっています。あなたが頑張っていたことは。それにあの時がそれしかできなかったことも。最善であったことも。彼女らに託すしかなかったことも。でも、親としてはあんなことになってほしくはなかった。」
「そうだな。親になったことはないが。シュウコがそう思うのは間違っていないと思う。でも、戦争に行く以上は死ぬこともある。死地に行くこともある。捕虜になることもある。」
だからこそ。
「だからこそ、みんなを守るために戦っているのだろう。」
「そうですね。」
シュウコは何かを感じたようだった。




